第九十四話 リリナとタロ
激戦だった。ただただ、激戦だった。我輩と、あの鶏との戦いは……。
鶏をどうにか倒した我輩は、戦いをそう振り返る。
鶏は、魔法を使ってきた。それも、砂を使った魔法で、視界が遮られたり(自身を守るための結界)砂が飛び散ってきたり(砂による攻撃)して、砂の対処がとても大変だった。
また、鶏は、砂の中に首を突っ込もうとする(タロ目掛けてくちばしを降り下ろそうとしていた)から、我輩、鶏が砂まみれになるのは忍びないと思って、水の結界で顔を包み込んで(文字どおり、水で顔を包み込んで)あげたのだ。そうしたら、なぜか(窒息して)悶えて動かなくなったが、我輩、ささみが手に入れられて大満足なのだ。……解体は、バルディス達に任せるが……。
ひとまず鶏を砂のドーム近くまで風魔法で運び、サポートシステムに聞いた『幻術』というもので鶏を隠す。バルディス達が来るまでに、誰かに盗られたりしたら嫌なのだ。
そうしてバルディス達を待っていると、まもなくして、バルディスはやってきた。見知らぬ赤髪の美女と、二人の男を連れて。
「にゃあ(バルディス、待ったのだ)」
「悪かった。ちょっと調達に手間取ったんだ。ほら、約束の美味いものだ。ピコの実っていうらしいが、甘くて美味しいぞ」
「にゃにゃーっ(おぉっ、ありがとうなのだバルディスっ)」
約束通り、美味しいものを持ってきてくれたバルディスに、我輩、喜んで礼を言う。見せてもらったピコの実というのは、丸くて黒い、我輩の頭の半分くらいの大きさの実で、とても食べごたえがありそうだ。ただ、後ろにいる人間達が我輩を見て疑問符を浮かべているように見えるのが妙に気になった。
「あ、あの、バルディス? まさか、この猫が仲間だと言うんじゃないわよね?」
「その通りだが?」
引きつった顔でそう問いかけてくる赤髪の美女に、バルディスは事も無げに言い切る。
うむ、確かに、我輩、バルディス達の仲間なのだ。何かあるのだろうか?
「『その通りだが』って、猫、よね? それ?」
「あぁ、そういうことか……そうだな。ただの、見た目通りの猫ではないと言っておこうか。それ以上を明かすつもりはない」
「……そう、そういうことね。分かったわ」
……? 我輩がどういうことか分からないのだが?
そう思ってバルディスに視線を向ければ、バルディスはきっと説明のために口を開いてくれる。そう、考えていたのだが、聞かされたのは、そんなことではなかった。
「あぁ、それとタロ。この赤髪の女性。リリナは、あのバーで襲撃にあった時、お前を捕まえようとした赤髪の男だぞ」
「にゃ……? (美女が、男……?)」
聞かされた内容に、我輩、思考がフリーズする。脳裏に過るのは、騎士達の襲撃と、老人、欠片の持ち主と、その中で言葉遣いの荒い青年が居たこと。言葉遣いの荒い赤髪の青年が居たこと。
あれが、この、赤髪の美女?
にわかには信じがたい。しかし、我輩が飼い主の姿に変化できることを考えると、全くあり得ないとも言えない。
「にゃ……にゃー? (それで……このリリナという者の性別は?)」
どうにかそう紡いだ我輩は、混乱しながらも紳士として、性別を間違うわけにはいかないと恥を忍んで問いかける。
「……秘密だそうな」
「……にゃ(……そうか)」
つまりは、性別不詳。おそらくは、おネエと呼ばれる人種。
確か、おネエはレディに属する心を持っている者なのだと飼い主に聞いたことがある。であるならば、我輩のすることは決まってくる。
「にゃあ。にゃ(引っ掻いてしまったことを謝罪する。美しいレディ)」
謝罪と称賛。それこそが、我輩の正しい対応だと信じるのだった。




