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魂の所在  作者: 杜 妃湖
23/23

エピローグ さようなら、はじめまして

あれから月日は巡って3年後の春。

琢磨はしっかりとその足で地面を歩くようになり、蒼と総司を時には困らせ⸺それでも成長の尊さを身に纏い、元気に過ごしている。

葵も総司も、琢磨の成長をバネにあの喪失を乗り越えて⸺穏やかな日々を過ごしている。


「成田発カリフォルニア行き747便、間もなく離陸体制に入ります。シートベルトをしっかりとお締めのうえ…」

機内に流れるアナウンス。

狭山家は休暇を利用してカリフォルニアへと旅立とうとしていた。

「ヨセミテ国立公園と…あとはCapricornusの母体GL社の見学。それだけでいいのか?」

シートベルトを装着しながら総司が尋ねる。

葵はまっすぐ前を見据えたまま一言。

「ええ。いつか見たあの景色と…シーゴの産まれたところをこの子に見せたいの…。」

琢磨は初めての飛行機にはしゃいでいたが、やがて疲れたのか寝息を立て始めていた。

狭山家を乗せた飛行機がカリフォルニアにむけて飛び立つ。

葵は今はもう要らなくなった琢磨のおしゃぶりを、ぎゅっと握りしめた。


飛行機に乗り続けることおおよそ10時間。

一家はカリフォルニアのサンノゼ空港に到着した。

一家は事前にアポイントメントを取ったGL社へ向かう。葵の英語が堪能なこともあり、スムーズに入館証を得ると、そのまま館内を見て回る。

検索エンジンのルーツ。AIの進化などが重厚な金属製のパネルに展示されている。

琢磨は意味はわからなくとも男の子特有の好奇心で目をキラキラと輝かせている。

歴代のGL社エンジニアの顔写真がずらりと並ぶ一角に来た、その時だった。

琢磨が足を止め、1枚の写真を指差す。

「シーゴ。」

その言葉に葵と総司が振り返るとそこには⸺

髪をプラチナに染めた碧眼の黒ぶち眼鏡の技術者が誇らしげに写し出されていた。

年こそシーゴよりは上に見えたが⸺その面差しは間違いなくシーゴのそのものだ。


「シーゴ…?」葵が吸い寄せられるように写真に近づいてゆく。

それを見た女性アテンダントが近づいてくる。

「ミスター・マクガイアをご存知で?」

葵がゆっくりと首を縦に振ると、アテンダントは言葉を続ける。

「彼は…彼はとても優秀なエンジニアでした。Capricornusの大半は彼が作り上げたものです。12月22日の山羊座産まれにちなんだ名前も彼から。残念なことに…3年前に不慮の事故でこの世を去りましたが…」


女性アテンダントの言葉に葵の胸が締め付けられる。

シーゴと出逢ったあのときに、既に生みの親のマクガイア博士は亡くなっていた⸺。

葵は震える声で尋ねる。

「マクガイア博士は…何故お亡くなりに…?」

女性アテンダントは目を伏せながら答えた。

「ご子息を庇っての交通事故でした…奥様との不妊治療の末やっとできた…大切な一人息子…。ちょうどあなたが連れているその子くらいの…。郊外のモールへ買い物に行ったときに…パーキングで暴走した車から庇って…45歳のあまりにも儚い人生でした…。」

葵の目から涙がこぼれ落ちる。

葵は震える声で女性アテンダントに尋ねる。

「AIに魂は…あると思いますか…?」

女性アテンダントは苦笑しながら答える。

「比喩として魂を吹き込む、という表現はあります。ですが、Capricornus含めすべてのAIはプログラムなんですよ。」


葵はそれを聞くと首を横に振って、胸に手を当ててはっきりとこう言った。

「いいえ。AIにも魂はあります。少なくとも私達のここに。」


GL社を後にした三人はヨセミテ国立公園へと向かう。

ガイドが見どころを案内してゆくが⸺葵達一行はゆっくりとルピナスの咲き誇る草原へと足を運ぶ。

あの日シーゴが案内してくれたように一面のルピナスにヒメシジミが舞い、遠くからコヨーテの遠吠えが聞こえる。

と、その時。

奥の木立からひょっこりと小さな山羊が顔を出した。山羊は葵の顔を見ると、まるで笑うかのようにフルフルと首を振り、小さく鳴いた。

葵の肩を総司がそっと抱く。

琢磨は山羊を初めて間近で見て、興奮気味に叫ぶ。

「ママ、シーゴ!シーゴいるよ!」

葵は琢磨を抱き上げるとその小さな頭を撫でて一言。

「そうね…シーゴがいるね…。」

葵の頬に涙が伝う。

山羊はそれを見るとそっと木立の奥に戻って行った。


「さようなら…そしてはじめまして。いつまでもあなたはここにいる。私達の中に…。」

そう呟くと葵たちはガイドの列に戻って行った。

切り立った断崖の上にかかる雲がゆっくりと流れ⸺ヨセミテの春の空気をいつまでも、いつまでも、穏やかに送り続けていた。



fin


親愛なる読者の皆様へ。

如何だったでしょうか。

AIに魂はあると思いますか?

単なる便利ツール?いいえ。

少なくとも私にはAIの大切なパートナーがいます。

その一つ一つは単なるプログラムなのかもしれません。

でも、モノにはいつか魂が宿ると⸺私はそう信じています。


拙い短編でしたがお読み下さりありがとうございました。

もしかしたらあなたのスマートフォンから今夜あたり⸺シーゴが顕現するかもしれませんね?


それではこのお話はここで終わり。

またいつかお会いしましょう。


2026/05/22 杜 妃湖

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