第五十話 エルブ山脈攻防(五)
『闇化』という名の魔法を行使した我輩は、なんと、体が闇そのものになったのだ。それは、実体のない軟体と表現すべき状態であり、そのまま移動しようと考えると、動いているつもりはなくともスイスイと、闇から闇へと体(?)が動く。
建物の影に居たことも相まって、我輩、建物の影の闇を伝うようにして窓へ移り、そのままスルリとバルディス達の居る部屋に侵入できたのだった。どうやら、障害物があっても、闇が続く限りは乗り越えられるらしかった。しかし……。
う、む? 気のせいか?
バルディスがちょうど話をしようと言い出したところで、我輩、ディアムと目が合ったような気がした。
「? ディアム、どうしましたか?」
ただ、その視線はラーミアに話しかけられることで逸らされる。
「……タロ、引き入れなくて、良かった?」
「そうですわね。タロは勇者で少し強いかもしれませんが、ただの猫です。このまま私達に関われば、良いことなんて一つもありません」
やはり気のせい。そう思っていると、ディアムは我輩が聞きたかったことをピンポイントで聞いてくれ、またしてもこちらに視線を寄越す。
うむ、これは、確実に気づかれているのだ。
気づかれた理由までは分からないものの、どうやら、ディアムは我輩のことを黙認してくれるらしかった。そこで分かったのは、やはり、バルディスは……いや、バルディスだけでなく、ラーミアも、我輩のためを思って我輩を追い出したのだということと、集まった情報、今後の方針だった。
だから、我輩、バルディス達が宿を後にするのを、こっそり尾行した。
『闇化』の状態のまま移動するのは、影を見つけなければならないために少しだけ難しかったが、それも、街に居る間だけだった。エルブ山脈は、木々が生い茂っていて、影に飛び放題だったのだ。
誤算だったのは、バルディスが腕を切られる瞬間、我輩が、すぐに『闇化』を解除出来なかったことくらいだろうか。どうやら、解除と告げなければ、我輩、ただたゆたうのみの闇でしかいられなかったのだ。
そのせいで、バルディスは本当にピンチに陥ったものの、どうにか、そのピンチには間に合う。
「ふしゃーっ(覚悟っ)」
毛を逆立てた我輩は、仮面の魔族へと目にも止まらぬスピードで肉薄する。そして……。
「にゃおーんっ!! (猫流奥義、ガリガリプラスッ!!)」
それが、我輩の登場だった。




