第4回 世界告白魔法フェスティバル 閉会式
――実況席
シンジたちが観客に手を振りながら控室へ戻っていく。
その姿が完全に見えなくなった瞬間、場内の中継は実況席へと切り替わる。
「いやー、改めて……大変なことになりましたね! カルディナさん! これはもう、前代未聞ですよ!? 10名全員を嫁にするなんて!」
「ええ、しかも“ハーレム”ではありません。シンジさんは10人全員と正式に“夫婦”になったのです!」
「私は……私は今、感動しています……! もともと、この“5人を選ぶ”というシステムには、思うところがありました。毎大会、素晴らしい告白魔法を放ちながら涙をのむ彼女たちを見るのが、とても……つらかったのです……シンジさんは……英雄です……うぅっ……」
「ちょっ……ちょっと、やめてくださいよカルディナさん、私も……涙もろいんですから……」
実況の声がわずかに震えはじめる。
「う、うわぁぁん! ほんとうに、すばらじい……たいかい……でじだぁぁ……!!」
「……本戦出場者による、告白演武はすべて終了いたしましたが……引き続ぎ、ダイジェスト映像と、魔法パレード、それから花火を……どぅぞおたのじみにぃぃぃ……!!」
スタジオの涙と感動が、世界中の視聴者へと伝わっていく――。
――観客席
魔法パレードが始まり、観客席の一角では、ミレーユファンの少女達が手をつなぎながら並んで座っていた。
サティーナの魔法によって感情が解きほぐされ、芽生えていた恋が一気に燃え上がり、ふたりはすっかり恋人同士のように寄り添い合っている。
「ミレーユの恋が実って、本当によかったね……私、くるっと一回転してたの見て、すごく嬉しくなっちゃった」
「私も! それに全員お嫁さんにしちゃうなんて、シンジくん、やるじゃん! ……正直ちょっとキュンときちゃった」
その言葉を聞いたもう一人の少女が、ふっと頬をふくらませる。
「……キュンときちゃった、ねえ?」
「えっ、ちょっと、なにその顔――」
言い終わる前に、軽く拗ねたような勢いで抱き寄せられ、唇を塞がれる。
「……私は、あんたの彼女なんだからね」
ぽつりと呟かれたその言葉に、ふたりは顔を見合わせ、照れくさそうに笑い合う。
からかったようなキスのあと、ふたりは思わず顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
でもその笑顔が、どこかくすぐったくて、たまらなく愛おしい。
ふたたび指を絡めながら、今度はお互いの頬を撫でるようにそっとキスを交わす。
恋の魔法が響き合う中、夜空には色とりどりの花火が打ち上がっていた。
―――――
控室に戻ると、シンジを先頭にアイたちが出迎えていた。
「こちらの部屋は少々手狭ですので、別の広めのお部屋へご案内いたします」
そう言って、先導するアイの後ろを一同は歩いていく。案内された部屋は、まるでスイートルームのような豪華な宿泊用の空間だった。広々としたリビングに、大きなベッドがいくつも並び、シンジはほんの少しだけドキリとする。
「シンジ様と奥方様方は、こちらで閉会式のご挨拶まで、しばらくご休憩ください。お飲み物やお食事のご希望があれば、お申し付けください」
その丁寧な言葉に、シンジはあらためてアイたちの役割を実感し、少しだけ胸が痛む。それでも、空気を変えるように自ら話を切り出した。
「とりあえず……アイ、みんなに飲み物と軽くつまめるものをお願い」
アイたちがうなずいて準備を始めるあいだ、シンジは振り返って言った。
「みんな楽にしてくれ。適当に座って、飲みながらしゃべろう。なんか、質問とかあれば全然答えるよ。ここからは、シンジに聞きたいことタイムってことで」
舞台ではアドレナリンの勢いで乗り切れたが、こうして部屋に戻って、改めて10人の美人たちに囲まれていることを自覚すると、さすがにそわそわしてくる。
「一応、軽く自己紹介する。みんな、もういろいろ知ってると思うけど、異世界から来ました、二ノ瀬真治って言います。アルドリー平原のど真ん中に転移して、この世界に来ました。幸いすぐに助けられて、島での生活を経て、ここにいます。……何か質問ある?」
最初に手を挙げたのはカティアだった。
ふわりと胸元が揺れるほど大きく、勢いよく手を上げた彼女の姿に、思わず周囲がちらりと目を向ける。だが本人はどこ吹く風といった様子で、シンジの目をまっすぐ見つめていた。シンジも意識的に胸元から目を逸らしながら、その視線にしっかりと応えた。
「シンジ様は、特定の神を信仰していないとプロフィールに記されていましたが、神についてどのようにお考えなのでしょうか?」
「おぉ、シスターっぽい質問ありがとう。えっと、俺の国では“八百万の神”って言って、あらゆるものに神が宿ってるって信じられてるんだ。詳しいことはあんまりだけど、俺もわりとそれ信じてる」
「それは、とても素晴らしいお考えですね。今度、ぜひ詳しくお聞かせください」
次に手を挙げたのは、サティーナだった。
しなやかに脚を組み直しながら、ゆっくりと指先を持ち上げるその仕草には、いやらしいほどの余裕と艶っぽさが滲んでいた。
「シンジって、童貞なのは知ってるけど、どこまで経験したことあるの? 前の世界では、好きな子いた?」
「いきなり攻めるなー。でもいいよ、なんでも聞いて。トラウマもタブーもないし。逆にみんながあるなら、あとでこっそり教えてな? えっと……キスもハグも、さっきが初めて。前の世界では好きな子はいたけど、片思いっていうか、気になってただけって感じかな。はい、次!」
続いて、シャーレンが小さく手を挙げた。
控えめなその動きは凛とした静けさをまとい、まるで一礼するかのような慎ましさがあった。
「シンジさん。この後の三ヶ月の同棲期間について、どのようにお考えでしょうか? もちろん、まだ詳細までお決めになっていないとは思いますが、ざっくりでもお聞かせいただけますか?」
「うーん。とりあえず、1人ずつと1日デートしたいなって思ってる。でも、基本はみんなで仲良く暮らす感じにしたい。俺だけじゃ決められないから、みんなの意見もあとで聞かせてな。ほかに質問ある?」
その後も次々に質問が飛び出し、笑いあり、ちょっとした照れもありながら、場はどんどん和やかになっていく。
やがて、アイたちがテーブルに軽食と飲み物を運び込んでくる。
「ありがとう。アイたちも、ちょっと休んでな」
シンジがそう声をかけると、彼女たちは静かに一礼して部屋の隅へと控えた。
温かい空気に包まれながら、皆はくつろぎつつ、しばしの会話を楽しんでいた。
控室に戻ると、シンジを先頭にアイたちが出迎えていた。
「こちらの部屋は少々手狭ですので、別の広めのお部屋へご案内いたします」
そう言って、先導するアイの後ろを一同は歩いていく。案内された部屋は、まるでスイートルームのような豪華な宿泊用の空間だった。広々としたリビングに、大きなベッドがいくつも並び、シンジはほんの少しだけドキリとする。
「シンジ様と奥方様方は、こちらで閉会式のご挨拶まで、しばらくご休憩ください。お飲み物やお食事のご希望があれば、お申し付けください」
その丁寧な言葉に、シンジはあらためてアイたちの役割を実感し、少しだけ胸が痛む。それでも、空気を変えるように自ら話を切り出した。
「とりあえず……アイ、みんなに飲み物と軽くつまめるものをお願い」
アイたちがうなずいて準備を始めるあいだ、シンジは振り返って言った。
「みんな楽にしてくれ。適当に座って、飲みながらしゃべろう。なんか、質問とかあれば全然答えるよ。ここからは、シンジに聞きたいことタイムってことで」
舞台ではアドレナリンの勢いで乗り切れたが、こうして部屋に戻って、改めて10人の美人たちに囲まれていることを自覚すると、さすがにそわそわしてくる。
「一応、軽く自己紹介する。みんな、もういろいろ知ってると思うけど、異世界から来ました、二ノ瀬真治って言います。アルドリー平原のど真ん中に転移して、この世界に来ました。幸いすぐに助けられて、島での生活を経て、ここにいます。……何か質問ある?」
最初に手を挙げたのはカティアだった。
ふわりと胸元が揺れるほど大きく、勢いよく手を上げた彼女の姿に、思わず周囲がちらりと目を向ける。だが本人はどこ吹く風といった様子で、シンジの目をまっすぐ見つめていた。シンジも意識的に胸元から目を逸らしながら、その視線にしっかりと応えた。
「シンジ様は、特定の神を信仰していないとプロフィールに記されていましたが、神についてどのようにお考えなのでしょうか?」
「おぉ、シスターっぽい質問ありがとう。えっと、俺の国では“八百万の神”って言って、あらゆるものに神が宿ってるって信じられてるんだ。詳しいことはあんまりだけど、俺もわりとそれ信じてる」
「それは、とても素晴らしいお考えですね。今度、ぜひ詳しくお聞かせください」
次に手を挙げたのは、サティーナだった。
しなやかに脚を組み直しながら、ゆっくりと指先を持ち上げるその仕草には、いやらしいほどの余裕と艶っぽさが滲んでいた。
「シンジって、童貞なのは知ってるけど、どこまで経験したことあるの? 前の世界では、好きな子いた?」
「いきなり攻めるなー。でもいいよ、なんでも聞いて。トラウマもタブーもないし。逆にみんながあるなら、あとでこっそり教えてな? えっと……キスもハグも、さっきが初めて。前の世界では好きな子はいたけど、片思いっていうか、気になってただけって感じかな。はい、次!」
続いて、シャーレンが小さく手を挙げた。
控えめなその動きは凛とした静けさをまとい、まるで一礼するかのような慎ましさがあった。
「シンジさん。この後の三ヶ月の同棲期間について、どのようにお考えでしょうか? もちろん、まだ詳細までお決めになっていないとは思いますが、ざっくりでもお聞かせいただけますか?」
「うーん。とりあえず、1人ずつと1日デートしたいなって思ってる。でも、基本はみんなで仲良く暮らす感じにしたい。俺だけじゃ決められないから、みんなの意見もあとで聞かせてな。ほかに質問ある?」
その後も次々に質問が飛び出し、笑いあり、ちょっとした照れもありながら、場はどんどん和やかになっていく。
やがて、アイたちがテーブルに軽食と飲み物を運び込んでくる。
「ありがとう。アイたちも、ちょっと休んでな」
シンジがそう声をかけると、彼女たちは静かに一礼して部屋の隅へと控えた。
温かい空気に包まれながら、皆はくつろぎつつ、しばしの会話を楽しんでいた。
「みんなお互いのことはある程度知ってると思うけど、時間もあまりないし、ちゃんとした自己紹介は島でやろう。部屋とかも決めないといけないし、しばらくはバタバタしそうだなぁ。2~3日はデートどころじゃないかも……」
そう言ってシンジが伸びをしたところで、壁の時計に目をやる。
「そろそろ、閉会式のあいさつの時間だ。えっと、アイ? みんなも一緒に行く感じ?」
「いえ、本来ならシンジ様とそのパートナーのみ舞台でご挨拶するのですが、今回は人数が多いため、シンジ様おひとりでとのことです」
「おっけー。……じゃあ、みんな、何か伝えたいことある? 代わりに言ってくるよ?」
すると、シアがすっと立ち上がった。
「では、皆様への感謝を。……本来であれば、自分の口で直接お伝えすべきなのですが、それはこれから先、いくらでも機会があるでしょう。ですが、今この瞬間、この気持ちだけは、やはり伝えておきたいのです。シンジ、よければ、私たちを代表してお願いします」
シアの声は穏やかで、しかしはっきりとした決意がにじんでいた。
他の皆もそれぞれにうなずき、賛同の意を示す。
「……分かった。じゃあ、代表して伝えてくるよ」
シンジは立ち上がり、一同に軽く手を振ってから扉へと向かう。
そして――場面は、再びあの舞台へと移る。
会場全体がライトアップされ、中央にひときわ目立つマイクスタンドが置かれている。
観客の期待と余韻が渦巻く中、シンジがその前に立つと、会場にアナウンスが響いた。
「それでは最後に、ニノセ・シンジ様よりご挨拶をいただきます。シンジ様、お願いいたします」
静まり返る会場。その静寂のなかで、シンジは一度深呼吸して、口を開いた。
「えっと、あらためまして……ニノセ・シンジです。今日は、ほんとうにありがとうございました」
マイク越しに聞こえる自分の声に少し驚きながらも、言葉を紡いでいく。
「告白魔法って、最初はどういうものかよくわかってなかったんです。でも……実際に受けてみて、すごく心が動かされました。ドキドキして、緊張して、でも、すごく嬉しくて……。観客席の皆さんが応援してくれてるのも伝わってきて、それがすごく支えになりました」
少し笑いながら続ける。
「それで……本来は5人を選ばないといけないってルールだったんですけど、俺、変えちゃいました。全員を選びました。……ごめんなさい。でも、どうしても5人に絞ることなんてできなかった。みんなの想いが、それだけ真剣だったから」
シンジは観客席を見渡す。
「これからのことは、まだ全部は決まってません。でも、絶対に彼女達を大切にしていきます。……俺の決意です」
少し間を置き、優しい表情で続けた。
「それと……さっき、控室で全員から頼まれました。『皆様への感謝を、代わりに伝えてほしい』って。だから、ここで言わせてください。
本当に、ありがとうございました。
そして俺からも――この告魔フェスに応募してくれた全ての人へ、声援を送ってくれた皆さんへ、そしてこの場を用意してくれた全ての人たちへ、心から感謝します。
俺は、この世界に来て、最高の恋と出会いました。本当に、ありがとう」
会場は大歓声に包まれた。
拍手と歓声が降り注ぎ、スタンドには無数の光が揺れている。
シンジはそっとマイクから下がり、深く一礼した。
その瞬間、舞台に祝福の光が降り注ぎ、フィナーレを飾る花火の音が空を裂いた。
こうして、恋と魔法の祭典、第4回世界告白魔法フェスティバルは幕を下ろした。