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第二章 18

 利沙のその言葉で、その場にいた全員が倉庫の入り口に向いた。


 男達は、皆入り口に背を向けていた。

 そこにいたのは、間違いなく夕実だった。


 しかし、不思議に思ったのは、利沙だけだった。


 倉庫に入ってきた夕実に、男の中の一人が近づいて行った。

 何か話しているが聞こえない。話が終わったらしく、男が戻ってきた。


「もう、そろそろ終わりにしないか? やばい事になってきた」

「どうした、何があった?」


 男達がなにやら話しているが、聞こえない。

 そこに夕実が利沙に近づこうとした。


「おい、何だよ? こっちに来るな。出て行け。もう、お前は関係ない」


「どうしてよ? 私が言ったのは、こんな事じゃない。もう、帰る。利沙を連れて帰るから」

 そう言って歩みを止めない夕実の前に、一人の男が立ちはだかった。


「いい事、思いついた。こいつを使おう。こいつを使って、ハッキングさせようぜ」


 男の言葉に、利沙も夕実も何の事か分からなかった。

 他の男達にも分からなかったらしいが、


「こいつ、縛っとけよ。今から説明するから」


 男は、一番気の弱そうな二人に命令すると、残った三人で話し出した。


 夕実は、嫌な予感がして逃げようとしたが間に合わず、抵抗むなしく捕まり、体ごと柱にくくられた。

 手は前で縛られた。


 男達は夕実を縛ると仲間の所に行った。

 その時、夕実は、走っていく後姿に向かって叫んだ。


「どういう事? 話が違う」

 利沙とは、少し離れていた。


 利沙には、どうして夕実がここにいるのか分からなかった。

 ただ、男達と知り合いらしいという事だけは分かった。

 でも、なぜ知り合いなのかまでは、見当もつかなかった。


 先に口を開いたのは、夕実だった。


「ごめん。こんな事になるなんて思ってなかったの。

 ただ、ちょっと怖い思いをさせてやってって、言っただけなの。

 まさか、こんな事になるなんて」


「……どういう事? よく分からないんだけど。

 なんで夕実がいるの? どうしてここが分かったの? 先生達は、知ってるの?」


 利沙は、動揺していた。

 それが自分でも分かるくらいに動揺した。

 メモリーを見せられた時よりも。


「一度に聞かないで、話すから。

 先に言っとく、先生達は何も知らない。

 もちろん、ホームの人達も何も知らない。


 私が勝手にした事だから。本当にごめんなさい」


 夕実は、動揺というよりも、おびえていた。

 その夕実が少しずつ話し始めた。


 夕実の話は、こうだった。


 夕実は、利沙がホームにいる事に納得していなかった。


 パソコン教室が始まってからも、気持ちは変わっていなかった。

 それどころか、教室が始まってからの方が余計に、出て行って欲しいと思っていた。


 表面上は、みんなに合わせていた。


 その気持ちを打ち明けられずにいた時、友達に不良と仲のいい子がいると紹介された。

 その事を思い出して、少し脅してやって欲しいと、頼んだ。


 それが、あの男達の中にいる。一番弱そうな子だった。


 まだ高校生。


 利沙の勘は、当たっていた。

 若いはずだ、まだ高校生だもの。


 夕実の話は、まだ続きがある。


 夕実は、ホームでは、お母さん的なお姉さんだった。 

 すなわち、頼りがいがあって優しい。

 おまけに頭もいい。


 勉強から、友達関係なんでも相談に乗ってくれる。

 中心的な存在だった。


 それが、利沙が来てから状況が一変した。


 利沙は、過去に罪を犯しているのに、何でも出来て。

 勉強だけでなく、それこそ夕実が担ってきた事を奪っていった。


 何もかも。


 利沙が来るまで、夕実は宏と良く話していた。

 勉強の事。学校の事。友達の事。自習室で消灯まで。


 なのに利沙が来てから、特にパソコン教室を始めてからは、宏は利沙とばかり話して、

 夕実とはあいさつくらいしか話をしてくれなくなった。


 だから、懲らしめてやろうと考え、相談した。


 それが、さっきの高校生の男の子。


「ただ、少し脅かしてくれたらいいだけだったのに」


 それが、夕実の言葉だった。



 これから先は、夕実の知らない事実。


 夕実から相談された男の子、名前はサトル。

 サトルは、自分ではどうしたらいいか分からず、いつも一緒にいる仲間に相談した。

 それがここのいるほかの子達。


 リーダー格のマサノブ。

 マサノブとは中学から一緒のカツヤ。

 この二人が高校に入ってからコウイチとリキトが加わって、サトルは一番最後に合流した。

 いわゆる一番下っ端。使いっ走り。


 そのサトルが、こんな話をリーダーに相談した事から、ここまで大げさになってしまった。

 

 本当なら、ちょっと脅してすぐに帰してくれればいいのに。

 夕実が目覚めた時、利沙がいない事に気づき、おかしいと思ってサトルにメールで聞いた。

 サトルから、ここの場所を聞き出してやって来た。


 ホームでは、利沙がいない事で、先生達が大慌て。

 今にも警察に連絡を入れるか。と、いうところまでになっていた。

 それでも、夜まで待ってみる事にして、今ホームの子ども達が、利沙を探すために走り回っていた。


 夕実も、利沙を探しに行くと言って、ホームからここへ来た。

 風邪をひいたというのも、本当は嘘だった。


 ただ、仕返しのための仕掛けにうまく利沙がかかった事で、安心して、

 気づいたら、本当に眠ってしまった。


 なのに、目が覚めた時、利沙がいなかったので慌ててしまった。


 ここに来た夕実は、利沙を連れ戻そうと思っていた。

 連れ戻せると安易に考えていた。


 警察に知らされるかもしれないと言えば、文句無く、帰れるとしか考えなかった。


 それ以外の展開が待っているとは、全く考えなかった。

 だから、ここに来るのも誰にも知らせなかった。


 こんな事になるなら、知らせるか誰かと一緒に来ればよかったと、夕実は後悔していた。


 その話を聞いて、利沙は、また同じ間違いをしていた事に気がついた。

 情報が漏れていたわけではない、小井野さんの時と同じ。


「ごめん。私が悪かったんだ。もっとよく見ていればよかった。

 そうしたら、こうなる前に、何とかできたかもしれなかった」


 利沙は、謝る事しか出来なかった。

 夕実も、


「ごめん。本当にごめんなさい」


 利沙は、覚悟をきめた。

 どんな事になっても、夕実だけは守る事。

 無事に小立ホームに帰す事。これを心に決めた。


「巻き込んでごめん。絶対帰すから。夕実の事、小立先生の所に帰すから」


「そんな、私こそ」

「しっ、あいつらこっちに来たよ」


 利沙と夕実が男達の方に向くと、

「あぁあ。どうしたの?」

 カツヤが冷やかすように言うと、


「下がってろ。俺が話す」

 マサノブが、カツヤを押しのけた。


「なあ、ハッカーさん。そろそろやってくれないか。いいだろう?」


 利沙は、それには応じようと思っていなかった。

「そういうのは、好きじゃない。もう、やめよう。こんな事していいわけ無い」

 そう言われて、どう出るのか利沙は、様子を伺った。


 すると、意外にも利沙には手を出さなかった。

 しかし、


「じゃあ、仕方ないな。おい、やっていいぞ」


 その言葉で、四人の男が夕実の体を縛っていた紐を解いて、床に押し倒した。

 手は縛ったまま。


「きゃあ!」


 夕実は、男達に口をふさがれ、逃げ出さないように手足を押さえつけられた。

 嫌でも状況は理解できた。


 奴らは、夕実をレイプしようとしてる。


 利沙は、慌てた。

「何するの。夕実は関係ないでしょう?」


「そうか? でも、お前を俺達に売ったのはこいつじゃなかったか。聞いたんだろ? 話。

 だったら、復讐するにはいい方法だと思うぞ」


「やめなさい。やめて」

 利沙は、わめき出していた。

 それを見たマサノブは、


「お前ら、もういいぞ。やめろ」


 それを聞いて、夕実から手を放した。

 夕実は泣いていた。


「じゃあ、友延。ハッキングしてもらえるか? もう手を出さない代わりに」


「えっ?」


 はめられた。


 利沙の頭にその言葉が浮かんだ。

 こいつら、私にハッキングさせるために、わざと夕実をレイプしようとした。

 私が素直に応じなかったから。


 利沙の言葉に、ついさっきのマサノブの言葉がよぎった。


「……こいつを使ってハッキングさせる」


 確かこう言っていた。


 何の事か気にはなっていたが、夕実と話している間に忘れていた。

 こういう事だったのか。


「どうした、返事は? するのかしないのか。しないんだったらこっちにも考えがある。おい、お前ら……」


「分かった。やるよ。……やればいいんでしょう?」


「へえ、やっとやってくれる気になったんだ。で、何をしてくれるのかな?」

 利沙は覚悟を決めた。もう後戻りはきかない。


「その前に、夕実を解放して、もういいでしょう?」


「だめだ、仕事が終わるまで、いてもらう。気が変わると困るからな」

 男は譲りそうには無かった。


 利沙は仕方なく、口では冷静を装っていた。

「それで、どうすればいい?」

「そうそう、その調子」


 夕実は、座らされた。

 今度は柱にではなく、そのまま足を縛られた。


「何の事。何、話してるの?」

 夕実は、途中息をつきながら聞いてきた。

「夕実は関係ない。こっちの事」


「でも、何。どうなったの?」

 しつこく知りたがった夕実に、利沙は答えなかった。


「お前をレイプしない代わりに、銀行にハッキングしてくれるんだって。

 ありがとう。さっきから、ぜんぜんやってくれなかったんだよね。

 夕実だっけ、来てくれて感謝」


 カツヤが、からかうように言った。


「うるさい!」


 利沙は、話を邪魔したが、効き目は無かった。


「本当なの? 利沙。……それって私のせい? 私がここにいなかったら」


「違うよ。夕実のせいじゃない。悪いのはこいつらだ。夕実じゃない」

「でも、私が変な事考えなかったら、こんな事にはならなかった」


「夕実。待って。そんな考え方しないで。

 きっかけはともかく、今は、こいつらが悪いの。

 夕実はここまでの事考えてなかったでしょう? 

 だったら、もう過去の事考えても仕方ない。これからどうするか考えないと」


「さすが、経験者。言う事が違うね。で、どうしてくれる?」


「じゃあ、さっきのメモリー返して」

「何で、今更。写真なんて関係ないだろう?」


「おおありよ。早く返しなさい。そっちこそ関係ないでしょう?」

 利沙と、カツヤの会話にマサノブが入ってきた。


「ほら。これだろう。やってくれるんならこんなもん、もう用無しだ」

「ありがとう。よかった」


「そんなに大事なもんなのかよ」

 カツヤが、もう一度寄ってきた。


「それより、手、解いてくれない? これじゃあ、何も出来ないでしょう」


 利沙は、カツヤに優しく言った。

「わかった。ちょっと待てよ」


 そう言って手の紐を解いた。

 利沙は何時間かぶりに自分の手を見た。

 そこにパソコンを一台持って来た。すると、


「もういいだろう。そろそろ、始めてもらおうか? 時間もあるし、今日中に金を下ろしたい」

「今日中? 今、何時なの?」

 時計を見てから、

「四時過ぎだ」

「無茶。……無茶言わないで、処理に時間がかかるし、今日中はとても無理。それに金額は?」


 利沙は、あきれていた。


「一億だ。変わりない。この口座に移せ」

「無理よ、一億なんて、どっから持ってくるの?」

「それは、自分で考えろ」


 マサノブの計画の無さにあきれた。

 しかも、移す口座は、自分のものだし。


 犯人は自分です。って言ってるようなもんじゃない。


 あきれた。とは、言い出せず。

 しかし、どうにかするしかない。でも、


「さっさとしろ。時間がないんだろう?」


 利沙は、仕方なく、パソコンを起動した。

 それからキーをしばらく打ってから、例のメモリーをセットした。


「おい、今更、写真かよ」

 カツヤが横から口を出したが、他にも言いたそうにしているのがいたが、


「うるさい。邪魔しないで、集中したいの」

 利沙が一括した。


 メモリーからは、写真などのファイルは出てこなかった。

 それに気づいたのは、パソコンが得意のコウイチだった。


「おい、何でファイルが違うんだ? なんで、そんなものどこに?」


「うるさいって言ってるでしょう。

 私のメモリーをそこら辺のと一緒にしないで、普通に起動すると写真しか見られないの。

 いくらかパソコンが出来るみたいだけど、……まだまだね」


 利沙は、キーを打ちながら言い捨てた。


「なんだと、俺を馬鹿にするのか?」

 コウイチは。興奮していた。


「うるさい。時間が無いんでしょう?」

 マサノブがコウイチをなだめた。


「コウイチこっち来いよ」


 改めてみると、コウイチは興奮というより、ショックを受けているようだった。

 そこに追い討ちをかけるように、


「私のトラップにかかるのは仕方ないわ。

 あんたみたいな素人、それも高校生に見破られるほど、安くはないわ。

 相手が悪かったわね」


 ますます、コウイチの興奮度合いも急上昇してきた。


「うるさい。集中したいんだろう。さっさとやれ。変な事するなよ。

 警察になんか知らせるな。そうしたら、お前を売ったその夕実って奴を、レイプしてやるから」


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