ダレルの人生1
サラとの婚約が叶わなかったパーティの後、俺は父に呼ばれて執務室に入った。父だけかと思ったら、母もその場にいて驚いた。
「よく来たな。今日の余興は興味深かったぞ」
「いや、あれは本気で・・・」
「エマちゃんとの不仲を噂する人もいたから、少し心配してたのよ」
俺の声を母がかき消す。王妃の立場を崩さない母が、エマをそうやって呼ぶということは、かなり親密な仲なのだろうか。
「1年後、お前を王太子として任命する」
父がいきなりそう切り出した。俺は驚きはしなかった。兄弟もいないので当然のことだと思っていた。
「これまで、ワシたちはお前を自由にさせすぎた。まずは半年、お前に王太子としての教育を行う。その上で王太子、ひいては国王の座に相応しいか、ワシが判断する」
「父上が判断って、俺しかいないでしょう?それに、今まで自由でもなかったと思いますが」
「・・・それはおいおいわかる。明日から講師が来るからな。側近のアランと講師のいうことは国王からの命令だと思って聞くように」
「あと、1ヶ月後の成人の儀にはエマちゃんと2人で参加すること。途中で抜けたりしたらダメですよ」
「はぁ」
両親からそれぞれ言いつけられる。俺は気の抜けた返事をし、部屋から出た。
そのままエマの部屋に向かう。両親にだいぶ毒気を抜かれてしまったが、王印を使って憲法を作ったことに関しては文句を言わねばなるまい。
「エマ!俺だ!開けるぞ」
俺は返事を待たずしてエマの部屋のドアを開けた。
中にはネグリジェを見に纏い、髪を下ろしたエマが紅茶のカップを傾けていたところだった。
「ダレル殿下。いくら婚約者とはいえ、女性の部屋に勝手に入らないでください」
俺に対して文句を言ったのは、エマにつけた侍女だ。名前はサリーとか言ったか。
「いいだろう?婚約者なんだから。それよりも、勝手なことをして、どうするつもりだ?そこまで王妃の座に縋りたいのか?」
「マリー、下がりなさい」
俺に言い募りそうな侍女、マリーを下げさせた。
「まず、殿下の質問にお答えしますと、王妃の座に興味はありません。なんなら降りたいくらいですが、それをするとこの王国が崩壊します。そういう意味では、私が王妃の座に座るのがいいと、固執してるとも取れますが」
「何をいう?あんな憲法まで作っておいて」
「お言葉ですが、殿下。仮に私との婚約を破棄し、サラ嬢と新たに婚約を結んだとしましょう。貴方の仕事はどうなりますか?」
「そ、そんなもの、俺がやればいいだろう?」
「そうなりますね。それが国を傾ける、と申しています」
「ど、どういうことだ?」
エマは立ち上がって俺の前に立った。
「わかりませんか?知識も経験もない貴方ができる程度の仕事を、私はやっていません、ということです」
エマは小柄だ。押し倒そうと思えば簡単に押し倒せるだろう。
しかし、俺は目の前に立たれた彼女に対し、思わず後退りそうになった。それくらい、彼女の圧が強かった。
「とにかく、今日は夜も遅いですからお引き取りください。明日から殿下も忙しくなるとお伺いしてますので」
そうして、俺は追い出されるようにエマの部屋を出た。エマの澄ました表情と、彼女とは対照的なマリーの歪んだ表情が印象に残った。
翌日から俺の生活は一変した。講師からの学問、マナー、武術など、ありとあらゆる分野の講習が始まる。分刻みのスケジュールが続く。
朝から夜まで常に監視されているかようだった。風呂から寝るまでの時間が唯一の自由時間だが、課題も与えられているため、全てが自由とも言い難い。
一番精神的な負担が大きかったのが食事の時間だ。これまでは自由に食事を摂っており、多くは一人だった。だが、朝夕は時間を決められ、両親とエマの4人で摂ることになった。
両親とエマは仕事の内容を話しながらも物音は立たない。一方、俺は話の中身も分からなければ、わずかながら物音を立てていた。
その場にはマナー講師もおり、昼食時には指導が入る。3食とも緊張感で食事の味はわからない。
1週間もすると、俺は限界を迎えた。
「アラン。このスケジュールはなんとかならないか」
俺はアランに泣きついた。
「どうにもなりませんね」
アランはそっけない。
「勉強にしろマナーにしろ、遅くても成人から数年後にはマスターしているものです。殿下は勉強はともかく、それ以外に関しては僕以下ですから。1年後の王太子就任までに最低限の知識と技術をつけていただかないといけないので」
アランはそう言って自分の仕事に戻っていった。
よろしければ⭐︎評価をお願いします




