第三章 27
利沙の話は、こうだった。
利沙がまだ小学生だった頃、学校の社会の授業で、
世界中で貧困や飢餓、難民、国境を巡る争いが絶えず、内戦を含めて、
世界が常に戦争の危機にさらされているのを習った。
しかも、今は当事者だけでなく、周辺の国まで巻き込んでしまう程。
その最たるものが核ミサイルだと。
それを知った利沙は、戦争や核ミサイルについて調べられるだけ調べた。
特に核ミサイルについては、世界中のすべての国に配置されているわけではなく、
ごく一部の国に偏って、多数のミサイルが存在している事実だった。
そこで、スピースが生まれた。
スピースが取った手段が、核を配備する国がどんな国なのか、
そして、その国は核を使用する可能性があるのかどうか。それを調べた。
様々な国の政府関係、軍事システムに侵入を試み、
調査するにつれどの国にも自らから発射する気はないが、
何かあれば、発射してもおかしくない状況にあると思われた。
勝手な思い込みかもしれないが、
スピースは、世界中の核を、発射だけはできないようにするため、
すべての核ミサイルを、自分の監視下に置いた。
どこかの国だけにすれば、違う一方がどう動くのか不明だったのと、
どの国にするかの選定にも時間がかかる。
そんなのんびりしている状況ではないと思い、だったら全部。となったらしい。
軍事システムなんて、そう簡単に侵入させてくれない。
でも、スピースにはたいして難しくなかった。
簡単に侵入し、尚、自作のシステムソフトを移殖し、次々と監視下に置いていった。
最初の国から、最後の国まで一か月とかからなかった。
それ程素早く成し遂げたのだ。
その後、様子を見て、世界中に存在する何千発の核ミサイルをジャックしたと、該当国に通知した。
その頃から、ネット上でスピースの話題が、頻繁に話されていた。
利沙が、スピースの存在を知らせたわけじゃない。
スピース被害にあった当該国の一つが、政府のシステムに侵入したスピースを指名手配したのだ。
いくら探しても、発信元を特定できず、発信元の国も特定できていなかった。
探し方も独特だった。
「スピースのハッキング技術の高さを評価している。スピースを雇いたい」
と。だから、出頭してほしいというものだった。
以降、その他の国が同じようにスピースを雇用しようとした。
こうして各国でスピースの争奪戦が繰り広げられていった。
そのうちに、ネットでも騒がれるようになった。
その騒がれ方も独特で、一方で褒めちぎりヒーロー扱い、
一方では破壊者としてテロリスト扱い。
どちらかの話題で盛り上がるサイトが、日々増えていった。
それを、スピース自身はよく思っていなかったが、自分からそういったサイトに関わったりはしていない。
でも、許したわけではなく、反対に快く思っていなかった。
出来るだけ早く、この話題を収束したかった。
その時生まれたのが、フラワーポットだった。
スピースが、注目を浴びすぎた。
それを一部でも他に向けたかった。
その役目をもう一人のハッカー・フラワーポットを生み出し担わせた。
フラワーポットは、予定通りハッキングを派手に行った。
出来るだけ目立つ方法を駆使し、活動した。
しかも、それが正義を気取るように。
次々と企業の不正を暴いていき、世間に不正ある所にフラワーポットあり。とまで言わしめた。
すると、ネットでの話題もスピースからフラワーポットに注目が移って行った。
しかし、今度は、フラワーポットがスピースと関係があるかもしれない。
そんな噂が流れ始めてていた。
すると、スピースは、フラワーポットとは別人だと証明しようと考えた。
そして、スピースはフラワーポットを切り捨てるため、
フラワーポットにサーバーを不正に使用する相手を探し出し、サーバーを使わせた。
そして、不正使用の事実を警察に提供。
当然、警察は、不正使用の証拠を押さえるため、ハードディスクを調べるだろうというそこまで考慮した。
調べれば、そこからフラワーポットの不正侵入した履歴が発見されるように、
スピースに比べれば、簡単に解ける暗号を忍ばせておいた。
警察は、予定より時間はかかったが暗号解読に成功。
スピースは、警察が思ったより時間がかかっていたので、もしかしたら失敗したかもしれないと思った。
でも、なんとか成功してくれて、家に捜査員が来た時には、ほっとした。
利沙自身には、様々な制限は加えられたが、それも計算のうち。
パソコンが使えるように、利沙の周りの人が動いてくれるだろうと、思っていた。
当時、利沙はすでに「ソロデモン」を開発、販売にまでこじつけていて、
そのほぼ全てを一人で担っていたため、今、利沙がパソコンを使えなくなると、困る人は少なくなかった。
実際、そのように動いてくれて、帰ってきてからも特に不自由はなかった。
学校もしかり、当然何かしらの動きは覚悟していた。
まさか、中学の残り半分を棒に振ってしまうなど、考え及ばなかったが、
先生達の気持ちや立場を考えれば仕方ないだろうとも思った。
そのため、それ程気にはしなかった。
ただ一つ、家族をあまり考えていなかった。
元々母親は、利沙に興味を示していなかった。
でも、あそこまであからさまに態度が変わるとは、考えなかった。
父親についても同じだった。
それまで遊んでくれていたのに、全くなくなった。
どうも、会社での立場に影響したらしかった。
保護者の同伴がないと外出できない利沙には、二人には協力してもらえず、
約半年、利沙は家から出られなかった。
兄は、時々相手をしてくれていたが、それも徐々に叶わなくなっていった。
母親が干渉してきたからだ。
利沙は、家族から避けられるようにして、過ごしていた。
それも仕方ない。
そう思い納得していた。
なぜなら、ネットからフラワーポットが消えたにも関わらず、スピースは存在し続けた。
そのため、スピースとフラワーポットは別人だ。と、世間に思わせる事に成功した。
そして、スピースも、以前ほど騒がれなくなっていた。
全てが、順調にスピースの思う通りに進んでいた。
少なくともそう思っていた。
しかし、事はそんなに単純に運ばせてはくれない。
高校でのハッキング事件を皮切りに、利沙のハッカーとしての過去の露呈。
それから始まる二回の誘拐事件。
特に、少年院に入る事態になったのは、予定外も予定外だった。
あれさえなければ、利沙はここにいるはずはなかった。
利沙とスピースが、つながらなかったはずだった。
しかも、疎遠だった母親から、警察に差し出されるなんて、最悪だ。
せめて、ゴミにでも出してくれたらよかったのに。
それが、正直な気持ちだった。




