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ドレイク王国5

 アテナが自らの首を差し出そうとしているとは露知らず、レンはアテナの返答を聞き安心していた。


 最高の主とまで言ってくれているのだから、その期待に応えるように頑張らないと。


『アテナ、お前の気持ちは嬉しく思う。私もお前に恥じぬよう良き主を目指そう』

「もったいないお言葉」


 その言葉を聞いたアテナはまたも悩む。


 私の気持ちを嬉しく思うとは、至らぬ我々を許すと仰っているのかしら?

 その後の良き主を目指すとは、これからも仕えて良いと仰っているの?

 レン様は慈悲深いお方、きっとそうに違いないわ。


 アテナの中で答えが出る。

 見当違いもいいところだが、それでもアテナは疑わない。

 冷静な判断ができないほどアテナは歓喜で満たされていた。

 レンが慈悲深い素晴らしい王だと再認識することで、レンへの忠誠心はまさに振り切っている。


 その日の夜は何事もなく過ぎていった。

 勿論アテナにもソファが置かれている場所から奥へは入らないように伝えている。




 翌日はヘスティアがレンの護衛についた。

 ヒューリに無理を言って街に繰り出したがこれが失敗だった。

 ドレイク王国の親衛隊長マルスを紹介され、親衛隊100人が新たに護衛に追加されたのだ。

 普通に買い物がしたいだけだったのに、まるで大名行列だ。

 行く先々で親衛隊が露払いをする。通りを歩けば誰もが平伏している。

 商店に入り品物を見れば、竜王様に献上いたしますと、なんでも貰えてしまう。

 まるでたちの悪い押しかけ強盗だ。


 即座に街での散策は諦め街の外に繰り出した。

 これ以上、街に迷惑はかけられない。

 城に戻らず街の外に出た理由、それはこの世界に魔物や魔獣が存在するからだ。

 地球にいない生物が見られるかもしれない。直にこの目で見たかったのだ。

 ゲームに馴染みのあるレンは冒険などにも憧れている。命懸けの危険なことだと理解しているが好奇心は抑えきれない。

 それに今回は過剰なほど護衛が付いている。万が一にも怪我をすることはないだろう。

 と思ったが魔物や魔獣が見当たらない……レンは肩を落とし近くの親衛隊に尋ねる。


『この辺には魔物や魔獣はいないのか?』


 声を掛けられるとは思っていなかったのか、親衛隊の竜人ドラゴニュートは体をビクッと震わせると恐る恐る振り返り答えた。


「はっ!街や街道に近い場所は定期的に巡回し討伐しております。出会うことは滅多にございません」


 そうか出会うのは珍しいのか残念だ。

 横を見るとヘスティアも残念そうにしている。

 ヘスティアも見たかったのだろうか?

 ヒューリに会って魔物や魔獣の図鑑がないか聞いてみるか。


『魔物や魔獣がいないのであれば城に戻ろう。遠出をしてはヒューリを心配させてしまう』




 城に戻るとマルスの案内でヒューリの執務室までやってきた。

 扉の前には護衛が2名、近づくマルスの様子を窺っている。

 普段は執務室に近づくものがいないのだろう。訝しげな表情で腰に下げる剣に手を添えた。

 当然のことだが国王の身辺警護は厳重にされている。特に執務室には機密種類も多数ある。たとえ親衛隊長のマルスといえど、国王の執務室に近づくことは許されていなかった。

 事前に知らせがあるのならまだしも、護衛はそんな知らせを受けていない。

 護衛は警戒心を顕にすると身構えた。

 

 マルスの後方を歩くレンも、扉の前に立つ護衛を視界に捉える。

 明らかに此方を警戒している姿が見える。レンは咄嗟にマルスを押しのけると前に出て声を上げた。


『ヒューリに会いに来たのだが中に入れるか?』


 護衛は一瞬誰かわからずレンを睨みつけると更に警戒した。しかし、レンだと知ると驚愕し狼狽える。


「レ、レン様!国王陛下は中にいらっしゃいます。どうぞお通りください」


 護衛は緊張のあまり直立不動で身動きできない。

 レンが頷き部屋に入ろうとするなか、一人拳を震わせ怒りで戦慄わなないている人物がいる。


「レン様を睨みつけるなんてどういうつもり?」


 怒りを押し殺したヘスティアの冷たい声が廊下に響き渡る。


『ヘスティア?』

「レン様、この国を滅ぼすご許可を」


 その言葉と同時に護衛とマルスに凄まじい殺気が浴びせかけられる。

 護衛とマルスは恐怖の余り言葉が出ない。絶対的強者から浴びせられる殺気、蛇に睨まれた蛙どころではない。

 気の弱いものなら、その殺気だけで命を落としてしまう。


『まてヘスティア!とにかく落ち着け!』

「レン様、私は落ち着いています。レン様に敵意を向ける愚か者は種族ごと全て排除すべきです」

『少し睨まれただけだ!相手も私だと気がついていなかったのだ許してやれ!』

「レン様がそこまで仰るのでしたら……」


 ヘスティアは渋々殺気を鎮めると「以後気をつけるように」と一言だけ護衛に告げた。

 マルスは安著の溜息を大きく吐き出すと気が抜けたのかその場に崩れ落ちた。


 レンは頭を抱えたくなる。


 少し睨まれただけだろ?その程度で国を滅ぼそうとしないでくれ。

 世話になっている国を滅ぼすなんて冗談じゃない。


 気を取り直し執務室に入ると苦笑いをしているヒューリの姿が視界に入った。

 ヒューリも殺気を浴びたのだろうか、汗で衣装が濡れており、机の上には滴り落ちた汗が見える。


「これはレン様、先程廊下から声が聞こえたのですが、配下のものが何か粗相をしたのでしょうか?」

「その通りよ。レン様を睨みつけた不心得者がいたわ。躾はきちんとなさい、国が滅びることになるわよ」


 ちょぉぉぉぉぉ!ヘスティア何言ってんの?

 ヒューリが顔を引き攣らせてるだろうがぁぁぁぁぁ!


『誤解するなヒューリ、国を滅ぼすようなことは絶対にない』

『ヘスティアもいい加減にしろ。私は些細なことは気にしない』

「流石は慈悲深くもご寛大なレン様」


 ヘスティアはうっとりした瞳でレンを見上げると、その腕に体を擦り寄せ胸を押し当ててくる。

 

 近い!近い!近い!胸が、胸が当たってる!

 さっきまで殺伐としていたのに、何でいきなり妖艶な雰囲気を醸し出してるんだ?情緒不安定なのか?

 それに女性特有のいい匂いがする。見かけより胸も大きく柔らかい。

 このままではまずい下半身が反応してしまう、本題を切り出して直ぐに退散しよう。


『ここに来たのは他でもない。魔物や魔獣の図鑑がないか聞きに来たのだ』

「図鑑でございますか?書庫にございますのでご自由にご覧下さい」

『書庫か、了解した利用させてもらう。騒がせてすまなかったな』


 そう告げるとレンは踵を返し部屋を出ていく。



 残されたヒューリは書類に目を落とすと頭を抱えた。それは、ノイスバイン帝国からの宣戦布告の書状だった。


 レン様が滞在中になんということだ。

 戦争を回避するため手は尽くしてきたがもう無理か。

 しかし、レン様に被害が及ぶことがあってはならない。

 一旦、国を離れてもらうしかないか……

 だが、何と説明する?戦争に巻き込まれる恐れがあるため、とでも言うのか?

 もし、レン様が共に戦うと言いだしたらどうする?

 共に戦ってくださるのなら負けることはないだろう、だが本当にそれでいいのか?

 否!断じて否!レン様や古代竜エンシェントドラゴン様に万が一があっては困る。本来守るべき主を戦わせるなどあってはならない。

 開戦はまだ先だが、それまでに何とかしなければ……


「くそっ!ノイスバイン帝国め!」


 やり場のない怒りがこみ上げ、ヒューリの拳が机に叩きつけられた。

 その衝撃で積み上げられた書類は音を立てながら崩れ落ちる。

 何よりも優先すべきはレンの安全、そのための最善の方法をどうするべきか、ヒューリは頭を悩ませていた。


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