第七十二話 ごめんなさいのお手伝いとバスク子爵家の人々
話し合いも終わり、夕食の時間になったので食堂に移動します。
すると、部屋で寝込んでいた人が食堂に姿を見せていた。
「オリガ、マリリ。良かった、起きられたのね」
「はい、ご心配をおかけしました」
「完調とはいきませんが、動く分には問題ありません」
まだオリガさんとマリリさんは空元気の様だけど、それでもリンさんはホッと胸を撫で下ろしていた。
そして俺はシロとミケの事を探していたのだが、何故か姿を見せていない。
一体シロとミケは、どこに行ったのだろうか?
「はい、皆様お待たせしました」
「ご飯だよ」
「並べるよ」
おや?
俺達を出迎えてくれた侍従と共に、何故かメイド服を着たシロとミケが料理を運んできた。
もしかして、あの侍従が言っていたお手伝いって夕食を運ぶ事なのかな?
シロとミケが侍従と共に一生懸命にお手伝いする姿は、何だかほっこりとするな。
「オリガお姉ちゃん、ごめんなさい」
「マリリお姉ちゃんも、ごめんなさいなの」
「もう大丈夫よ」
「これからは気をつけてね」
「「うん!」」
シロとミケはオリガさんとマリリさんの所に行って、馬車の事でちゃんと謝っていた。
エルシーには先に謝っていたし、シロとミケも元気になった様だ。
「お兄ちゃん、私もお手伝いしたんだよ」
リーフもヒラヒラとテーブルに着地し、両手を上げてアピールしていた。
「お、どんなお手伝いしたんだ?」
「風魔法で、野菜を切ったんなよ」
「そりゃ凄いな」
「えへへ」
俺はリーフの小さな頭を撫でてやった。
魔法を使ったとはいえ、リーフはキチンとお手伝いができていた。
今度、野営の時の料理でリーフにも手伝って貰おうかな。
「あー、リーフだけずるいよ」
「ミケもなでなでして」
「はいはい、お手伝い頑張ったね」
「「えへー」」
「サトーは優しいね」
「そうですね。サトーさんは優しいですね
「ちょっと甘い気もするがのう」
今度は、シロとミケが頭を撫でてときたので、俺は二人の頭を撫でてやった。
外野が何か言っているが、ちゃんとお手伝いしていたしこの位は良いだろう。
そして食事が並べ終わったら、リンさんに似たイケメンと優しそうな中年女性が食堂に入ってきた。
テリー様が立つと、例の侍従も一緒に並んだ。
あれ?
何で、侍従が家族紹介で一緒に並んでいるんだ?
「紹介しよう。嫡男のラルフだ、リンの兄になる」
「後紹介に預かりました、ラルフ・フォン・バスクです。この度は、リンが大変お世話になりました」
すらっとした長身金髪の超イケメンのラルフ様は、俺達に妹が世話になったと頭を下げてきた。
もうこの時点でとっても良い人だと即座にわかった。
「そして、正妻のエーファだ。ラルフの母でもある」
「エーファで御座います。どうぞ宜しくお願いいたします」
次に紹介してくれたのが、正妻のエーファ様だった。
明るい茶髪のロングヘアで、とっても物腰が柔らかい人だ。
そして、今度はあの侍従がテリー様の隣に並んだ。
「側室のサーシャだ。侍従の格好をしているが、これでも貴族家の出身だ」
「サーシャで御座います。そしてリンの母親です。侍従長もしております」
「その、サーシャは昔から家事が得意でな、その上体を動かすのが好きでね。まあ、我が家の為になっているので何も言わんよ」
テリー様も思わず苦笑するけど、まさかあの侍従がリンさんのお母さんだとは。
あれ?
俺以外の人は全く驚いていないけど、もしかしてサーシャ様の事を知らなかったのは俺だけ?
しかもこの後様つけはやめてくれとも言われてしまったので、サーシャさんと呼ぶ事になった。
リンさんの世話好きは、きっとサーシャさんの影響がありそうだ。
「では、早速乾杯をしよう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
家族紹介も終わって、夕食を食べ始めます。
「お兄ちゃん。この野菜、シロが切ったんだよ」
「こっちの野菜は、ミケが切ったんだ」
「そっか、頑張ったんだな」
「えへへ」
サラダの中に不揃いにカットされた野菜があったけど、食べるのには全く問題ない。
俺は、シロとミケの頭を撫でて褒めてやった。
「ビアンカ殿下とエステル殿下は、サーシャさんの事を知っていたんですね」
「私はリンちゃんと学園で同級生だからね。長期休暇の時に泊まりにきたんだ」
「妾もその時に同行したのじゃ。まあ、妾も初めてサーシャを見た時は驚いたぞ」
エステル殿下はともかくとして、ビアンカ殿下もサーシャさんにびっくりしたそうだ。
そりゃ、侍従が実は領主の夫人で貴族出身だとは思わないよね。
色々とあったけど、全体としては和やかな夕食だった。




