初めての戦い
ミリーと俺は緊張の糸を維持しながら、バイト仲間であった、美樹ちゃんと対峙する。
「勇者って、あの勇者なのか?」
俺の頭の中で、剣を掲げて仲間と共に冒険する、RPGの主人公が思い出される。
確かに、某RPGでは女勇者なんてのもいたが、それは所詮ゲームだ。
実際に魔王や魔物なんてものを殺戮していくなんて、普通の感覚で言ったら、ただのバトルマニアか殺人凶だ。
バイト中の優しい笑顔からは、そんな感じは微塵も感じられなかった。
<まさか、勇者が此方の世界にまでやって来れるとはな>
ミリーが、舌打ちをするように言い捨てる。
俺としても、かなりのショックだ。
向こうはどう思っているか知らないが、可愛いバイト仲間と思っていたのに…。
「まさか、美樹ちゃんが勇者だなんて……」
<あの女は勇者でないぞ>
「この娘が勇者?そんなわけないだろ」
「へっ?」
俺の呟きをミリーが否定し、当の美樹ちゃんも否定してくる。
自分のことを『この娘』って、どういうことだ?
俺はミリーを見上げ、1つの仮定が成り立った。
……もしかして、
<お前の想像通り、勇者があの女の意識を奪って操っておる>
俺の考えていたことを肯定するミリー。
(なあ、あの勇者ってのを、美樹ちゃんの体から引き剥がすことは出来ないのか?)
口に出すと相手に警戒されるかも知れないので、思考でミリーに相談する。
<俺様は知らんが、方法はなくもないだろう。検索の魔法で探しといてやる。あの女の作る飯は旨いからな>
確かに、ミリーはバイトの賄いで出た美樹ちゃん飯をえらく気に入っていた。
……もし、美樹ちゃんの作った飯が不味かったらどう反応していたんだと気にならなくもない。でも、ミリーが大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
あとは俺が死ななければ大丈夫そうだ。
「死ね……」
美樹ちゃんの体が動き出す。
戦斧の重さと、体の軽さを活かした斬撃だが、テレポートとフィジカルブーストで上がった動体視力でかわす分には問題ない。
「もうちょっとの辛抱だからな」
俺は今も虚ろな表情のままの美樹ちゃんに、そう呟いた。