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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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12. 弟子の修行

 


「ただいま帰りましたぁ!」

「おう、お帰り。メシできてるぞ」

「うわぁ、ありがとうございます!ものすごくお腹が減ってます!」

「用意するから服着替えてこい」


 家に帰ると、アルはどこかホッとした顔で出迎えてくれた。

 今回の討伐対象が双頭竜だと知った時、彼は動揺して軽く青ざめていた。

 「双頭竜くらいじゃ死にませんよ」と胸を張っておいたけど、やっぱり心配だったのだろう。心労をかけて申し訳ない。


 まるでお母さんのようなアルがテキパキと食事を用意するのを横目に、私は自分の部屋に向かう。

 魔法師のローブを脱ぎ、普段着のワンピースに着替えて部屋から出ると、クリームシチューのいいにおいが部屋中に漂っていた。


 テーブルに並べられたミルク色のシチューには、お肉やジャガイモがゴロゴロ入っている。付け合わせのパプリカのグリルも色鮮やかだ。


「はわぁ、おいしそうですねー!やっぱりアルは料理の天才です!」

「これくらい誰でも作れる、誉めすぎ」


 ぶっきらぼうな返事が返ってきたけれど、表情は満更でもない。

 ふふふ、と笑って食卓につき、女神に祈りを捧げ、私達は素敵な晩餐を心行くまで楽しんだ。




 思ったより簡単に依頼達成して、危険な禁書もバレずに処分できた。さらにはおいしい食事でお腹も心も満たされて、私はすっかり気を良くしていた。


 しかし私は、一つ大事なものを見落としていた。


 実はあの研究室の下に、厳重に結界で隠された保管庫があったのだ。

 それに気づかなかったのは失態としか言いようがない。


 その保管庫から持ち出された禁術の魔道具が、ある大国の手に渡り、そこで()()()に使われてしまうのを、この時の私は知るよしもない。

 それを知るのは、何年も後のことだった。




 ◇◇◇




 双頭竜討伐のおかげで、非常に懐が温かい。収入があると気持ちも軽い。

 新しい街での生活は順調で、アルに魔法を教える余裕もできた。うっかり忘れがちだけど、一応私は彼の師匠である。


 アルの魔力は男性にしてはかなり多い方だ。おそらく並の魔女に匹敵するくらいはある。

 それは彼を弟子にした理由の一つであったけれど、アルは魔法を覚えるのもとても早かった。砂が水を吸いこむように、貪欲に知識を吸収していく。

 このペースなら、あと二年もすれば独立できるだろう。


 ……弟子が一流の魔法師になっていく姿は誇らしい。でも、彼が独立したら、私は以前のように一人に戻る。

 色々想像すると……弟子の旅立つ日が楽しみなような、寂しいような。

 少し複雑な気分だ。




 ──アルが小さく詠唱する。

 地面に魔方陣が現れ、炎のように揺らめく青い光の中から、一羽の大烏(おおがらす)がぬうっと姿を現した。

 闇色の大烏は翼を羽ばたかせながら上昇し、少し離れた場所にいる私を睨みつけた。


「ギャァ、ギャァァッ!」


 滑空しながら私に襲いかかる魔鳥。それに氷の槍で応戦する。

 大烏は槍を避けながら私に肉薄したけれど、瞬時に私が作り上げた氷の盾に激突し、氷の盾から生えたトゲに串刺しにされてしまった。


 致命傷を負った召喚獣が、光の粒になって四散する。

 だが息つく暇なく、アルに呼び出された別の召喚獣──"魔の猟犬"が五匹、背後から急襲する。


「ふふ、やりますねえ!」


 五匹も同時に出せるなんて、すごいですね!

 弟子の成長は素直に喜ばしい。

 だからといって手加減はしない。私は空中に逃げながら地面を凍らせて猟犬を足止めし、氷の矢を降らせて穴だらけにしてあげた。

 蜂の巣になった召喚獣は、さっきの大烏のように光の粒になって消える。

 それを見届けて、私はふわりと地面に降りたった。


「よくできました!今日はこの辺で終わりにしましょう」


 ニッコリ微笑んで声をかけると、弟子は悔しそうな顔で唸った。


「……あんたの戦い方、エグすぎんだよ」

「そりゃ、三百年分の戦闘経験がありますから。だけど、あなたもすごく才能があると思いますよ!」

「くそ、いつか絶対あんたをギャフンと言わせてやるからな!」


 誉めたら余計に悔しがらせてしまった。

 でも、十二歳でこれだけ出来たら十分すぎるくらいだと思う。


「それはそれは。楽しみにしていますね」


 ニコニコして言うと、プイッとそっぽを向かれた。


 アルの適性は「召喚魔法」だ。

 私は召喚魔法が得意ではないけれど、経験値が高いのと魔力に物を言わせたゴリ押しで、基礎レベルなら彼に教えることが出来た。

 今は基礎を固めて、実戦経験を積ませてるところ。将来的にはさらに強い召喚獣と契約し、一流の魔法師として活躍できるだろう。素晴らしい。


 とまあ、それは置いといて。

 ギルドの依頼が来ているので、その話をしておかねば。


「そうそう、ギルドの仕事で明日は外出する予定です。なので、留守番をよろしくお願いしますね!

 海岸沿いに魔獣が出たそうなので、全力で退治してきます!」

「……オレもいきたい」

「ダメです。まだ早いです」


 キッパリ断ると、彼は悔しそうに口を引き結んだ。

 でも仕方ない。実戦に出るならもう少し鍛えてからだ。


 ちなみに私は外面こそ清楚系乙女だが、こう見えて戦闘経験は豊富だ。ちょっとやそっとじゃ負けません。「戦い方がエグい」は褒め言葉です。


 弱点はイケメンにうっかりついていったり、騙されたり刺されたりする事だけど、それはそれ。


 ふと見ると、弟子はすっかりふてくされている。こうしてるとまだまだ子どもだなぁ。

 拗ねてしまった彼のご機嫌を取ろうと、私はニコニコしながら声をかけた。


「一緒に連れていくことはできませんが、代わりにお土産を買ってきてあげます!カニの木彫りとか、サメの剥製とかいかがですか?」

「すっげえいらねえ」



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