9,皇帝の死
そんな日々が何年続いたでしょうか。南海の皇帝はある日、ことりっと亡くなりました。でも、家族も島のみんなも誰も泣きません。この島では、人が亡くなっても泣いてはいけないしきたりのようでした。
竜は、野辺の送りから、皇帝のなきがらにみんなが土をかけるまで、空から見ていました。皇帝の大きかった身体が最後の土で見えなくなったとき、大きな二つの流れ星が竜の目の前に迫っていました。 突然すぎてよけることもできません。
ああ、これで僕も死ぬのかな。そう思った竜は目をつぶりました。
……しばらくして竜が目を開けると、まだ生きていました。あごの下には、なくなったはずの「竜の玉」と「逆鱗」が戻ってきていました。
元の三本爪の竜に戻っていたのです。
「してみると、あの人は本物の『皇帝』で、短い間だったけど僕も本当の『皇帝のための竜』になっていたのだ。僕のしてきたことは、間違っていなかった」
島のみんなに役に立つことは何もさせてもらえなかったけど。竜はこのとき、はじめて涙をこぼしました。
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さて、竜は、返ってきた「玉」をあごの下にしまおうとしました。そのとき、皇帝が玉の代わりにくれたトゲトゲの果物が、残っていることに気がつきました。水気に包んでおいたので、腐ってはいないはずです。
「お尻が割れて、匂いがしてくると食べ頃だよ」
と皇帝が言っていたことを思い出し、食べてみることにしました。
トゲトゲの硬い黄色い「から」を爪の先で割ると、中には牛酪のような色の果肉が入っていました。
「うわっ、なにこの臭い?!」
腐ってないはずなのに、ものすごい匂いがただよいます。夏場のゴミ溜めのような、今にもハエが集まってきそうな、臭さです。
それでも思い切って口に入れてみると、バナナやマンゴーを濃くしたような味でした。甘くて、ねっとりとしていて、よく味わうと、奥には少し苦味もあって、なんともいえずおいしかったのです。
「とってもあの人らしいなあ」
と竜は思いました。
そして、口から茶色い種をプップッと吐き出して、島を飛び立ちました。
たかく高く飛んで、やがて見えなくなりました。
【終】
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