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五話



「げ、最低男」

「ん? 知り合いかな」


 タマキから声がかかる


「いえ、全然知らない最低の人です」

「知ってるじゃないか」

「知りません」

「なんだか良く分からなけど、まぁいいか」


「じゃあもうすぐ帰っからまた後でな」


 電話を切った失礼男……イタルがこっちに向かってきた。


「よお、タマキ、あと何で空振り女がここにいるんだ?」


 か、空振り女?


「うるさいわね失礼男」

「あん?」

「やっぱり知り合いじゃないか」

「いいえ、知りません。今日はもう帰ります!」

「足は大丈夫かー? 派手に転んでたもんな」

「余計なお世話です! さようなら!」

「明日も待ってるからなーマネージャー!」

「マネージャーじゃありません!」


 そうは言ったものの、明日行かないなんて風に返事はなぜか、出来なかった。

 

 

---------------------- 


 一日だけのつもりだった。でもなぜか私はここに通い続けていた。

 いつも夕方になるとあの性格の悪いサッカー部員男が来るので私はそこまでで帰る。


「マネージャー明日も宜しく!」

「明日は来るかわかりません!」」


 こんなやり取りをもう一週間も続けている。


 最初はちょっとした雑談をしたり、たまにボールを投げてあげる程度だったんだけど、水道水をそのままがぶ飲みしてるタマキを見るに見かねて、少し大きめの水筒をもってきている。


 私の水分補給だって重要だしね。勿論コップはちゃんと別。

 マネージャー真似事をしているつもりはなかったけど、見るに見かねての行動だ。

 ちょっとづつだけどお話もしたのでタマキの事も少しづつわかってきた。野球が好きなこと、ずっと一人で練習をしてきたこと。一人は少し寂しかったこと。でももう少しで野球ができるのが楽しみでたまらないこと。


 でもやめていったメンバーへの愚痴や、問題を起こした先輩たちについての文句は一つも聞かなかった。

 夕方になるとやってくるアイツの話も聞いたんだけど、なんとあいつも入部してなかった野球部員なのだそうだ。というか、昔から二人は知り合いらしく、風邪をうつしてくれたのもイタルの仕業らしい。

 タマキは一人で自主練をしているのだけど、イタルはサッカー部員。それぞれ別で体を鍛えているのかなと思ったのだけど、確認はしていない。多分、活動停止処分が終わったらまた野球をするのだろう。


 だから多分、今でもちゃんと毎日顔を出してくるのだろう。まぁそこは結構いいヤツだと思った。少しだけね。








 ここにきて8日目に、私はボールをひょいっと投げながらタマキに一つの質問をした。


「ねえタマキ」

「ん、どうした」

「あのさ、タマキってファーストでしょ。聞きたいことがあるんだけど」

 なんだよ急にって顔をタマキはしたけど、彼は持ち前の人の良さがでたのか手を止めて私のほうを向いてくれた。

「あのさ、誰がどうみてもアウトになるようなタイミングで一塁まで走っていく人っているでしょ。特に高校野球に多いと思うんだけど」

「そうだな。最後まであきらめないのが高校野球」

「それってどう思う?」

「どう? ってどういう意味で?」

「ん~」


 なんと言えばいいんだろうか。そういうのって馬鹿みたいじゃないとか言うと怒られそうな気もするけど……。


「私さ、そういうのって苦手なんだ。だっておかしいじゃない。必死にはしってさ、もうアウトだってのに」


 最後まであきらめない。それは最後ってのを本当に知ってないからそう言えるんだ。何度でもある最後じゃなくて、本当の最後。人生の終わり。


「そうじゃないよ、片倉」


 真剣な目つきになってタマキは私を見ている。怒られる――っていう雰囲気ではない。


「本気ってのは分かるんだ。絶対に塁に出る、それがとても低い可能性だとしても絶対にあきらめない。そういう勢いってのは伝わってくるんだよ。ファーストにボールを投げるほうもそういうのに押されて焦ってしまえば暴投してしまうかもしれないし、ファーストだって取りこぼすかもしれない。余裕そうに見えてこっちはこっちで必死なんだよ」

「ふーん……。そういうもんなんだ」


「そう。諦めて走ろうとしないやつを裁くのなんて楽なもんさ。俺としちゃ本気で滑り込んでくるやつが一番怖いな。こっちが一つミスをしたらそれでヒットだからな」


 とっても真面目な答えが返ってきた。確かに野球ではそうなのかもしれない。でも私の場合は……。

 しばらく世間話や野球の話も混ぜつつ時間をつぶすと、タマキはまた練習に戻った。私はポカリの元と水筒を持って学校に設置されている製氷機へと向かった。


 結構重くなった水筒を抱えつつタマキの練習場となっている校舎裏に戻るとイタルがもう来ていた。今日はちょっとだけ早いかもしれない。


「……水筒だけ置いて帰ろうかな」


 そう思っていると言い争うようなタマキの大きな声が聞こえた。


「おい、約束しただろ」

「そうだな。約束した。でも、実際一年たってみて気が変わった。だから約束は守れない」

「ふざけんな!」


 どうしたんだろうか。聞き耳を立てる私。話を聞いているとどうやらイタルのほうが約束を破ったようだ。野球部に戻らないってこと? やはりイタル……最低男なんて思ったけどでもそれにしては会話に違和感がある。


 だって怒っているのはイタルのほうだ。、

 おかしいなと思っていると二人の会話がヒートアップしていくのが分かる。ど、どうしよう。


「どう考えても無駄だろうが、二人から初めて甲子園なんて行けるわけがねえ。いや、甲子園どころか、まともな試合すらできる保証もない」

「やってみなきゃわからないだろうが!」

「時間の無駄だ」

「お前!!」


 イタルがタマキの胸倉を掴んだ、これはいけない流れだった。


 ダメっ!と叫ぼうとした。叫んだつもりだったんだ。ケンカを見たことがないわけじゃないけどこんなに近い距離でしかも年上の男同士のは初めてだ。

 心臓がバクバクする。

 ポンコツな私の体なかでもひと際ポンコツな心臓が何かに掴まれたような締め付けを感じて、私の意識は遠のいた。


 ああ、あの失礼男にかかわると本当に碌なことがない。





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