19.異世界事情も複雑で
「いや、それだけは勘弁してください!」
開口一番はそれだった。ギレン王はそんな私の回答をある程度想像はしていたのか「やはりか……」と呟く。
「今までのことやナコ殿の振る舞いを見ていると恐らくそれを望まないとわかってはいたのだが、本当によいのか」
「はい! 本当に大丈夫です!」
私のことを公表したいというのは主に国としての意向らしい。主なメリットとしてはそうした存在だと証明することで危険分子などから守る口実を作ることが出来る。そしてこの国を拠点とする形を持てば他国からの不要な干渉を防げるということだった。
「えーっと、そもそも危険分子とか他国っていうのは……?」
「それについては私から説明をさせてもらうわ」
割って入ってきたのはクリシュナ様である。ここに来る前にリティアが言っていた「大陸のこと」について説明が始まる。
「まずこの国フィオレンティア王国は大陸の中心からやや西にある国で、ナコ様がいらっしゃった山も我が国の領土になっています。そして我が国よりさらに西にエルトワレ聖教国があります」
「お母様の故郷でもあるんですよ」
リティアの補足も入って説明が入る。聖教国はこの世界を作った女神さまを信仰する宗教を基礎とした国である。まだ会えていないリティアの兄が向かっていたのがこの国らしい。
「基本的に東西南北に大きな国がある認識でいてくれればいいわ。南は森林が多く広がっていて国というものはないけれど『魔女の森』と『エルフの里』がありそれぞれの規律によって治めているわ」
(エルフ、魔女……!)
ファンタジーにとっては欠かせてはいけない存在(主観)が出てきてワクワクしたが、今は話を聞き続ける。
「東の方を治めるのはグラハイム連合国。治めるといっても多々ある国がそれぞれ領土を持っていて小競り合いが多い地域よ。例え瘴気の影響があってもね。それとその最奥の地域には竜が住んでいると言われているのだけど、これはあくまでも伝聞の話」
(竜、ドラゴン……!)
そういえばよく神社の上を小型のワイバーンらしきものが飛んでいたと思い出す。つまるところそういう存在がいても何らおかしくはない。
そう淡々と説明する王妃であるがギレン王が何か苦虫をかみつぶしたような表情をしていることから、何らかの苦労が伺える。
「そして北。ローデンガルド帝国。ここは年中気温が低くて時期によっては猛吹雪になる地域でね。そのせいかあまり情報はないの」
そしてそれぞれの間には小さな国などが存在しているが細かく説明されても混乱されそうなので、とりあえず国の説明はそこで終了する。
「問題なのは今回このフィオレンティア王国で起こったことが各国に伝わること。商人達はもちろん密偵だっているでしょう」
「中心人物がナコ殿だとわかると、恐らく各国は何とか確保しようと動くのではないか、というのが目下の懸念だ」
「そ、それが危険分子っていうことですか……?」
恐る恐るそう聞くと、ギレン王は首を振った。
「危険分子というのは各国の圧力などではなく直接的なものだ。その者らは自身らを救世主と称して、瘴気が世界を正しい形に変えると本気で信じている者達の集団のことだ」
……急にきな臭くなってきたぁ!
*****
話し合いが終わった。というのもギレン王は政務で忙しく時間がなくなり、クリシュナ様はまだ病み上がりで医師から制限を設けられているため部屋に戻って休む時間になったのでお開きになったという形が正しい。
(まぁ、平和なだけの世界があるわけないかぁ)
再びリティアとアレイラ含めた使用人、そして今回はミリナも一緒に廊下を歩く。救世主、もしくは世間から闇の教団と呼ばれる集団はすっごく簡単に表すとテロリストのようなものだった。
彼らは瘴気を神として崇めており、瘴気が溢れる世界こそが常識だと思っており各地において破壊活動やら何やらを行う迷惑極まりない集団である。
無論、各国がそれを認めているわけもなくどの場所であろうと指名手配されているらしいが、名前の如く闇の中に紛れて行動することが多く手を焼いているのが現状……らしい。
「ふんふんふふーん♪」
ミリナは難しい話はよくわかっていないのか上機嫌に鼻歌を奏でているが私やリティアは無言で別に喧嘩したわけでもないのに気まずい雰囲気が漂っていた。
そしてそれを破ったのはリティアだった。
「……その、すみません。いずれキチンと説明をしないといけなかったことなのですが、矢継ぎ早な説明になってしまい」
「あ、いや全然! ちょっと驚いたけど、まあそういう集団もいるってことは何となく理解できるよ」
表立っていないだけで私の生きていた世界にも行き過ぎた陰謀論者はいたし、それらが起こした事件も決していないわけじゃない。
「あくまでそういう集団がいるってだけでフィオレンティア王国では活動があったという報告はないですし大きな心配はいらないと思います。ただ、彼らからしたらナコさんは正反対の存在なので……だから、正直に言うと公表して保護する大義名分としたかったのですが」
もちろん、そうすることでこの国が得する部分もあるのだろう。だけどやっぱり目立ちたくはない。恐らく言われるがままに国民の前に出たらきっとあの山にも毎日のように人が来るかもしれないし、そうして公表したところで逆に災いを呼ぶ可能性も否定できない。
(まあ、結局のところのんびり過ごしたいってのが本音だけど)
「まあ、大丈夫だよ! 瘴気はもうどうとでも出来るだろうしその変な集団も瘴気があるところに現れるんだったら猶更私のところには来ないんじゃない?」
「そうだといいのですが……ただやはり心配ではありますのでナコさんの聖域には定期的に警備隊の巡回が入るかとは思います」
「それはしょうがないね。リティアもその時遊びに来なよ」
「ねーさまずるい! ミリナも行きたい!」
遊びに行く。という言葉に反応したのかミリナはパタパタと駆けよってくる。警戒心のない子供の可愛さというか愛おしさというか、思わず頭を撫でてあげると「えへへ」とニコニコ。とんでもない癒し幼女である。
「ミリナちゃんもいつでも遊びに来てねー」
「うん!」
たぶん許可を取るのが大変そうだけど気軽に遊びに来て欲しいものだと思う。そして私の寝ていた部屋の前に着いた。
「それでナコさん。先程城下町の散策をしたいと仰っていましたが、良ければ今から準備をして行きませんか?」
「え、いいの?」
てっきりあんな話をされたから難しいと思い、お暇しようかと考えていたぐらいだから驚きの提案であった。
「お父様やお母様にも既に許可は頂いております。もちろん警備はバレないように配置されますが」
「それなら行ってみようかな! あのお祭りの感じは気になってたし」
「ねーさま、ミリナも一緒に行っていい?」
そしてその提案に乗りたい娘がまた一人。リティアは視線を合わせるように腰を下ろすと微笑んで答えた。
「もちろん、ミリナも一緒に行こうね。でもちゃんとお出かけ用の支度をしてから。いい?」
「……うん!」
微笑ましい姉妹達の姿。つい先程食卓でリティアが見せた物憂げな瞳はそこにはなく、ただ優しい姉がそこにいた。
「ではリティアさんも流石にあの神子服では出歩けないので、しっかりとアレイラ達に準備してもらってくださいね」
「ん……?」
瞬間、後ろから邪な気を感じて振り返る。そこには使命感──いや、どちらかというと獲物を前にした狩人がそこに立っていた。
「ナコ様、少々お時間はかかると思いますがどうかお付き合いくださいませ」
「え、あ、いやっ、別に適当でいいんだけど……?」
「そういうわけにはいきません。王城に仕えるメイドとして恥のないよう完璧に準備をさせて頂きます」
お覚悟を。という言葉が聞こえそうな使用人……いや、戦士たちを前に私は部屋の中に連れ去られていった。
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