第三十五話 違和感のある講師
新人冒険者向けの講習が始まるというので、俺達を含む新人冒険者は個室に移動する。
今回は、教室の様に机と椅子が並んでいる所だ。
俺が、適当に席に座ろうとした時だった。
「サトー、一番前に座ってくれ。騒いでいたお前は、サトーの横な」
「「は?」」
ガンドフさん、いきなり何を言うんですか。
俺だけでなく、騒いでいた少年もびっくりしていた。
「シロとミケも別れて座ってくれ。そこに、少年といた少女が座れ」
「「はーい」」
「「はい」」
どうやら少女達も分けて座らされるようだ。
言うだけ言って、ガンドフさんは部屋から出て行った。
座って直ぐに、シロとミケと少女達は仲良くおしゃべりを始めていた。
俺は横に座る少年がそっぽを向いているので、とりあえず冒険者のハンドブックを広げて待っている。
今回は教室一杯の冒険者がいて人間も獣人もその他の人種もいたのだが、悪態をついている少年があまりに目立っていたので比較的大人しく講師を待っていた。
そして直ぐに講師の冒険者が入ってきた。
「「「うん?」」」
俺だけでなく、シロとミケも何かに気がついた様だ。
見た目は髭ズラでバンダナを頭に巻いた斥候タイプの冒険者なのだが、何か違和感がある。
横を見ると、教室の扉は開いていた。
俺はささっとメモを書いて、俺の側にいたラムネにメモを渡した。
「こっそりと、マリシャさんかガンドフさんに渡してくれ」
ラムネは了解と触手をあげていて、こっそりと教室から出ていった。
周りの人も目の前の冒険者も、ラムネの行動に気がついていないようだ。
「では、これから講習を開始する。担当のビルゴだ。先ずは座学を行うので、冒険者のハンドブックを出す様に」
とりあえず講習は始まったし、俺は既にハンドブックを開いている。
しかし、横にいる少年はハンドブックを出していなかった。
「おい、そこの少年。ハンドブックはどうした」
「宿に置いてきました」
「はあ?」
わお、いきなり少年がやらかしたぞ。
確か冒険者登録する際にも、ハンドブックは携帯する様に言われていたはずだ。
講師のビルゴは、ため息をついて少年にハンドブックを手渡した。
「冒険者のハンドブックは、冒険者にとって必要な事が全て記載してある。上級冒険者も常に携帯しているぞ」
「くっ」
少年に言い聞かせる様にビルゴが話すが、少年は面倒くさい表情をしてビルゴから顔を逸らしていた。
「冒険者に限らず、どんな仕事も信頼が重要だ。自分勝手な行動をすれば、信用を失うばかりか仕事も失うぞ。それに、冒険者はいきなり大きな功績を立てるのは難しい。小さい所から着実に実績を積み上げないとならない」
ビルゴは、当たり前の事を話している。
若干一名真面目に聞いていないものがいるが、ビルゴは話を続けている。
「どんな依頼をこなすにしても、準備はとても大切だ。準備ができていないと、依頼が失敗するばかりか自分が死ぬことになるぞ。上級冒険者は準備をしっかりとするものだ」
うーん、当たり前すぎて特に難しい事は話していない。
この初心者講習って、何か意味があるのだろうか。
「また、カードを紛失したら再発行に手続きが必要だ。窓口での手続きが必要になるぞ。これで座学は終了だ。休憩をして、闘技場に場所を移すぞ」
なんだろう、当たり前の事を話してあっという間に座学が終わってしまった。
この位だと、ハンドブックに書いている内容を話しただけだぞ。
休憩時間を利用して、マリシャさんかガンドフさんと話を聞いてみよう。




