第五十二話 エルブ山脈攻防(七)
敵の魔族は、咆哮を上げながらまたしてもバルディスに向かって突撃をかける。どうにも、我輩は敵として見られていないらしい。ただし、今回はただの突撃というわけではなかった。
「にゃっ!? (矢がいっぱいなのだっ!?)」
降ってきたのは、魔力によって形成された矢。しかも、その魔力は炎の魔力だ。周りには木々。例え、自らに降り注ぐそれを防いだとしても、この一帯が火事になる可能性は高い。
「ふにゃあっ(結界なのだっ)」
火事になっては堪らないと、我輩、できる限り大きな結界を張ってみる。しかし、それでも全ては防げずに、いくつかの矢が木々を焼き始める。
「オォォオォオッ」
「にゃぁあっ(うわっ、危ないのだっ)」
必死に結界を張った我輩だったが、結界に気を取られている暇はないとばかりに、魔族が戦斧を振り回してくる。我輩、それを全て華麗に避けるものの、未だに大量の矢は途切れることなく降り注いでいる。そちらばかりにも集中していられなかった。
「にゃあっ、にゃおーんっ! (ええいっ、猫流奥義、かわしてドンっ!)」
どうにかこうにか技を発動させた我輩であったが、やはり、集中力が分散している分、威力が低い。攻撃をかわした後の猫パンチで、魔族はよろめきはしたものの、すぐにまた攻勢に移る。
「にゃにゃーっ(きりがないのだーっ)」
とにかくバルディス達に攻撃が向かないよう、魔力で構成した爪で攻撃を反らしながら、必死に結界を維持する。
《サポートシステムより報告。魔力熟練度が上がりました》
途中で聞こえたその声も無視して、我輩、戦いを続ける。
「タロっ、結界は俺が引き受けるっ。そいつを倒すのを頼むっ」
と、そうしている間に、どうやらバルディスの治療は終わったらしく、ありがたい提案がもたらされる。
「にゃっ(分かったのだっ)」
そうして、結界を解こうとした瞬間、我輩、凄まじい悪寒をひげで察知する。
「っ!?」
「ア……アァァ」
理由は分からないが、とにかく我輩、魔族から離れなければならないという衝動に駆られ、一瞬でバルディスとラーミアの元へと駆け抜ける。そして、次の瞬間。
「オアァァァァァアッ!!」
上空の矢が消え、魔族を中心に凄まじい魔力の圧が広がる。
「ぐっ」
「なんて、魔力……」
「にゃあっ、にゃっにゃっにゃっ(うわぁっ、結界、結界、結界なのだーっ)」
体を切り裂いてくる魔力に、我輩、慌てて結界を重ねがけしていく。この時、魔族の姿は、巻き上げられた砂ぼこりや木の枝によって見えなくなっていたが、そんなことは気にしていられなかった。
そうして、魔力が収まり、視界が晴れたところで、我輩達はようやく異常に気づく。
「にゃ……(魔族が、居ないのだ……)」
「逃げられた、か……」
魔族の姿は、忽然と消え、その気配は欠片も感じられなかったのだった。




