諸王国の成立
建国紀元三十八年、ポルタの西門は、十五年前とはずいぶん様子が変わっていた。
門の前には石畳が敷かれ、雨が降っても荷車がぬかるみに車輪を取られることは少なくなった。
通行証を調べる机も新しくなり、書記たちは王国の定めた形式に従って記録をつけていた。
古い商業特許を持つ者は、現在の権利者であることを確認する必要があった。
マティアスは、門の近くの腰掛けに座り、その様子を眺めていた。
彼は数年前に書記を引退していた。足腰が弱くなり、長い時間立っていることが難しくなったからである。
それでも、ときどき西門を訪れた。
若い書記たちは、かつてここで働いていた老人を知っており、邪魔にならない場所に椅子を用意してくれた。
「今日はお元気そうですね」
若い書記が声をかけた。
「そう見えるか」
「ええ」
「それなら、まだしばらく生きられるかもしれんな」
若い書記は笑った。
マティアスは門の外を見た。
東の街道から、荷車が二台近づいてくる。鉄製品を積んでいるようだった。
マティアスは少し身を乗り出した。
「どうしました」
若い書記が尋ねた。
「いや、昔のことを思い出した」
「昔?」
「ここへ、鉄商人が来たことがあってな」
「鉄商人なら、毎日来ますよ」
「そうだな」
マティアスは笑った。
「毎日来る」
荷車は門の前で止まり、商人が通行証を差し出した。
若い書記は証文を受け取り、名前と商売を尋ねた。
マティアスは、その声を聞きながら、十五年前の夏を思い出していた。
灰色の外套を着た男。
古い羊皮紙。
死んだ商人の名前。
あのとき、彼は証文を調べ、相続記録を確かめ、男を通した。
間違ったことをしたとは、今でも思っていない。
だが、その後に起きた事件は、王国の歴史を変えてしまった。
若い書記が商人に証文を返した。
「確認できました。お通りください」
商人は礼を言い、荷車を進めた。
マティアスはその後ろ姿を見送った。
「昔より、ずいぶん手続きが増えたな」
「そうですか?」
若い書記が言った。
「私がここへ来たときには、もうこうでしたから」
「そうだろうな」
マティアスは頷いた。
「そういうものだ」
*
アルベリク一世の治世は、後世の歴史家によって、ケルネリア王国の行政制度が大きく整備された時代と位置づけられている。
初代国王エドリクが諸領邦を統一し、共通の通行制度を設けたのに対し、アルベリクは、その制度を維持するための確認と記録の仕組みを整えた。
この改革は、後世に「ポルタ事件」と呼ばれることになる一連の出来事を直接の契機としていた。
しかし、改革の影響は王国の行政にとどまらなかった。
カレントの戦いを通じて、ケルネリアとエスロディアは、それぞれ軍制を改めた。
両国は互いの戦術と制度を研究し、相手の成功を取り入れ、失敗を避けようとした。
その結果、両国の軍事制度には、しだいに共通する特徴が現れるようになった。
周辺の小領邦もまた、二大国の制度を参考にしながら、自らの統治機構を整えていった。
かつては領主の個人的な権威と古い慣行によって維持されていた政治秩序が、恒常的な行政機関と軍隊、記録制度によって支えられるようになったのである。
後世の歴史家は、この時代を「諸王国の成立」と呼ぶ。
もっとも、当時を生きた人々が、自分たちの時代をそのように理解していたわけではない。
ポルタの書記マティアスにとって、建国紀元二十三年の夏は、古い通行証を持った商人が西門を訪れた、ただそれだけの日だった。
南倉庫の管理人オスカーにとっては、帳簿の数字が合わなくなった日だった。
セヴェルにとっては、王国の制度に初めて重大な欠陥を見つけた日だった。
アルベリクにとっては、父が築いた王国を維持するために、新しい規則を作らなければならなくなった日だった。
そして、ルーデンにとっては、いつもと変わらぬ商売のために、ポルタの門をくぐった日だった。
彼らの誰も、自分たちの行動が後世にどのような意味を持つことになるのかを知らなかった。
ただ、それぞれの立場で、目の前の問題に対処しようとしていたのである。
第一の書【諸王国の成立】終




