第五十四話 敵の逃走と事件の後始末
バンが完全に沈黙したのを見て、ビルゴは別の行動に出た。
「く、どうやらここまでの様です、な!」
ドーン。
「ぐっ、ビルゴ何をする!」
ビルゴは魔法を使って、無理矢理アルス殿下とエステル殿下から距離を取った。
すると、ビルゴは何かの魔導具を懐から取り出して発動させた。
ビルゴを光の渦が包んでいく。
「くそ、逃げつもりじゃな」
ビアンカ殿下がビルゴを包む光の渦に向けて雷撃を放つが、バリアみたいなものに雷撃が弾かれてしまった。
「ふふふ、昔は転送中は無防備だったが今はちゃんと対策しているのだよ」
「ぐっ、無駄な技術の進化じゃな」
「そう褒めるな」
ビルゴはビアンカ殿下に向けて、不敵に笑っていた。
そして、ビルゴはアルス殿下と俺に向けて話し始めた。
「アルス王子、サトー、今日は引かせてもらう。だが、お互い近い内に合うだろうな」
「できれば、俺はお前に会いたくないぞ」
「そう、つれない事を言うなよ。サトーよ。今回は薬の良いサンプルも取れたが、体制も見直さないとならないな。あーあ、忙しいったらありゃしないっと」
ビルゴはアルス殿下と俺を馬鹿にする様な言葉を放ちながら、光の渦に消えていった。
ビルゴの事はこの場で倒したかったが、それは次回に持ち越しの様だ。
「ふう、逃げられたか。しかし、闇組織について与えたダメージは大きいし、貴族主義派への追及材料も手に入れた」
「そうだな。事件の後始末は多いが、得られる事も沢山ある」
「とは言え、闇組織を追い詰めた訳ではないし、これからが忙しそうじゃない」
やれやれといった感じで、アルス殿下とバルガス様とビアンカ殿下が話をしていた。
確かに事件の後始末は沢山あるけど、犯罪に関与したものを追求する材料を得たのは大きかった。
「よく考えれば、この騎士には不憫な事をした。染めなくてよい犯罪に手を染めてしまったとは」
「直轄領で起きた事だから、妾達にも罪はある。オーカス子爵の不正を見抜ければ、こんな事は起きなかったのじゃ。なんともやるせないのじゃ」
そして、バルガス様とビアンカ殿下はバビルの成れの果てを悲しそうに見つめていた。
襲撃されたとはいえ、もしかしたら防げる事件であると思っているのだろう。
「バルガス様、バビルの対応はどうしますか?」
「通常の殉職扱いにする。遺族にも見舞金を払うぞ」
「そうですね。その方が良さそうですね」
俺はバルガス様にバビルの取り扱いを聞いたが、バルガス様の中では既に対応は決まっていた様だ。
バビルの遺体は、担架に乗せられて兵によって運ばれていった。
そして、もう一つ対応しないとならない事がある。
「アルス殿下、魔獣化したグランとバンの遺体はどうしますか?」
「国で押収する事になる。今回未知の薬が使われたのもあるから、分析が必要だ」
「それは仕方ないですね」
アルス殿下はマジックバッグを使って、グランの遺体を収納していた。
「バンの遺体を回収するのは、もう少し後にするか」
「そうですね。そうしましょう」
アルス殿下と俺は、バンの遺体がある方を見て頷いた。
バンの遺体の側にはザシャとクレアが座り込んでいて、顔を手で覆って泣き崩れていた。
悲しみに暮れるザシャとクレアの事を、エステル殿下とリンさんが抱きしめていた。
ザシャとクレアは、自身の手でバンに止めをさすという辛い決断をしたからな。
暫くは二人をバンの側にいさせてあげよう。
俺達が宿に立ち入ってから、まだ一時間も経っていないだろう。
ようやく上がり始めた日の光が、会議場を照らしていた。




