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15.母のぬくもり

今回の話はリティア視点となりますのでご注意下さい

15

 ナコさんが過ごしている部屋から飛び出した私は息を整えてからお母様の部屋に向かっていた。以前に使っていた病室ではなく本来の私室に近づいていくと中からキャッキャとはしゃぐ声が聞こえる。

 その声を聞きながらノックをして入室すると、その声の主はこっちを見て途端に顔を輝かせた。


「ねーさま!」


 彼女はパタパタと駆けてくるとすごい勢いで飛び込んでくる。姿勢を低くしてその軽い体を受け止めるとそのまま抱き上げる。


「ミリナ……あんまり騒いだらだめよ。お母様も病み上がりなんだし」

「リティア、大丈夫よ。あなたもこちらにおいで」


 部屋の寝台にはお母様が上半身だけ起こして横になっていた。きっとお父様が無理はするなと寝かしたことは想像に難くなかった。ただ部屋の中には侍女が数人いるだけで父の姿はない。恐らく今回の事態について色々と追われているのだろう。

 ミリナを抱いたままお母様に近づくとそのまま一緒に優しく抱擁される。


「謝るのが遅くなったけど二人ともずっと心配をかけていてごめんなさい。それと国のためにたくさん頑張ってくれてありがとう」

「お母様……」


 ナコさんが瘴気を祓ってから倒れてしまい色々とバタバタしていたので、こうしてちゃんと落ち着いてから話せたのは今日この時が初めて。


「ねーさま……泣いてるの?」


 ふわっと抱きしめられてから髪を撫でてくれる優しい手の感触とその穏やかな声を聞いたのがもうずっと昔のような気がして、そしてミリナに言われてから自分が涙を流していることに気が付いた。それを見た母の表情も少し曇る。


「本当にごめんなさい。私が倒れてしまったせいでたくさん辛い思いをさせてしまったわね」

「そんなこと……ありません。色んな人が助けて、くれましたから……」


 言葉を紡ぐたびにどれだけ我慢をしても勝手に涙が流れてしまい、その粒をお母様の細い指が拭ってくれる。


「ミリナも……ずっと会えなくて寂しかったでしょうに。それでも文句も言わず一人で静かに過ごしていたと聞いたわ。偉かったわね」


 ミリナだってこうして今でこそはしゃいでいるが、瘴気で倒れてしまった母には安全上の理由で会えず、私やお父様も瘴気との戦いで忙しく話す機会もなく、遊び盛りだというのに迷惑をかけないようにと一人で静かに過ごしていたのだ。

 私がまだミリナぐらいの年の頃はいつも両親や色んな人達と遊んでいたのに、彼女はそれをずっと我慢していたのだ。その境遇を改めて考えるとあまりにも悲しくてお母様と同じくミリナをギュッと抱きしめた。


「かーさま、ねーさま……?」


 ミリナは不思議そうにしていたが、しかし私の感情が肌越しに伝わってしまったのか、フルフルと震えるとぐずり始めた。それでも我慢している様子の彼女にお母様が優しい声をかける。


「ミリナ、いいのよ。もうたくさん泣いても騒いでも……お母さんがいるから、ね?」

「う、ぐすっ、う、あ、うわぁぁぁぁぁん……!」


 そしてようやくミリナは子供らしく大声で泣き始めた。それは決して悲しいだけの涙ではないが、私も声に出さず静かに涙を流し続けた。


*****


「あれだけ泣いて疲れちゃったかしら」

「恐らく……でもたくさん泣けてよかったと思います。ずっと耐えていたでしょうから」


 ミリナは泣き疲れたのかいつのまにか私とお母様の間で眠っていた。今は母の横で穏やかな寝息を立てている。その小さな手が裾を強く握っており、お母様はやっぱり申し訳なさそうにその頭を優しく撫でていた。


「貴女も同じように声を上げて泣いてよかったのよ」


 少し揶揄うように言われたので少しムッとして言い返す。


「もうそういう年ではありませんから……それにミリナの前でそんな姿を見せられません」

「すっかりお姉さんになって嬉しいけど、成長するのも少し悲しいものね。いつの間にか私にも敬語を使うようになっちゃったし」

「それは……! お母様は尊敬する人ですし、私もいつまでも甘えているわけにもいきませんから」

「ふふっ、こういう時ぐらいは甘えてもいいのに。昔はいつも私に抱き着いてきて、抱っこしないとワンワン泣いていたじゃない」

「お母様っ……!」


 そんな過去の話を持ち出すのはずるいと睨もうとしたら、優しい手が頭を撫でられる。不思議なものでそれをされるとふわふわと温かい幸せに包まれ思わず頬が緩みそうになる。

 しかし、私はお母様に話さないといけないことを思い出し、少々名残惜しかったがきちんと身を正す。


「その、ナコさんのことについてちゃんとお話しさせてください」

「神子様のことね。バタバタしていたせいでちゃんと貴女との馴れ初めを聞けていなかったわ」

「な、馴れ初め……!? そ、そんな仲じゃないですよ!」


 慌てて否定するもお母様は楽しそうに静かに笑う。


「でも、ミリナが抱き着いていた時すごく羨ましそうに見ていたじゃない。私も今度お願いして抱き上げさせてもらおうかしら」

「も、もう! 茶化さないでください!」


 そこから瘴気によって追い込まれていたことからナコさんとの出会いなどを細かく話をした。母も流石に真剣に聞いてくれて話が終わる頃にはまた私を抱きしめてくれた。


「本当によかった……ナコ様が召されなかったら今こうして貴女を抱くこともできなかったのね」

「……私もそう思います。こうしてお母様とお話しできることも全てナコさんのおかげです」

「どうお返しをすればいいのかしら……とりあえずこの国にいる間は快適に過ごしてもらわないと」

「そうですね。この後お父様と話し合う予定なので、そこで色々と段取り含め決めたいと思います」

「それなら私も参加しないわけにはいかないわね」


 お母様はそう言ってまた動こうと考えているようだったので、私は制するように口を開いた。


「お母様はしばらく療養です。何もしないで休んでいてください」

「あらひどい」

「ちゃんと食べてちゃんと寝て、ミリナと……私ともたくさんお話ししてから、そういうことは始めてください」


 ちょっと恥ずかしいけどそう伝えると母は少し呆気に取られて、それから嬉しさ半分揶揄い半分の笑みを浮かべた。


「まぁ……うふふ」

「で、では私はもう行きますから! ミリナがもう泣かないように一緒に寝ててください!」


 ちょっとの恥ずかしさが大きくなりすぎて私は母の部屋を静かに飛び出した。

 ナコさんはお風呂から上がっただろうか、今は何をしているだろうかとか、お父様との打ち合わせや晩餐の準備など、色々なことを頭に浮かべながらも、軽い足取りを前に進めていた。

いつも読んで頂きありがとうございます!

少しでも面白いと思いましたら評価など頂けると嬉しいです!


次話は明日の21時ごろ投稿予定ですので、ぜひよろしくお願いします!

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