ダレルの人生2
俺の人生が一変してから1ヶ月後の成人の儀はあっという間に訪れた。いつもは服を新調するのだが、忙しすぎて危うく忘れるところだった。アランに言われて、慌てて仕立て屋を呼び、急ピッチで服を作らせた。
俺の好きな紺を基調にした服を選んだ。我ながら良かったと思う。アランからはエマと一緒に選べ、と言われたが、時間もなかったので仕方ないだろう。
俺は自分の服装におかしなところがないことを確認すると、侍従を下がらせた。部屋を出て会場に向かう。
会場の手前に個室があり、王族専用の休憩スペースとなっている。パーティ前には全員がここに集まり、全員一緒に入場するのだ。
俺は扉を守る衛兵に手を挙げ、扉を開けてもらう。
いつもは両親しかおらず、エマを待つのが通例だった。しかし、今日は先にエマが待っていた。
「遅いじゃないか。ダレル」
扉が閉まるなり、父が苦言を呈してきた。
「そんなに遅くないだろ?始まるまでに少し時間がある。それに、エマが遅れてきた時はそんなことを言わなかったじゃないか」
俺はエマに対する態度の差に文句を言う。
「エマはいいが、お前はダメだ。パーティで何をするか、知らないだろう?」
「貴方、もう時間がありません。ダレル。今日はエマの隣にいなさい。余計なことは一言も言わないように。いいですね?」
母の圧に、俺は思わず頷く。
父は母を、俺はエマをエスコートする。エマをエスコートしながら、内心は動揺していた。
こいつ、こんなに色気があったか?と。
俺はドギマギしながら、会場に入る。父の開会の挨拶が終わると、俺はどうしていいかわからなくなるが、両親やエマがその場所を動かないので、俺も習ってその場所を動かなかった。
チラリとエマを見る。化粧は薄いが、その凛とした顔は美しい。その視線を感じたのか、エマと目が合う。俺は慌てて目を逸らす。
「今から新成人の方がご挨拶に来られます。殿下はそのままで」
耳元で囁かれるエマの吐息に、俺の鼓動はペースを上げた。
そうしているうちに、1人目の新成人が壇上に上がってきた。
「国王皇后両陛下、ダレル殿下、エマ様にご挨拶申し上げます。リシャール公爵家次男、ミシェル=リシャールと申します。新成人として、王国の歴史を支えていく所存です」
ミシェルとその父は頭を下げ、母はカテーシーをしたまま、ミシェルが口上を述べる。ダレルは感心した。そして、自分の時のことを思い出し、恥ずかしくなった。
「ダレルだ。よろしく」
同じ12歳とは思えない横柄さ。あのときは新成人がいない貴族も招待されたと記憶している。目の前にいた貴族はどう思っただろうか。
「顔をあげなさい」
父の声で3人は顔を上げる。
「アンドレ、ナタリー。よく教育してくれているな。ミシェルも立派だった。これからが楽しみだな」
「ありがたきお言葉でございます」
父からの言葉に、ホッとした表情の3人。その後、リシャール公爵とミシェルは父と、公爵夫人は母、エマと会話を交わす。リシャール公爵とは顔見知りではあるものの、ほとんど話したことはない。夫人となると余計である。
エマの隣にいた俺は女性陣への話にあまりついていかず、手持ち無沙汰な時間を過ごした。
しばらくすると、一家は再び頭を下げて場を去った。
一息つく間もなく、次の家族が俺たちの前に立つ。
同じようなやり取りが続き、4組目が終わった。
「おい、これはいつまで続くんだ?」
俺は小声でエマに聞いた。
「次で最後です」
エマが即答する。よく知ってるな、と感心する。とにかく、次で最後だと思うと気が楽だ。
父の前に、1人の男の子が元気よく前に出た。頭を下げ、口上を述べる。
「カントナ子爵家長男!ロマン=カントナが!ご挨拶を申し上げます!国王皇后両陛下及びエマ様におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます!」
彼ら以外の爵位は侯爵以上だった。だから子爵家と教育レベルを求めるのは間違いかもしれない。それくらい、礼儀の差はあった。
しかし、それ以上に俺を無視した口上に俺は怒りを感じた。
「おい、俺は!?」
思わず強い口調になってしまったのは、成人の儀が始まってから何も飲み食いせずに立ちっぱなしになっており、しかもろくに会話もしなかった苛立ちもあった。
「あ!殿下もご機嫌麗しゅう存じます!」
しかし、ロマンは俺の苛立ちを気にすることなく、付け加えるように俺に頭を下げた。
「ジャン、それにファニー。ロマンも頭を上げなさい」
3人が頭を挙げると、ロマンはやり切った表情をしていたが、後ろの夫婦は顔色は悪く、汗をダラダラ流していた。
「カントナ子爵領はジャガイモの名産地だったな。今年の収穫はどうだ?」
「はっ!おかげさまで順調に収穫の時期を迎えることができそうです!」
ジャンが応える。
「うむ。ならばよい」
父は俺の予想に反し、ロマンに対する言及はなかった。
よろしければ⭐︎評価をお願いします




