22.噴水と瘴気
(な、なんで噴水から瘴気が!?)
慌てて周りを見渡すと噴水の異変に気付いている人はいないようで、まさか私が幻覚でも見ているんじゃないかと思ったが、私の様子がおかしいことに気づいたリティアが視線の先を見たのか、サッと顔を青くした。
「な、なんですかこれは……!?」
噴水からはずっとドロドロとした黒いものが湧き続け、ついにドロリと溢れ始める。その段階で周りにいた人達もその異変に気付き始めた。
「な、なにあれ……」
「なんかやばくないか、まるで瘴気みたいな……」
「ねぇ、ちょっと離れたほうがいいんじゃない?」
流石に余興には見えないのだろう遠巻きに噴水を眺めていた彼ら出会ったが、その瘴気から黒い狼のような獣が現れた瞬間、疑問が恐怖に変わり悲鳴が上がった。
「きゃああああああっ!」
「しょ、瘴気だ! 噴水から瘴気が! 早く逃げろぉ!」
「な、なんで……! もうなくなったんじゃないのかよ!?」
一度大きな悲鳴が上がるとそこから人伝いに連鎖し恐怖が感染していく。一瞬にして中央の噴水広場は阿鼻叫喚になり、それに呼応するように黒い獣は鈍い雄叫びを上げると逃げ惑う人々に突進していった。
「いやぁっ!」
その獣が最初に狙いをつけたのは突然の騒動に反応出来ず逃げ遅れた女性。彼女もそれに気づいて慌てて逃げようとするも恐怖からか足がもつれ転んでしまい、そこに獣が飛び掛かる!
「あ、危ない!」
まさに獣の牙が届いたと思った瞬間、まるで壁に弾かれるように黒い獣は後ろに弾き飛んだ。
「え……?」
「早く逃げてください!」
「あ、貴女は王女様……?」
怯えていた女性が顔を上げるとそこにはリティアが立っていた。私の横にいたはずなのに咄嗟の判断で割り込んだのだ。
(い、いつの間に……?)
その動きの早さに驚いたが、そういえばこういう戦いを何度も繰り広げてきたのだったと思い至る。
彼女が祈るような姿勢を取ると空から光が落ち獰猛な獣をあっさりと消し飛ばした。
「さぁ、今のうちに逃げてください」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
リティアにそう諭された女性はお礼を言いながら逃げて行った。
「リティア、大丈夫!?」
「私は大丈夫です! しかし、なんで噴水から瘴気が……」
リティアが睨みつける噴水は変わらず黒い水を流し続け、そして最悪なことにそこからまた同じように黒い獣が何体も浮き出てくる。
「とにかくこの瘴気は私が対処します! ナコさんはミリナと逃げて……ミリナ!?」
「えっ!?」
リティアの悲鳴のような声に慌てて振り向くと尻もちをついたミリナと、その目の前には獣が牙を剥き出しにしていた。その距離は近くリティアでも間に合わない。となると動けるのは私だけ……!
「ナコさんっ!?」
そう思うと同時に体が動いていた。動けなくなっているミリナに覆いかぶさるように、そして獣には背を向ける形で割り込んだ。そして鋭い痛みが背中に走る──
「ギャン!?」
と思ったが響いた悲鳴は私のものではなかった。恐る恐る目を開けて獣がいたところを振り向くとそこには一人の女性が剣を振りぬいた姿勢で立っていた。
「り、リベリカさん!」
「すみません、まさかこのような事態になるとは……! 警備の人数はもっと増やしておくべきでした」
見てみると広場では逃げるのではなく戦っている人がいた。服装は一般人だが剣や盾を持ち連携しながら獣に応戦していることから、彼らが警護としてついてきた人達なのだろう。
「二人とも大丈夫ですか!?」
慌ててリティアが駆け寄ってきたが幸いに私も抱きしめているミリナも無事だ。ただミリナは恐怖に震えて声を出すこともなく怯えているようだった。
「リベリカ、ミリナを安全なところまでお願いします。私は噴水を浄化出来ないか試してみます」
「はい。護衛の者は既に王城に向かっているのですぐ援軍も来るかと。ミリナ様、どうか気をしっかり持ってください。今は私と逃げましょう」
獣の数は増え続けている。何とか対処しているがこれらが散開して街中に飛び出して行ったらとんでもないことになってしまうのは目に見えている。リベリカはミリナの前に屈みこみ優しくそう諭すが、彼女はその不安げな瞳をリティアに向けていた。
「あ、う……ね、ねーさまは?」
「私は大丈夫。護衛もいるしすぐに追うから。今は逃げて、ね?」
「で、でも、またねーさま遠くに行っちゃう……リベリカが連れて行って会えなくなっちゃう……いや……また一人はいやなの」
それを聞いたリベリカさんの表情が曇る。城で会った時ミリナの様子がおかしくなったわけがわかった気がした。だけど今はそういうことで揉めている暇はない。リティアもそれがわかっているのか言い聞かせるように詰める。
「ミリナお願い。すぐに戻ってくるから今は言う事を……」
「……! 姫様っ」
しかし、リベリカさんの声でハッと周りを見渡すといつの間にか黒い沼が私達を中心に囲んでいた。リティアは顔を青ざめる。
「そんな、いつのまに!?」
周囲の状況と比べると明らかに私達だけを狙っているように蠢く沼にただの災害ではない人為的な何かを感じ身構える。
ボコボコと歪な音を出すそこからさらに獣が生まれ包囲される。こうなってはミリナを逃がせないし、護衛の人達はまだ他の獣と戦っている最中、城からの援軍もまだ到着していない。
「くっ!」
「ね、ねーさまっ」
リティアは慌てて結界のようなものを作った。私達の周りに瞬時に壁が発生し獣の侵入を防ぐ。しかし、流石に相手が多すぎるせいか彼女は結界に攻撃が入るたびに苦しそうな声を上げ、結界にも少しずつヒビが入り始める。
(ど、どうしよう! 何とか、何とかしなきゃ……!)
そんな中私はというとどうしたらよいかと慌てるだけ。せめてこういう時に何か出来ることがないか神様から説明を……あれ、説明?
「ああああああっ、神楽鈴!!!!!!」
瞬間、自分のバカな記憶力を呪いながら私は神様から託された力を思い描き、いつの間にか手に握られていた神楽鈴と共に獣たちの前に立ち塞がった。
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