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花が咲く 第一部 ~その時見た夢~   作者: かなた 美琴
第三章  過去との遭遇
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第三章 18

 柿平も、ごまかさずにはっきりと、


「一年半前、もっと前だったかな? 

 警察から連絡をもらってね。解析が非常に難しいパソコンを預かった。


 出所を聞いて驚いた。ハッカーのフラワーポットって言うじゃないか。

 喜んで引き受けたよ、そんな凄い奴の使ってたパソコンだろう? 

 興味を惹かれないわけないだろう。


 大乗り気で早速解析に入ってはみたものの、これがさっぱり進まない。

 さすがセキュリティ専門のハッカーだと思ったくらいだ。

 やっと解析できた時には、一年以上が過ぎていた。

 ただし、解析していく中でとんでもない物ばかりが出てきたのには、驚いた。

 まさか、とね。


 ところで、何でこれが公安に持ち込まれたか、聞いていたね?」


 そう言うと、利沙が頷いたのを確認して、こう続けた。


「君のお母さんから、部屋を片付けていたら君が使っていたベッドの中に隠すように置かれている、

 電源の入ったままのパソコンがある。

 どうしたらいいかと、警察に相談があったそうだ。

 しかも、行って見れば、確かに相談通りそのまま置かれていたらしい。

 お母さんが見つけて、提供してくれたパソコンにこれが残されていた。というわけだ。分かったか?」


 最初の余裕なんて、かけら程しか残っていない利沙にとって、

 家族から自主的に警察に渡されたという事実が、駄目押しだった。


 利沙がかろうじて残していた余裕がなくなり、焦りの表情に変わるのに、対して時間を要するはずもなく、


「どうして、公安が来るの? 

 解析したんなら、その結果を管轄の警察に任せればいいでしょう。どうして?」


 それに対して、冷静に対応する柿平だった。


「言ったろう? 厄介な事件は、俺達が引き受けるって」


「……厄介って、どうして?」

 しどろもどろに、動揺を隠さずに利沙は言い、


「どうしてって、それは君が一番良く知っているだろう? 

 それに、その態度を見れば明らかかもしれないが、改めて確認させてもらいたい。

 この解析内容に、間違いは無いね。


 君が入力したものだね。スピース?」


「ちがう。これは違うよ?」

 そう言ったかと思うと、急に立ち上がり廊下に出るドアに向かって走りかけた。


 それには、蓮堂が利沙の右手首を掴み、勢いそのままで、

 体ごと利沙の体を回転させ、すぐ前の長机に押し付けた。


 利沙は、上半身を机に押し付けられ、右手は、不自然に後ろに上げられていた。

 利沙は、全く身動き取れない状態になっていた。

 利沙は思わずうめき声を上げた。


 しかし、その時、あまりにも大きな音がしたので、隣の職員室から、先生達の数人が一気になだれ込んで来た。

 残りの先生はドアの所から覗いている。


「な、何があったんですか?」

 その先生方を代表して、園長が聞いてきた。


 利沙の不自然な格好と、今までの事を聞こうとしたが、


「いいえ、特に何もありません。ちょっとふざけただけですよ。そうだね友延さん」

 利沙は頷かなかったが、


「もういいでしょう? 今は我々だけで話をさせてくれるはずでしたよね。

 では、先生方は隣にお戻り下さい。さあ」

 そう言って、先生を職員室に戻す間に、


「でも、子どもに暴力は振るわないでもらいたい。何があったかは分かりませんが。

 話せば分かる子です。ましてや利沙は頭がいい。

 利沙はちゃんと話せば分かってくれる子です。よろしくお願いします」

 園長先生は、捜査員二人に対して頭を下げた。


「分かりました。園長先生、これからもそうしますよ」

 柿平は、ほとんど強引に、先生方を会議室から追い出した。


 その後、まだそのままでいる利沙に向き直り、


「優しい先生方だね? あの先生達を騙してはいけないと思うがな。

 ……もう逃げないなら、手を離してもいい。

 どうする、このまま話すかい? それとも、もう逃げようなんてしないか」


 利沙は、抑ええられた右手と肩が痛くて、言葉にならなかった。

 ただ頷く事しか出来なかった。


 それを見て、柿平は、蓮堂に指示した。

「離してやれ。もう逃げないらしい」


 利沙は、やっと自分の体の自由を取り戻した。ただ、右手、右肩の強烈な痛みは続いていた。

 同時にしびれている感じもした。

 すなわち、右手に力が入りにくい。


 まあ、さっきの右手が折られるような、肩が外れるような嫌な感じは収まった。


 利沙は、右手を握ったり開いたりを繰り返していくうちに、だんだんと感覚が戻っていくのを確認した。

 唇は固く結ばれたまま、表情は悔しそうだった。


「どうした、なんで逃げようなんてしたのかな? 

 これに見覚えがあるって、認めた事になるよ。それでいいんだな?」


「…………」


「いつまでも、黙ったままでいるつもりか? 

 さっさと認めた方が楽になると思うがな。……そうか、認めたらどうなるか、すでに知っているという事かな? 

 やはり情報は仕入れていたと考えると、今のも説明がつくか?」


 さっきから、柿平が一人で話している。


 利沙は、うつむいて、右手を確認するように左手を右手に重ねていたが、その拳は、硬く握られている。

 柿平も気づいていた。


「とにかく、ここでは話にならない。我々と一緒に来てもらいたい。

 と、いうより、詳しい話を聞きたいので、来てもらう。いいね?」


「誰が、スピースを捕まえる事を決めたの?」


「それに、答える義務はないよ」

 穏やかに言ってはいるが、柿平はずっと鋭い視線を、利沙からはずす事はなかった。


 利沙は、返事をためらった。

 分かっている。

 どう言ったところでもう逃げられない。

 それより確認しなければならない事があった。


「……ここに帰って来られる?」


「ん? どうした。何かあるのか?」

 柿平は軽く聞き返した。


「確認したいの、ここには帰って来られるの? また……」


「それは、もう君の中に答えはあるんだろう? 

 だったら、私から言えるのはこれだけだ。


 君の考えている通りだ。とね」


 利沙は、うつむいて唇をぎゅっと噛んだ。両手は強く握り締められていた。

 しばらく考えているようだったが、改めて切り出した。


「だったら、あいさつしてもいいの? 荷物の準備とか」

 柿平はそれに対して、


「だめだ。荷物は着替えを少しならいい。

 他の人に話しかけないように。

 いいな。それができないなら、このまま来てもらう」


 利沙は、ため息をついて、

「このままって、みんなに一言でも言いたいでしょう? なのに……」


「よく言うな、自分が何をしたのか分かっているのか? 

 自分がどんな罪を犯したのか考えてみろ。

 俺達は、お前みたいなのを、自由にさせた事を後悔してるよ。

 ずっと閉じ込めておけばよかったとね? 


 いいか、荷物の準備だけして来い。

 ただし、一人じゃない。この蓮堂と一緒に行ってもらう。


 それに持っていく物は、全て調べさせてもらう。いいな?」


 そう言うと、柿平は、立ち上がり蓮堂に改めて指示をし、二人を送り出した。


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