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8話 死神



メフィストフェレス様に連れられ、城の中を見て回っている。廊下の先が見えないくらいなので、流石に広い。暫くは1人でさっきの寝室に辿り着ける気がしなかった。



「この城は岩山の頂上に造られ、要塞でもある。さっきの寝室や、執務室、食堂や台所、居間、地下の大書庫があるこの居館パラスは城のほんの一部だ」


「メフィストフェレス様の寝室や、さっきの召使いさんのお部屋も、ここに…?」


「それと俺の部下達のもだ。皆警邏で出回っていて、あまり戻ることもないが。俺の寝室はここではない別棟にある」



暫く歩いて辿り着いた大きくて分厚い、頑丈そうな扉を開けると、外──広場のような所に出た。



「あ、外…」


「正確には城壁の──城の敷地内だ。だからここも自由に行き来して構わない」


「え?良いのですか…?」


「この城全体に結界が張ってある。あの暇人大天使は腐っても大天使ゆえ結界などお構いなしだが、基本俺と、俺の血印を付与された者以外這入ってこれない。お前の寝室には、俺とお前しか入れない特別な結界をこれとは別に張っているがな」



ああ、だからさっき、大天使様は部屋に這入ってこれないと言ったんだ…。



「あの、血印って…?」


「文字通り、血の印だ。俺の眷属であるという証。…お前の胸元にもあるぞ」


「えっ!?」



そう言われてすぐにシャツの中を覗いてみる。自分の胸元には確かに、赤黒い紋様が刻まれていた。円の中に悪魔の六翼と角が描かれている。



「単純な画だが俺の血と魔力で刻んである。皮膚ごと剥がされない限りは落ちないから安心しろ」


「ひ、皮膚ごと…」



聞いただけで痛い…。思わず顔が引きつってしまった。


広場に出ると、そこには井戸と、大きな塔、それよりも小さな塔、狭間と回廊を備えた城壁上部、そして居館とは別の建物が見えた。メフィストフェレス様はまずその建物を指差した。



「あれが別棟だ。先程言った俺の寝室がある。殆ど使わないがな」


「え…?何故ですか?」


「悪魔は別段睡眠が必要ない。本質によって四六時中寝ている奴もいるがな。それに罪の横行は時と場所を選ばない。部下があまり戻らないのもそのせいだ」


「えっ、眠らないのですか?お疲れにならないのですか…?」


「疲労といえば魔力を大量に使った時ぐらいだ。その時は流石に体が動かなくなる。恐らく天使と悪魔の体は全て魔力で出来ているせいだろう。だが普段それほど魔力を消費することはない。この結界や、悪魔を狩る時に使うあの槍を召喚する時ぐらいのものだ」


「で、でもこの結界は常に張ってあるのでは…」


「そうだが、この程度は俺にとってどうということもない。休憩や食事で補える程度だ」



あ、お食事…。睡眠は必要ないけど、お腹はすくんだ…。

そう分かって少し安心した。疲れたままずーっと働いているのかと思ってとても心配になった。



「……安心しろ。仕事量が異常に見えるが、無理はしていない。いざと言う時に使い物にならなければ意味がないからな」



“いざと言う時”とは多分、他の悪魔の叛逆の事なのだろうな…。



「因みに俺の血印を持たぬ者がこの結界に触れると、劫火に焼かれて塵になる」


「………」



メフィストフェレス様は普段優しいけど、楯突く人には本当に容赦ないんだなと思いました。



「あと、あの大きな塔はベルクフリート。今は食料庫だ。以前は収容所でもあったが、いくらあっても足りないので今の即処刑と言う形になったのを機に使わなくなった訳だ」


「さっきのお食事の材料、とか…ですか?そういえば、あの食料って一体どこから…」


「どこから?…ああ、魔界が不毛の大地に見えるのか。まあここからだと赤く乾いた土地しか見えないからな」


「え、じゃあ、どこかに畑とかが…?」


「ああ。ここは大悪魔の城の都ヒルトグレンデンだ。ここからずっと南の方にシュヘリオという街を作った。そこに農作業や繊維業、酪農なども含めてモノづくりしかしたくない変わった悪魔を集めて好きにさせてやった。奴らは作るだけ作ったら満足らしく、欲望のままモノづくりが出来るあの街を作った見返りにそれを城や城下に卸させている」


「も、モノづくりしかしたくない悪魔…罪の顕現がそういう風になることもあるということなんですね…」


「怠惰や強欲、あたりだろうな」



本当に、怖い悪魔ばかりじゃないんだ…。どんな人達なのかちょっと気になった。



「──あとは城壁塔と側塔、外殻塔…要塞としての機能で、今はあまり使っていない。まあ武器庫などもあるな。お前が行くことはあまりない所だ。入っても構わないが、老朽して崩れる可能性がある場所もあるから気をつけろ」


「は、はい」



…すごい。さっきまでは知らないことが多くて、なんだか現実味と言うか、実感がなかったけれど…本当に今日からこの地で、メフィストフェレス様の使い魔として暮らしていくんだと改めて思った。



「──おお、お目覚めですか、使い魔様」


「えっ…?」



広場から城下町を眺めていると、不意に後ろから声が掛かった。使い魔様、とは私のことなのだろうか…振り返ってみてみると、にこやかな笑みを浮かべた、祭服の男性がこちらに歩いてきた。背中には黒い翼がある。



「ルナだ」


「ああ、ルナ様」


「ルナ、こいつは俺の側近でもある死神だ」


「し、死神…?!」


「アシュヴェル=イレイア=ドラクルと申します」



そう言いながら私に向かって恭しく頭を下げた。死神とは、あの死神のことだろうか…?魂を刈り取る、という…。怖いイメージが先行して、思わずたじろいでしまう。



「死神とは、…まあ、殺すことばかり考えすぎて突然変異を起こした悪魔とでも言っておくか。こいつに目をつけられたら、文字通り最期。…戦闘能力だけにおいては俺を超えるかもしれん」


「え、…えっ?」


「狙った獲物は逃さない、ということですね」



にこやかな笑みに殺意や悪意などは感じられないが、メフィストフェレス様より強い…?この人も、すごい人なんだ…。



「よ、宜しくおねがいします…ええと、アシュヴェル様…?」


「おっと。格下に様付けは厳禁ですよ、ルナ様。ここは魔界、上下関係ははっきりさせなくては」


「え…?格下…?」


「言っただろう、お前は俺の使い魔。俺の次に権威ある者だと」


「あ…そ、側近の方よりも…?」


「そうだ」


「どうぞ呼び捨てで。死神でも構いませんよ」



と、言われても…いくら自分が立場的に上であっても、初対面の人を呼び捨てなんて…どうにも気が引ける…。



「あ…え、と…じゃあ、死神さん、で…」


「………」


「………」



メフィストフェレス様とアシュヴェルさんが一気に無言になった。お二人は暫く固まっていたけれど、しょうがない、という風に息を吐いて、



「…まあ、ルナの性格を鑑みるに、今はこれが限界なんだろう」


「ギリギリ及第点ですか」


「…そうだな、ギリギリだな」



…なんとかこれで勘弁してくれるみたいです。



「それでアシュヴェル、後始末は済んだのか」


「はい、先程の叛逆者の首も広場に置いてきました。この任務に関してはこれで完了です」


「ご苦労だった。今のところ急迫の任務はない、休んでおけ」


「あ~、久々に眠れますねぇ」


「死神さんは眠るのですか…?」



先程、そういう本質のものもいるが悪魔は基本的に睡眠は必要ないと言っていた。



「ええ、私は狩りによく魔力を使いますので。自分の移動や刈り取った首を持ち帰るための転送魔法に、一匹残らず始末するための捕縛、攻撃魔法とか…私の愛用する鎌ですとか」



間間にさり気なく穏やかじゃない単語が挟まっていて、つい気が逸れてしまう…。



「こいつの部屋…寝床は悪魔の中でもトップクラスに悪趣味だ。見ないほうが良いぞ」


「え…」


「メフィストフェレス様、それ逆効果でしょう」



そう言われると、気になる…てもきっと多分、本当にすごい、お部屋のような気がする…。見たいけど、見ちゃいけないような気がする…。



「………見てみますか?僕の部屋」



アシュヴェルさんはにやりと笑いそう聞いてきた。










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