1,石板
故・柳家小三治師匠に。
竜が住む山の近くの谷底から、その昔、人間が投げ込んだ石板が引き揚げられました。子供だった竜は、お母さん竜に連れられて、その石板を見に行きました。
石板はすでに割れて、いくつかのかけらに分かれていました。でも、四角い大きな文字と、竜の絵が彫ってあることはわかりました。
「わあ、竜の絵が描いてある」
近寄ってよくよく見ますと、絵の中の竜は手にそれぞれ五本の爪がありました。竜はお母さんにたずねました。
「この竜は手に五本の爪があるねえ。昔はみんな、五本の爪だったの?」
「いいえ、竜は三本爪が普通よ。五本爪の竜は、皇帝のための竜だと言われているの」
「へええ」
竜は驚きました。
「皇帝のための竜?! それは、僕たち三本爪の竜とどこが違うの?」
「ええっ?! ……お母さんにも分からないわ。だって会ったことないんですもの」
「ふ~ん。じゃあ、僕らでもどうにかしたら五本爪の竜になれるの? それとも、五本爪の竜は、最初っから五本爪で生まれてくるの??」
お母さん竜は、しなやかな眉毛の先を、瞳まで下げました。
「ごめんね、お母さんそういうことよく知らなくて。でもね、人間とはあんまりかかわりあいにならない方がいいって聞いてるわ。 何でも、寿命が違うからって」
竜は、お母さんの答えにまったく納得できませんでした。