20.着せ替え人形
たくさんの服に何度も何度も着替えされられることを着せ替え人形などと称する表現は珍しくないが、今の私はまさしくそれだった。
「ナコ様にはシンプルな服装が似合うでしょう。白銀の髪や尻尾と合わすならこちらです」
「まさか! このようなお姿なのにオシャレをしないなんてありえません!」
「それよりもお忍びだからあえて男性の装いはどうでしょうか……!?」
数人のメイドさん達(アレイラさん含め)がわぁわぁ言い争っては服を与えられるままに着替えさせられる。人前で下着姿を晒すのも何度も行っているうちに恥ずかしくなくなっていた。たぶん私の目から徐々に光が失われているに違いない。
アレイラさんが一番上のはずだけど他のメイドさんと普通に口論しているから、強固な上下関係とかないのかなぁなんてぼんやりと考えていたら部屋の扉が開く音。
「だいぶ時間がかかっているみたいですね?」
「……えっと、リティア?」
声はリティアだがその装いは今までの聖衣とかドレス調のものではなく、シンプルなワンピースにエプロン、髪は後ろに結ばれ首にはやや質素なスカーフが巻かれている。
彼女は私の戸惑う声にやや照れながら答える。
「あ、あはは……どうでしょうか。ナコさんがあまり目立ちたくないということで私もお忍び用? という形で用意して頂いたのですが」
「雰囲気がめっちゃ変わっててびっくりした……」
イメージとしては商人の娘らしく、気にしてみれば立ち姿や振る舞いから怪しまれるかもしれないが人混みにまぎれたらまずわからないだろう。
「でもすごく良いと思う! 逆にオシャレまであるかも! リティアって何着ても似合うんだねぇ」
「今までお忍びなんてする必要はなかったので新鮮ですが、ちょっと恥ずかしいですね」
そういってはにかむ姿はやっぱり王女で美しい。聞けばミリナも同じようなコンセプトで準備しているところでありもうすぐ終わるとのこと。となると残るは私だけだが……
チラ、とメイドさん達を見ているとまだ白熱した戦いを繰り広げている。そんな彼女らを見てリティアは珍しくため息をついて口を開く。
「皆さん、今回はあまり目立たないようにするのが目的ですから不必要に着飾る必要はありません。ナコさんが目立ちにくい恰好を第一に考えてくださいね」
「……ですが、その立派な耳と綺麗な尻尾はどうしても目立ってしまいますし、それならいっそ輝かしい服を着て貰ったほうがまだよいのではないかと思いまして」
「…………それはそうですね」
「リティア? 諦めないで?」
チラッとこちらを見たリティアの反応に唖然とする。そんなこと言われても尻尾や耳を隠すことも出来ないし、じゃあ黒く塗ろっかなんて冗談交じりに提案してみたらすさまじい形相で皆に睨まれた。ひどい話である。
「ねー様! なこ様!」
その時再び扉が開き勢いよくミリナが飛び込んできた。知らない使用人が後ろから慌てて追ってくるところを見ると走ってきたのだろう。リティアと同じく商人の娘のような格好の彼女は二人で並ぶと当たり前だけどしっかりとした姉妹に見える。
「こんな格好初めて! どう!?」
「とってもかわいいわ。だけどバタバタと走ってきたらだめよ。迷惑をかけるようだったら連れていけないって話したでしょう?」
「う……ごめんなさい」
注意されてしょぼくれてしまったミリナをリティアは愛おし気に撫でる。そして改めて私に向き合った。
「実際ナコさんの耳と尻尾はどうしても目立ってしまいそうですね」
「気になってたんだけど私みたいに耳とか尻尾とか生えている人っていないの?」
「いえ、獣人の方々はいらっしゃいますよ。ただ、ナコさんのような美しく大きな尻尾は滅多にいないと思います」
獣人と呼ばれる種族は人と動物のちょうど中間的存在で、耳や尻尾だけ変わっていたり、腕や足まで動物であったりと個人差があるらしい。
「フィオレンティアでは種族による差別は法律により禁止されていますが、他国からの観光客などすべてを制御することは出来ず……過去には獣人を狙った人身売買の事件もあったりしたので、そのままの姿で人前に出るのはリスクがありそうです」
お祭り騒ぎの城下町はその分人も多く、その分母が多くなるとよくない考えを持つ者も増えてしまう。実際に窃盗やら暴行やらの事件は増加傾向らしく、警備のリソースもだいぶかかっているらしい。
しかも今回は私の隣には可愛らしい商人の姉妹2人がいるのだ。護衛が近くに待機していたとしても予測できない事態に巻き込まれたら全員を守るのは難しいかもしれない。
「……仕方ありませんね」
その時、アレイラさんがさも残念そうな声でそう呟いた。
「本当に、本当にナコ様を着飾れないのは侍女長のプライドとして決して許されることではありませんが…………」
(えらい溜めるな)
「今回は涙を飲んで出来る限り要望に添える形で整えさせて頂きます」
元々そういう話だったんじゃ? というツッコミは流石にしなかった。
*****
「ふぅ……やっと終わった」
「すみません、とても優秀な方達なのですが熱が一度入るとあの調子でして」
リティアも過去に経験したことがあるのかもしれない。そんな響きをにじませながら謝る彼女に慌てて修正する。
「いやいや、リティアのせいでも誰のせいでもないよ! 色々と服を着れたのは何だかんだ面白かったし」
それは本心だ。やはり地球とはファッションというか諸々違いはあるもののワンピースやドレスなど着飾るとどこかワクワクしたのも事実。
そう伝えるとリティアは少しだけ安心したように息をつく。
「ナコさんが不快に思われてないのならよかったです。もし聖域に戻る際に欲しいものがあったら何でも差し上げますので言ってくださいね?」
「な、なんでも? まぁ考えとくよ。うん」
ただ、金銭的な感覚はやっぱり王族か。たぶんあの一着一着が恐ろしく高いだろうにそれをあっさり差し上げようとするのにはちょっと引いていた。
さて、そんなわけで私とリティア、ミリナは使用人の人達と共に城の玄関にいた。送迎用の馬車が来るまではここで待機だ。
(それにしてもやっぱりちょっと窮屈だなぁ。しょうがないんだけど)
結局私の恰好は無難な一般的な庶民のものにまとまった。ただそこに巨大なフードとマントを追加している。フードはもちろん耳を隠すため、そして不必要に広いマントは尻尾を隠すためである。このマントの端を前で持つようにすれば尻尾をそのまま包める優れもので、こうした服装は砂漠などで砂煙を防ぐため重用されるらしい。
「私達の設定としては旅商人として訪れて散策をしている集団ということになります。普通に歩く分には大丈夫だと思いますが、出来る限り離れないようにしましょう。ミリナも気になるものがあったからって急に駆け出したりしたらだめよ? いい?」
「はーい!」
ミリナは出かけること自体が嬉しいのか大きな声で返事するとリティアにピタリと引っ付く。外に出てからでいいのよ、とリティアが言っても離れる様子はない。
(仲良しの姉妹は世界が変わってもいいものだね……)
一人っ子の私はそんな姉妹に向けて心の中で感想を送る。そうして微笑ましく彼女らを観察……見守っていたら城の扉が開いた。そこから現れたのは、この世界で数少ない知り合いの一人だった。
「リベリカさん!」
山から下りてこの国まで来る際にとてもお世話になった彼女である。ただ今日の装いは前のプレートメイルではなく街中で見かけたような庶民の服になっている。
「一昨日ぶりですね神子様。元気そうで何よりです」
「リベリカ、本日はよろしくお願いしますね」
「……正直、保護者役というのは荷が重い気がするのですが善処します」
「保護者役?」
「はい。今回はリベリカに保護者のフリをしつつ護衛を任せることになっています。護衛に着くのは彼女だけではないのですが、大人の方を必ず近くに付けるようお父様からきつく言われておりましたので」
「そうだったんだ! 確かにリベリカさんが親としていてくれるなら安心だねぇ」
そう言われたリベリカさんは少し恥ずかしそうに頬をかく。
「普段の鎧がないと少し落ち着かないですがしっかりとお守りいたします。ミリナ様もよろしくお願いします」
「う、うん……」
ただ、ミリナの反応は私の予想と違った。てっきり今まで通りハイテンションな感じになるかと思いきや、どちらかといえばどこか遠慮しているような警戒しているようなそんな雰囲気である。
対するリベリカさんもどこかしょうがないといった風に笑顔を作り、リティアもどこか困ったような表情をしている。
(……どういうこと?)
そんな疑問を一つ抱えながらも、私達は城の前に停まっている庶民用の馬車に乗りこんだ。
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