デートとは
世間では、恋人同士がでかける催しをデートと呼ぶ。
すべてが楽しいのが付き合い始めの時期であり、未央と小鳥遊もそれに該当するはずなのだが……。
「見て、小鳥遊さん! この壺絵すっごくリアルじゃないですか!?」
都内の百貨店八階。美術回廊で行われている催しに未央たちはいた。
興味津々という様子で、ガラスケースの中の展示物を前のめりで見るのは付き合い始めたばかりの二人である。
「この時代にしては、画力がありますね。何で色を載せているんでしょう?」
小鳥遊は、不思議そうに壺を見てそうコメントした。
「壺を焼く前に絵を彫って、焼き加減で調節しているのかもしれませんね」
真剣な表情で未央は答える。
「そうなんですか。古代ギリシャってすごいですね」
「ええ。BLへの執念と遊び心を感じます」
ここは古代ギリシャ文化展。
裸で睦み合う男性たちの絵が描かれた壺を見て、二人は感想を述べていた。
事の発端は、付き合い始めたので「外でデートしませんか」と小鳥遊が言い出したこと。
未央は「土曜日は古代ギリシャ文化展に行くので、その後になら」と答えたのだが、彼は一緒に行きたいと言ったのだ。
そう、ここは文化展だが実はBLの聖地(?)ギリシャについて学ぶ場所。
未央は小鳥遊の同行を躊躇わなかったわけではないが、「少しでも長く一緒にいたいんです」と電話で言われてしまっては断れなかった。
ちなみに、ここには美しい織物や絵画、化石や宝具なども展示されていて、決してBL関連だけを展示しているわけではない。
「主催者って、なかなか豪胆だと思うんですよ。日本だったら、武将たちの男色なんて海外でお披露目する展示物に絶対選ばないでしょう? 『これが俺たちの文化だ、見ろ!』っていう熱いものを感じます」
未央は拳を握りしめて熱弁する。
「それはそうですね。あぁ、そういえばギリシャ神話の神々も男性同士で、ってありますね。文化として認められているのでしょうか」
「あれ、小鳥遊さん詳しい」
「別冊Bで連載中の作品から学びました」
『ほぉ、これはまた見事な壺だ』
二人の背後には、当然のように一緒にいる白狐の姿が。
ぬらりひょんもまた、青年の姿で同行している。
『ねぇ、白狐。日本だって江戸時代には陰間や陰子がいたのを、海外にもっと芸術として発信すればいいと思わない?』
『ふむ、それは同感だ』
あやかしの自由な発言に、未央がぴくっと反応する。
「陰間は遊女の男性バージョンで、陰子は歌舞伎役者がデビュー前に御贔屓さんに……っていうのですよね? 美少年は好きですが、やはり私はお金が絡む関係は心が惹かれません。御贔屓さんとの禁断の恋は萌えますが」
『細かいな。金が絡んでいても、それも出会いの形の一つだ』
白狐は、未央の主張をふんと鼻で笑う。
『雪女の気に入りの陰間なんて、江戸一番の器量よしと評判であったぞ』
「え!? 待ってください、雪女さんは女性ですよね。そうなってくると江戸時代の女性同士(百合もの)ってことですか? いやいや、陰間も見た目は女性でも本体は男性だから……」
『未央、恋に性別も種族も関係ないんだよ』
「あやかしのバイタリティってすごい……!」
驚く未央を見て、ぬらりひょんはクスクスと上品に笑った。
それほど広くない回廊で、四人は他の来場者よりも存分に満喫する。最後に寄った物販コーナーには、『参考文献』が数々並んでいた。
「古代ローマの絵画集は買っておいて損はないかな」
真剣に画集を眺める未央の手元を、小鳥遊も覗き込む。
「少年奴隷市ってまたディープな内容だね」
「普通の図書館には置いていないからね、こういうの」
「ちなみにパプリカ先生の次回作は?」
からかうように尋ねられ、未央は答えに詰まる。
「…………制服シリーズで警察官×殺し屋です」
「ギリシャ関係なかった!」
いつか役に立つかもしれない、未央はそう言って画集を買い、文化展を後にした。




