* 逃 避 * 2
その時の私は、壁側の私の布団ではなく、反対側の端に敷いてあった森田先輩の布団へ横になっていた。
身体は仰向けではなく、先輩達を背に横になっていた。
その方が幾分、楽だったから……と、その時のことだった。
私が横になっている布団が、次第に他の布団から離れて行く感覚。
何かに引きずられているような……。
それは間違いでも錯覚でもなかった。
重なるように敷いてあったはずの布団が、私が横になっている布団だけが、他のふたつの布団から完全に離れてしまっている。
「ちょ、ちょっと!」
頑張って声を出したけれど、誰にも聞こえていなかったよう。
それでも、まだ布団ごと引きずられている感覚。
横になっていると、当然のことながら、畳が水平に見える目線。
とうとう、畳と畳の間……所謂、畳縁が見えてしまっていた。
「やだ!」
そう声を出したはずが、声になっていない。
金縛り!
こんなに大勢の人がいる中で、そのようなことって!
金縛りの時によく遭うことだけれど、実際にこの目では見ていないのだけれど、はっきりと目に映る光景があったりする。
その時も例外ではなかった。
私が背中を向けている側から、2本の手で強く布団を引きずっているのだ。
そして、見たものが……痩せ細った腕と、骨が突き出るようなゴツゴツとした指……そして……白髪だった。
「助けて!」
そう叫んだけれど、やはり声にならない。
身体が動かない。
闇の中へ引きずり込まれそうな感覚。
「もう、おしまい!」そう思った時、あの消防隊員の声がした。
「あれ……いつの間に……」
その声と共に、金縛りがとけた。
やっとの思いで、背中を向けていた消防隊員の方へ向きなおした。
「え????」
そこで私の目に入ったものは、自分が寝ている布団が、部屋の中央近くまで移動していたこと。
ほとんどの消防隊員が、森田先輩が寝ていた逆側の方へ集まっていたためか、その時に私に起こっていたことに気付いていなかったようだった。
時間にしたら、ほんの何分かの出来事でもあったはずだから……。
「いつの間に」と言った消防隊員だけが、気付いてくれたようだった。
とはいえ、まだ言葉を発するともどしそうな勢いだった私は、その数分間に起こったことを説明も出来ずにいたのだった。




