第七十話 バスク子爵との面会
応接室に着くと、着替えを終えたリンさんと筋肉ムキムキの茶髪の短髪の中年男性が豪華な服を着て待っていた。
凄いな、男性の肉体が凄すぎて、着ている服がパンパンとなっているぞ。
そして私服に着替えたリンさんを見ると、貴族令嬢というのを認識させられるな。
「皆様、バスク子爵領へようこそ。当主のテリー・フォン・バスクだ。皆様にはリンが大変お世話になった」
そうだろうと思ったけど、筋肉ムキムキの男性はリンさんのお父さんだった。
名前呼びを許して貰ったので、テリー様と呼ぶ事になった。
「嫡男の息子は現在騎士と共に街を巡回中でな、夕食時に皆様に挨拶させよう」
リンさんにお兄さんがいる様なので、夕食時に会う事が楽しみだ。
自己紹介も終わったので、早速会議を始めます。
先ずはビアンカ殿下が、アルス殿下とバルガス様の書簡をテリー様に手渡した。
アルス殿下は、エルテル殿下ではなくビアンカ殿下に書簡を託したんだ。
テリー様は、しばし書簡を眺めていたが、やがてため息と共に書簡をテーブルの上に置いた。
「はあ、まさかこんな事になっていたとは。リンからも報告を貰っていたが、もっと詳細に書かれていた。闇組織に貴族主義派の暴走ですか」
「サトーのお陰で奴らの企みは防がれたが、タイミングが悪ければ奴らの企みが成功する可能性もあった」
「確かにね。魔獣化の薬も持っていたし、かなり用意周到だったよね。サトーの指揮能力がなかったら、もっと苦戦していたわね。お兄ちゃんもサトーの事は褒めていたよ」
「ほほう、サトー殿は、三人の殿下から信頼を寄せられているのですか。公爵様もサトー殿を褒めている記載がありましたし、サトー殿は凄いですな」
「き、恐縮です」
あれ?
何故、話し合いの冒頭から俺の事の褒め合いになっているのですか?
話し合いをしましょう、話し合いを。
「え、えーっと。テリー様、最近領内で気になる事件や事故は起きていますか?」
「ほほ、サトーは全力で話題を変えたいみたいじゃな」
「サトーが照れているよ」
「ほほ、その様ですな」
皆、俺の事をいじっているよ。
褒められる事に耐性がないので、こういうのは案外きついぞ。
「では、話を戻しますか。実は今年に入ってから、神隠し事件が数件起きている」
「神隠し、子どもが拐われているのですか?」
「うむ、その通りになる。昨年は全く起きていなかったので、我らも不思議に思っている」
いきなり、新たな事件の予感がするキーワードが出てきたぞ。
何の為に子どもを誘拐しているのか、とても気になるな。
「直ぐにバルガスとアルス兄上に確認を取ろう。何か情報があるのかもしれんのう」
「子どもをターゲットにするなんて、私も許せないな」
「私も、とっても悲しいです。子どもには何も罪はないのに」
ビアンカ殿下が直ぐに各所へ連絡をしているし、エステル殿下とリンさんも事件に対して憤慨している。
「更には子どもを拐おうとしてそれが家族に見つかり、親などを殺害する事例も何件か起きている」
「かなり強引に、子どもを拐っていますね。犯罪組織が裏にいそうですね」
「うむ、我々もその可能性を探っている。中々奴らの尻尾は掴めんがな」
テリー様もため息をついているが、かなり残虐な事件も起きているとは。
犯罪組織が裏にいる可能性が高く、あの闇組織が絡んでいてもおかしくないな。
「お、お兄様から返信があったぞ。ふむ、確かにバルガス公爵領でも子どもが拐われる事件が起きているという。しかも全て今年に入ってからだという」
「となると、バスク子爵領だけの問題ではないですね。全国的なのかこの一帯だけなのか分かりませんが、関連はありそうです」
神隠し事件は、思ったよりも大きな事件になりそうだ。
ビルドの仲間の行方と共に、この事件も追う事になりそうだ。




