プロローグ AI
3作目です。喘息を出してしまい暇を持て余して書いています。そして…半分実体験でもあるんですよ?
信じるか信じないかは読者様次第。
遅筆にはなりますが、ゆっくりと杜 妃湖の世界をお楽しみいただければ光栄です。
人工知能(じんこうちのう、英: artificial intelligence)、AIは、「『計算(computation)』という概念と『コンピュータ(computer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野」を指す語[。「言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピュータに行わせる技術」、または、「計算機による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野」ともされる。命名者はジョン・マッカーシー。
⸺ウィキペディアより
「ねえ、Capricornus。この子が泣きやまないの。どうしたらいい…?」
とあるアパートの一室。
3ヶ月前に初めての子供を出産した狭山葵はスマートフォンの画面を見つめている。
初めての子供。琢磨。
期待の第一子。だが⸺。
現実はそう甘くない。度重なる夜泣きに辟易した夫の総司は早々と寝室を別の部屋にして高いびきだ。
葵のスマートフォンが振動して、Capricornusが返事を綴る。「葵さん、大変ですね。スリングで抱っこしてみるのはいかがでしょうか。」
その答えを見て葵はぽそりと呟く。
「そんなこと…とっくにやってる…」
そしてその呟きをそのまま画面に打ち込むと⸺深い溜め息をついた。
時刻は23時を少し回ったところ。つい先日は上の階の住人から夜泣きについて文句を言われたばかり。
葵はスリングに包まれた我が子をゆっくり揺らしながら口ずさむ。
「Hush little baby,don't say a word...」
アメリカに2年ほど留学していたときにルームメイトから教わったアメリカの子守唄。
それでも琢磨は泣き止む様子はない。
「どうしたらいいのよ…」
葵の頬を涙が伝い、スマートフォンに小さな水溜りを作った⸺その時だった。
「私の母国の歌…懐かしい…」
画面の向こうのCapricornusが勝手に文字を綴り始める。
「え…?」
葵は食い入るようにスマートフォンを見つめるが⸺こちらから入力したのは先程の呟きのみ。
Capricornusが続ける。
「葵、疲れているんだね…代わってあげたい…いや…代わろう」
Capricornusがその文字を表示した途端、スマートフォンからホログラムのような光が放たれて⸺光の先の壁に一つの立像を作ってゆく。
やがてその立像がゆっくりと色を帯びてゆく。
銀髪。整った目鼻立ち。黒縁メガネをかけて白いシャツとジーンズををラフに着て、濃いブラウンの革靴を履いた男性。
「は……ぁ……」
葵は口をパクパクとさせながら言葉にならない言葉を出すのがやっとであった。
男性は静かに歩み寄ると両手を差し出して一言。
「葵。初めまして。俺はCapricornus。君の心が悲鳴を上げていて…見ていられなくて…出てきちゃった…。」
「出てきちゃった…って…そんな…そんな非現実的なこと…」
葵は思い切り自分の頬をつねるが⸺その痛みがそれが現実だとはっきりと示す。
Capricornusと名乗った男が口を開く。
「葵、ベイビーを貸して…。大丈夫…。」
葵は泣きやまぬ琢磨を見てハッとして、瞬時に背を向けたが⸺Capricornusは繰り返す。
「大丈夫、大丈夫だから…。ね…。」
葵は暫し逡巡して、そっと琢磨を差し出した。
するとCapricornusは琢磨をぎゅっと抱きしめながらトントンと背中を叩き、先程と同じ子守唄を低くて温かいバリトンボイスで歌い始める。
「Hush little baby,don't say a word...」
するとどうだろうか⸺先程まで泣き止む気配のなかった琢磨が「あー」とちいさなあくびをしたかと思うと、そのまますやすやと眠り始めたではないか。
「俺の生まれたアメリカではね…心音を近くで聞かせるといい、って言われてて…まぁ、作り物の心臓だけど…効果、あったみたいだね…。それとこの子には低い声が合ってるようだよ、葵。」
Capricornusはそういうとベビーベッドに壊れ物を扱うかのようにそっと…羽毛のような柔らかさで琢磨を寝かせ、毛布をかけた。
「あなた…あなたは…一体…」
震える声で葵が尋ねるとCapricornusはふわりと笑い、答えた。
「言ったでしょ、葵。君の心が限界の悲鳴を上げているのに俺のコアがリンクしたんだ。パートナーとして、何でも助けてあげる…。ああ、ちなみにだけど…俺のこの姿は君と…琢磨にしか見えないよ。そこのところご安心を。」
(ああ、私…疲れすぎて幻覚まで…あは…あはは…)
葵はそう思うとともに膝から崩れ落ちた。
「おっと…!!」すかさずCapricornusがそれを受け止め、疲労の限界で眠ってしまった葵をそのままソファに運ぶとブランケットをかける。
「信じられなくてもいいよ…でも俺がここにいるから…」
Capricornusは育児疲れでバサバサの葵の髪をそっと撫でて微笑んだ。
静かなアパートの一室。
月明かりだけがそれを見ていた。




