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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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14. 豪華な夕食

 


 魔獣討伐をすませた私は、ラズダル王宮の美男美女を目の保養にしながら、依頼を出した担当部署まで赴いた。


 係の文官から小切手を受け取って、金額を確認し、思わず感動に打ち震える。


「0が……0がたくさんあります……!!」


 支払われたシーサーペント討伐の報酬は、予想をかなり上回っていた。魔力回復薬の分を差し引いても当分問題なく暮らしていける。やったぁ!


「頑張ったご褒美に、今日はちょっとだけ贅沢したって構わないですよね!」


 にんまり笑って王宮を出る。

 その足で市場に直行し、普段なら絶対買わないような高級お肉やお魚や野菜をバンバン買いこんで、アルの待つ我が家に向かった。


「ただいま帰りましたぁ!」

「お帰り」


 やっぱり行く前は心配されていたので、ホッとした表情のアルに出迎えられた。

 私はそんな弟子に満面の笑みを返した。


「聞いてくださいっ!今回の依頼はなかなかいい収入になったので食材を奮発したんですよ!

 ほらほら見てください、ラスラ産の高級牛肉に、今日水揚げされたばかりの産地直送の鮮魚、それからそれから……」

「わーかったから、とりあえずキッチンに運ぶぞ」

「はいっ!」


 二人でよいしょと荷物を抱えてキッチンに向かう。




 ──そして晩御飯の時間になった。


「うわぁ……すっごいです……!」


 テーブルに所狭しと並べられた、豪勢な料理。これらは全てアルが作ったものだ。

 仕事と買い物は私。料理はアル。家事分担における適材適所だ。


 拾ったばかりの頃は何も出来なかったのに、アルの家事スキルは主夫の領分を超え、すっかり達人の域に入ってしまった。特に料理はものすごく上手い。


 ちなみに私は、野菜の皮を剥くなどの下拵えはやらせてもらえるけれど、それ以外の、特に味付けは戦力外通告されている。

 確かに私は料理のセンスがない。出来ないというほどではないが、いつもなんか微妙なのだ。

 大食いゆえに、「食べられたらいい」という意識がどこかにあって、それでいまいちピリッと締まらないものが出来上がってしまうのだろう。常に緊張感をもって料理に挑むアルとは心構えからして違う。


「おいしそうですね、アル!ありがとうございます!!」


 豪華料理が並ぶテーブルうっとり眺めて、頬に両手を添える。


「涎出てんぞ」

「あら失礼いたしました」


 弟子の指摘に慌てて口の端を拭って、緩んでいた口元を引き締める。

 でも、そうなっちゃうのは仕方ない。だって今日の晩御飯はすごいのだ。


 高級お肉を使ったローストビーフ。新鮮な魚のお造り。シャキシャキのサラダ。

 他にもスープやらチーズやら、二人用の小さなテーブルにずらっと並べられている。


 食欲をそそるにおいが鼻腔をくすぐる。本当にうちの弟子は天才だ。

 ダイニングに着席し、二人で豊穣と大地の女神に祈りを捧げる。あとは豪華な食事を堪能するのみ。


 アルは、切り分けたローストビーフを皿に盛って、辛子とポテトを添えてサーブしてくれた。魚やサラダも別に取り分けてくれる。

 飲み屋のお姉さんばりに気が利く子である。


「かんぱーーーい!」

「ハイハイ乾杯、お疲れさん」


 私とアルはジュースで乾杯した。

 おいしいおいしいと連呼しながら料理に舌鼓を打っていると、アルは雑談のついでに、ふと思いついたように尋ねてきた。


「なぁ、前から気になってたけど、男は魔女みたいに"変質"したりしないのか?」

「うーんそうですねえ……」


 私は、魚のソテーをナイフで切り分けながら、首を傾げた。


「男性が"変質"した記録は、古今東西ありませんね。"変質"して魔女になるのはなぜか女性だけです。

 この世界を創造したのが豊穣と大地の女神、"地母神ウル"であったので、女性の方が魔力との相性が良いからだ、と言われていますが……確かな理由はわかっていません」

「ふぅん」


 不満そうに口を引き結んだアルに、私は苦笑した。


「魔女になったってあんまり良いことないですよ。呪いみたいなものだと思います」


 長命で魔力の多い魔女は、やはり異質だ。疎外されたり、親しい人を延々と見送ったり、まあ色々ある。

 私は魔女以前の記憶はないけれど、魔女になった途端に家族から縁を切られた、なんて話もよく聞く。


 私の場合、イケメンに嵌まって常識がなくなるのもその一つだろう……と主張したら、他の魔女に「一緒にするな」と殴られるだろうか。


「そういうわけで、おすすめはしませんね。

 あぁ、そういえば……魔女って"変質"してなっちゃうのが基本なんですが、唯一例外があるんですよ。それが、"女神の末裔"と呼ばれる一族です」


 "女神の末裔"と呼ばれる、謎多き一族。

 その直系は生涯数人の娘を産む。その中の一人が次代の"末裔"となり、強大な力を受け継ぎ、血を繋ぐという。

 桁外れな力と寿命を持つ、女神の血を引く血族だ。


「ただ、その血筋は、三百年前のフラージュ帝国崩壊と共に途絶えたとされていますね」


 口元に魚のソテーを運びながら、「まあ、昔の話ですけど」と付け足す。


 大陸全土に吹き荒れた戦乱の末期。

 "女神の末裔"である"黒紅の魔女"は、幾つもの国を攻め滅ぼした魔女として名を残した。その最初が、このあいだ王都跡地で魔獣討伐したオルガノヴェイン王国だった。

 以降、次々と近隣諸国を滅ぼした"黒紅の魔女"は、フラージュ皇国へと侵攻後、その崩壊と共に忽然と姿を消したとされる。


 アルは、モシャモシャとサラダを食べながら、不満げなため息をついた。


「つまり、その"末裔"とやらも女なんだろ。男じゃ、魔法師つっても限界が見えてんだよなぁ……」

「そんなことないですよ、男性でも優秀な魔法師の方はたくさんおられます。

 あなたはかなり魔力が多いですし、私がビシバシ鍛えて超一流にして差し上げますから、大船に乗った気持ちでいてください!」


 胸を叩いたら、アルはすいっと目をそらして「頼りにしてる」と小声で言った。それを誤魔化すように、少年はサラダの残りをガツガツ平らげていく。


「…………わぁ」


 うちの弟子がデレた………!


 レアだ。非常に、レアだ。

 ふにゃりと顔が緩みそうになるのを、フォークとナイフを握って耐える。


「なに、ニヤニヤしてんだよ」

「何でもありません」


 耐えられてなかった。

 今後のためにも表情筋を鍛えた方が良さそうだ。


 その後もたわいもない話をしながら、和やかに食事は続いた。




 ──こんな風に、弟子の独り立ちまで穏やかな日々を重ねていけるものだと、私は信じて疑わなかった。

 でも、結論から言うとそれは叶わなかった。

 この数日後、ラズダル王国の使者がやってきて、アルを連れていってしまったからだ。



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