23.初めてのちゃんとした浄化
「ナコさん!?」
急に前に出てきた私に驚いたリティアの声が響く。しかし今の私は自信満々である。何せ神様からのお墨付き武器、所謂最強武器と言っても過言ではないのだ。
そこまでゲームに熱中していたわけでもないが、やはり強い武器というものには惹かれる。
「任せて。ここは私が何とかするから!」
「だ、大丈夫ですか……!?」
恐らく私が女王様の治療をした時に倒れてしまったから心配なんだろう。しかし、今の私にはこれがある。そう思って神楽鈴を空に勢よく掲げシャラン……という音が響いた。
「…………?」
そしてその場を静寂が支配した。
「えっと……あれ?」
「な、ナコさん?」
何も起こらない。流石に気まずくなって焦るように神様の言ったことを思い出していた。
『これは貴女が願えば手元に出現するようにしてあるから、何か怪しい所とかあったらこれを鳴らしといて!』
神様の言うとおりであれば鳴らせばいいはずなのだ。それだけで明らかに目の前の瘴気は消えるはず。なのに何も起こらない。そして痺れを切らしたように再び獣達が唸り出す。
「姫様、私が出ますので結界の維持を!」
「……わかりました! 無理だけはしないように!」
リベリカさんは改めて剣を持ち直すと結界から出て獣達と対峙する。こうして戦うのは初めて見るが彼女は強く瞬時に何体も獣を斬り飛ばすものの、相手の数は瘴気から生まれ増えていくばかりだ。善戦はしているものの一人では限界がある。
(ま、まずいまずいまずい! 何、何が足りてないの!?)
慌てるも事態は一向に良くならず焦りだけが積もっていく。
その時私のマントが小さな手に掴まれた。私よりも小さなその手がミリナのものであることはすぐわかった。
「……ナコねーさま、私のせいで、ごめんなさい」
体は震えているし今にも泣きだしそうなその表情を見て思考が止まる。結界のひびはどんどん大きくなっており、今にも壊れてしまいそうだ。戦っているリベリカさんもまだ動いてはいるが負傷も増え始め、リティアは脂汗をかきながらも必死に力を使っている。
(そうだ。能天気に考えている場合じゃないんだ)
まだ心のどこかではここが異世界だと思いどこか客観視していたのかもしれない。結局自分は部外者のようなつもりで斜に構えていた。私はマントを握る震えた手にそっと自分の手を重ねた。
「ナコねーさま……?」
「ごめんね。もう大丈夫、切り替えたようん」
一度呼吸を整えてから改めて神楽鈴を握る。そうこれはフィルターなのだ。瘴気を吹き飛ばすものではなく取り込んで浄化するもの。イメージするのは「空気清浄機」。
(最初は変な例えをだと思ったけど、なんだかんだ想像しやすくていいかも)
振ってもいないのにシャンシャン、と神楽鈴の音が響き始める。さっき空に掲げた時とは違うこの広場全体に広がっていくような神秘的な音だ。
瞬間、瘴気の獣達の動きが止まった。いや、止まっただけじゃない。
「瘴気が……崩れていく?」
リティアの呆然とした呟きと同時に私達を囲んでいた瘴気がサラサラと崩れ去り神楽鈴に取り込まれていく。その場に蔓延していた息苦しい感覚は薄れ曇っていた空間が晴れていく。だけど女王様の治療の時みたいな体の重さはない。
(空気が綺麗になるイメージ! 空気が綺麗になるイメージ!)
そして渦中の私は浄化しなくてはと必死だ。何となく瘴気を取り込んでいっている感覚はあるがどこまでやればいいのかわからず、ただ必死に神楽鈴に思いをぶつける。
……どれだけ経っただろうか。いつの間にか瘴気を吸っている感覚はなくなっており恐る恐る周囲を確認した。
「ナ、ナコさん……なんという……」
「こんな簡単に瘴気を消すとは」
リティアとリベリカさんの感嘆の声、さっきまで悲鳴の上がっていた噴水広場はまるで何事もなかったかのように静まり、黒いドロドロも元からなかったかのように見当たらなかった。
「な、なんとかなったぁ……?」
緊張が解けてペタリと座る。慌ててリティア達が駆け寄ってくるが今回はまったく体に異常なしで元気だ。
「大丈夫大丈夫。この神楽鈴がなかったから女王様の時は倒れちゃったみたい」
「まさに神具ですね……! なんというものなのでしょうか?」
「これ? 神楽鈴って言って私の国にまつわる道具、って感じかなぁ」
ちなみにそんな詳しくないので起源とかはしらない。巫女さんがこれ使って舞っているのを見たことがあるぐらいだ。
とにかく、この場の瘴気が治まってよかった。そのタイミングで城からの援軍が到着したが何も起こっていない広場を見て皆呆然としていた。リベリカさんはすぐに彼らにあったことの説明を行い、他に被害がないか確認するために散開していった。
このあたりの動きの良さは流石である。
とりあえず一件落着だろう。ふぅとため息をついたらリティアの前でミリナが俯いていた。
「ね、ねーさま、ごめんなさい」
「…………」
我が儘を言ったことを怒られると思っているのだろうか、しかしリティアは怒るのではなく彼女をギュッと抱きしめた。
「確かに少し我が儘なのは良くなかったけどそれより無事でよかった。でもリベリカには後でちゃんと謝ろうね? 今までのこと含めて。彼女は私達を守ろうとして戦ってくれているんだから」
「……うん」
「いい子ね。それといくら国のためとは思い詰める程寂しくさせていてごめんなさい。今回のようなことがあったから約束は出来ないけどこれからは一緒にいようね」
「本当……!?」
「出来る限りね。だから私とリベリカのことも許してくれる?」
「うん。ねーさま大好き!」
そういって抱きしめあう姉妹、良い光景である。そして噴水広場のほうの騒ぎが治まったのを感じ取ってか人々が集まってくる。僅かな負傷者はいたものの死者はいないようで、壊れた屋台などはあったが最悪の事態だけは防げたようだ。
「ナコさんありがとうございました! あの瘴気を浄化するなんて凄いです!」
「ナコねーさますごかった! ぶわーって黒いのいなくなった!」
「いやー、どうもどうも。でも、私の力ってわけではないからあんま褒められても恥ずかしいね」
ガヤガヤと周りが徐々に騒がしくなってくる。ほとんどは野次馬だろう何があったのか見に来た人たちのようだ。まあ、屋台とか壊れたものはけっこうな惨状だし気になるのも仕方ない。
……それにしては何だか皆こっちを見ているような気をする。なんで? と思ったいたら護衛に指示などを出していたリベリカさんが慌てて戻ってきた。
「……姫様方。その、このような事態が起こったのでしょうがないとは思うのですが、お姿が完全に見えております」
「え? あっ」
そういえばお忍びであったことを思い出し頭に手をやるが返ってきたのはモフっとした感触。そしてお尻に手をやるとやっぱりモフっとした感触。
「フードとか全部ずれてる……!」
民衆から見た図としては姫様姉妹と謎の狐娘。そして静まった瘴気騒動。注目を浴びるのは当然で。
(あれ、何か一番望んでなかった状況じゃない???)
目立ちたくない、という私の願いが真っ向から否定されてしまっていた。
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