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1-16 つける者

 闇ギルド『百鬼夜行』を討伐したカラスとスズメは、アイビスを連れて冒険者都市バルトロスに戻ってきた。

 街に戻ってきた三人がまず出会ったのは、兵士や冒険者を引き連れたギルド『暁の猫』のシロである。

 

「『鳥の巣』! 生きてたか!」


「うむ。討伐完了だ」


「これから援軍連れて助けに――――って、え!?」


「あ……すみません、そういうことで……」


 カラスたちは彼らの横を素通りし、依頼受注所へ向かう。

 受注所の建物の正面まで来た時点で、アイビスは二人と少し距離を取った。

 

「私はここで。アルバトロスに報告しなきゃいけないし」


「うむ。そうか」


(王様を呼び捨てって……この人何者なんでしょう?)


 スズメが首を傾げている間には、アイビスはもう離れた位置を歩いていた。

 それを見送りもせず、カラスはすぐに歩き出す。


「行くぞ」


「あ、はい!」


◆◆◆

「カラスさん! スズメさん!」


 受注所に入った二人を出迎えたのは、受付嬢であるハトナであった。

 カラスとスズメが無事であることを確認すると、彼女はほっと胸を撫で下ろす。

 

「無事で何よりです……依頼の方は内容が更新され、国の戦力も投入されて新しい討伐隊が組まれました。お二人はゆっくりお休みください」


「そのことなんだが、闇ギルドの討伐は完了したぞ。報酬をくれ」


「へ?」


 ハトナはカラスの曇りのない目を見つめ、呆然としてしまう。


「これが証拠だ」


 カラスは袋に包んでいた、ギルドマスターのゼクトの頭部を取り出す。

 受注所内に小さな悲鳴が漏れたが、ハトナはそれをまじまじと見て口をぽかんと開ける。


「これは確かに闇ギルドのマスターの顔……まさか本当に?」


「うむ」


「い、一応私からも本当だと言っておきます……」


「えぇ……」


 気まずい沈黙が流れる。

 三人の中で唯一状況が飲み込めていないカラスが、空気を読まず声を出した。


「それで、報酬もらって帰りたいんだが」


「あ、はい……」


 ハトナはカウンターに戻り、依頼書を確認する。


「えっと……報酬は金貨20万枚で、本来山分けだったのですが……生還した方はお二人とシロさんの三人しかいないので、一人金貨6万枚ですね」


「うむ」


「ろくまっ……」


 特にリアクションのないカラスに比べて、絶句するスズメ。

 スズメが生きてきた中で、こんな大金に巡りあったのはもちろん初めてである。

 金貨6万枚という数は、人生を何十回やり直しても遊んで暮らせるほどの桁外れのもの。

 スズメは自分の膝が笑い出すと同時に、乾いた笑いを漏らしだした。


「現金でお支払いをすることが難しいので、貯金という形で引き落とせるようにしておこうと思うのですが、どうしましょうか?」


「それでいい」


「わ、私もです……」


「かしこまりました」

 

 ハトナは苦笑いで手続きを済ませ、6万枚の報酬を受け取れる小切手を二人に手渡す。

 

「一応ご確認を……それと、街ではくれぐれもお気をつけ下さい。報酬を受け取ったことが知れれば、ちょっかいを出してくる人間も出てくると思うので」


「うむ」


「は、はい……」


 何気なく受け取ったカラスの横で、震えながらそれを受け取るスズメ。

 今住んでいる家よりもいい家に引っ越そうと決めたスズメであった。


「それではお疲れ様でした……またよろしくお願いします」


「うむ。それじゃ」


 あっさりと出ていこうとするカラスを、慌ててスズメが追いかける。


「……行くぞ」


「……」


 そんな彼らの後をつけてくる二人の男がいた。


◆◆◆

「おー、戻ったかアイビス」


「任務達成。闇ギルドは潰したよ」


「ご苦労さん。やつは元気そうだったか?」


「カラス? ああ、いつも通りだったよ」


 そう言って、アイビスはアルバトロス王の前で膝を抱えて座り込む。

 王の前での無礼な行為に、近くにいた大臣が怪訝な顔を浮かべるが、アルバトロスに手で制され押し黙った。


「それで? 裏切り者(・・・・)は見つけたの?」


「……ああ。バッチリとな」


 アルバトロスは葉巻を咥えながら、天井を仰ぐ。

 そして心底楽しそうな表情を浮かべながら、口を開いた。


「今頃カラスともう一人の嬢ちゃんに接触しようとしている頃だろう。裏切り者どもの最後の足掻きだ。ま、俺たちは大人しく見学しとこうじゃねぇか」


「……悪趣味。さっさと始末すればいいのに」


「それじゃつまらねぇ。人生ってのは楽しさ、愉快さがすべてさ。どんなときでも面白くなきゃいけねぇ。その点カラスは最高さ! あいつほど楽しませてくれるやつはいないからよ」


「どうでもいいけれど、いざとなったら私は行くから」


「ああ、構わねぇよ。そんなことにはならないだろうがな」


 不敵な笑みを浮かべるアルバトロスは、その表情を変えることなく煙を吐き出した。



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