国家樹立15
エイプリルとセプテバの説得は順調に進んでいった。
抵抗の意思を見せた貴族たちも領地は保証すると伝えると手のひらを返したように従順になった。
現金なものだと思うかもしれないが、長い歴史のある家系では代々受け継がれてきた領地は何より大切なのかもしれない。
二人は貴族の説得を終えると、王族の元へと足を運んだ。
だが、王族の説得は拍子抜けするほど簡単に終わることになる。
取り巻きの貴族がいなくなったことで王族たちも身の危険を感じたのだろう。突如現れた二人の冒険者が、かの有名なSSSランクの冒険者だと聞かされると、なんの抵抗もせずに命乞いをした。
それは第一王子のリッテルも同じであった。
多くの私兵を持ち軍や特殊部隊も抱えてはいるが、動かなければただの案山子と変わらない。
二人とも貴族たちを説得した時と同様に、天井を破ってリッテルの目の前に現れると即座に拘束したのだ。
動かせる兵士がどんなに多くても命令するものがいなければ動くことはできない。
唯一、リッテルを護衛していた特殊部隊が襲いかかってきたが敢え無く無力化され、さらに二人のことを聞かされるとその場で降伏した。
護衛を失ったリッテルに出来ることは命乞いくらいのもの、斯くして大きな抵抗もなくエルツ帝国の上層部は竜王国に従うことになった。
問題があるとすれば、反乱を起こしかねない多くの騎士や兵士などであるが、それは貴族を使って順次説得することになっている。
王族は暫く竜王国の居城にて幽閉ということで一先ず落ち着いた。
レンは会議室でエルツ帝国の報告を受けていた。
『旧エルツ帝国を誰かに管理してもらう必要があるな。貴族たちとていつまでも大人しく従うとは限らん。近くで目を光らせる必要があると思うのだが――オーガストはどう思う?』
「まさにその通りかと、不定期に竜を巡回させ、逆らえば襲うと貴族たちには言ってあります。ですがそれだけでは不十分でしょう、そこでディセを旧エルツ帝国に派遣し管理させようと思うのですが如何でしょうか?」
ディセはあからさまに嫌な顔をした。別に管理が出来ないわけではない。ただ、レンから離れたところに飛ばされるのが納得できない。
「それでしたら僕なんかよりもオーガスト様が適任では?あそこも竜王国になるのですし、王自ら貴族たちに目を光らせるのがよろしいかと」
「……ディセどういうつもり?私に何か恨みでもあるのかしら?」
「恨みなんてとんでもない。僕はオーガスト様が最も適任と思ったまでです」
「もしかして私が貴方の名前を挙げたからその仕返しのつもり?」
「仕返しだなんてそんな、あまりしつこいとレン様に嫌われますよ」
オーガストは横目でレンの様子を窺い口を噤んだ。
ディセの言うことを間に受けるわけではないが万が一ということもある。
しつこい女は嫌いだと言われては立ち直れない。
オーガストはレンに視線を向けるとすべての判断を委ねることにした。勿論、自分が行けと言われないように言葉を足すことも忘れない。
「レン様、如何いたしましょうか?私は今後各国の使者を招いて正式に国家樹立を宣言しなければなりません。その後は居城で各国の使者をもてなす必要もございます」
そんな言われ方をされてはオーガストに旧エルツ帝国に行けとは言えなくなる。
尤もそんなことを言われなくてもレンはオーガストを居城から遠ざけるつもりはない、何せオーガストには政治に関わる全てをレンの代わりに行ってもらう必要があるのだから。
オーガストを遠ざけている間に不測の事態が起こっては対処できない恐れもある。レンが矢面に立たされないとも限らない。それを避けるためにもレンはオーガストを手元に置いておきたいのだ。
『そうなのか?ではオーガストには絶対に無理だな』
「はい、絶対に無理でございます。ディセは街の管理運営に携わってきましたし、人を使うことに長けております。旧エルツ帝国もディセならば適切に管理できるかと」
レンとオーガストは示し合わせたように「絶対に無理」を強調して言葉を放った。
このままでは旧エルツ帝国に飛ばされるとディセは危機感を感じたのだろう、直ぐに間に割って入る。
「恐れながらレン様、僕よりもノーヴェさんが適任ではないでしょうか?」
瞼を閉じて静かに話を聞いていたノーヴェの眉がピクリと動いた。
レンはそんなノーヴェを横目で見ながらどうするか考える。
ノーヴェも旧エルツ帝国には行きたくなさそうだな。
俺もノーヴェは遠ざけたくない、出来れば宰相という立場でオーガストの補佐に徹して欲しい。
正式に国家樹立が成された後には各国の使者や貴族が頻繁に訪れるかも知れない。
そうなった時にオーガストだけでは対応しきれないだろうし、ノーヴェは的確なアドバイスもくれる。
やはり手元に置いておきたい。
ってなると必然的にディセになるわけだが、ディセは明らかに嫌がってるんだよな……
『ディセ、私もお前が適任だと思うのだがどうだ?なにか不満があるなら申してみよ』
ディセは顔を歪める。
不満はレンから離れてしまうことだが、言ってもいいのだろうかと頭を悩ませた。
レンに不満を言うことは不敬ではないかと思われたのだ。
「恐れながらレン様、」
「ディセ!レン様のご命令よ黙って従いなさい!」
「レン様に意見するなど恥を知りなさい!」
「レン様の決定なされたことに不満があると言うの?」
声の方に視線を向けるとニュクス、アテナ、ヘスティアの姿があった。
鋭い怒声を浴びせられたディセは肩を小さくして黙ってしまう。
レンも声の主を確認して顔を顰めた。
お前ら三人がかりで虐めるなよ。
知ってるぞ、お三方とか言われて皆から恐れられてるんだろ?
そんなお前らがあんな風に言ったら何も言えなくなるだろうが。
『三人は少し黙っていろ!ディセ、私はお前の言葉を聞きたいのだ。何なりと申してみよ』
怒られた三人は見る間に落ち込んでいく。
最近は怒る機会もなかったため、三人には灸を据える意味でよかったのかもしれない。
レンは落ち込む三人をちらりと確認すると、気にすることなくディセの言葉を待った。
「レン様といる時間が減るのは――その嫌と言うか……」
一緒の時間が減るのが嫌?そう言われて考えるも一緒にいる時間は食事の時くらいのものだ。
つまりあれか、皆で一緒に食事を取りたいということか?
確かに今まで一緒に食事を共にしてきたし、今では家族のようなものだ。
いきなり遠くに飛ばされて皆と離れ離れになるのが寂しいわけか。
そこまで気が回らなかったな、ディセからしてみればここにいる皆は家族なのかもしれない。
急に家族と別れろと言われても、そりゃ納得できないよな。
『すまない、私の配慮が足りなかったようだ。では旧エルツ帝国とここを
[転移門]の魔道具で結んでしまおう』
「そ、それは、いつでも戻ってきてよいということでしょうか?」
『そうだな、食事は皆で一緒に取ろうではないか』
「ありがとうございます。旧エルツ帝国の管理は全てお任せ下さい」
『期待しているぞディセ』
ディセは歓喜で打ち震える。
期待していると言われたこともそうだが、これで自由に行き来できることが何よりも大きい。
当然、ディセも[転移]や[転移門]の魔法は使えるが命令もなしに居城に戻ることはできなかった。
だが、先ほどいつでも戻ってきてよいと許可が出たのだ、これは喜ばずにはいられない。
レンは笑顔のディセを見て安心するとアテナに視線を移した。
いまだ肩を落とし落ち込んでいる。少し怒っただけなのにどうしてこうも落ち込むのか。
レンは少し言い過ぎたのかな?と罪悪感に包まれつつもアテナに命令を下した。
『アテナ、旧エルツ帝国の居城は消滅している。同じ場所に新たな城を築いてくれ、そこを竜王国の第二の城とする。その城はディセに全て任せるため、どのような城を築くかはディセと相談するように』
『そうだな。ニュクス、ヘスティアお前たちもアテナの補佐をせよ』
それを聞くと三人は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「お任せ下さい。レン様の第二の居城に相応しい城をご用意いたします」
「必ずやレン様の偉大さを示す素晴らしい城を築き上げます」
「寝室はどうしようかしら」
『そ、そうか、頼んだぞ』
さっきまで落ち込んでいたのに何が嬉しいんだ?
相変わらず分からん……
それとニュクス、俺は寝室には絶対に入らないからな。
あと怖いから身悶えしないでくれ。
三人はディセの腕を掴むとそのまま会議室を出て行ってしまった。
レンは引き摺られながら出て行くディセを見て苦笑いを浮かべる。
生贄にしたようで申し訳なく思いながらも話を続けた。
『オーガスト、エルツ帝国から各国に特殊部隊及び密偵が放たれたと聞いたが、それはどうなっている?』
「フェブの報告では我が国へは暗殺に特化した特殊部隊が差し向けられたようです。ですがご安心ください、全て撃退しております。オクトの報告ではノイスバイン帝国への侵入者はございません。この国境は魔物の蔓延る山脈のため、後回しにされたか断念したのでしょう。ジャニーの報告ではサウザント王国へは密偵が数人送り込まれたようです。全て捕縛しサウザント王国に引き渡しております」
『そうか、皆ご苦労だった』
「なんと勿体無い。レン様から労いのお言葉を賜りみな喜んでおります」
レンが配下を見渡すと、確かに今回の任務に携わった者たちが歓喜の表情を浮かべている。
無報酬なのに何が嬉しいのか、しかも国境の警備や貴族の説得など、聞いた話だと毎日二十四時間勤務だったらしい。
日本なら間違いなく労働基準監督署が黙ってはいないだろう、経営者は社会的に抹殺されてもおかしくない。
やっぱり竜はよく分からんな……
レンはそんなことを考えつつ、後のことは全てオーガストに丸投げするのであった。




