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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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11. 旧王城の地下

 


 それから数日後。

 私は、ラズダルの北にある小国の端、旧オルガノヴェイン王都跡地に立っていた。


 オルガノヴェイン王国とは、三百年ほど前、この大陸に吹き荒れた戦乱の中心にあった国だ。

 戦乱末期に頭角を現し、次々と強国を打ち破ったオルガノヴェインだが、大陸の覇権を握って天下を取る目前で、突如滅亡してしまう。

 ……たった一人の魔女の手によって。


 その際、栄華を極めたオルガノヴェインの王都も灰塵に帰した。

 しかし王城の地下施設の一部は破壊を免れ、最近入口が発見された。ただしそこには門番の竜がいて、探索が出来ずに困っているという話だった。


 それを聞いて最初に思ったのが、「門番に竜とか発想が振りきれてますね……」だった。


 あの時代の魔法師は、それはもう無茶苦茶な事をたくさんやっていた。

 当時開発された魔法で、今は禁術扱いになってるものが相当ある事からもお分かりいただけるだろう。要はゲスい魔法をどんどん実用化していったのだ。


 そういうわけで、あの年代の変なものが出土したら、国で管理して死蔵する、という対応が一般的になっている。

 盗掘とかで流出させないためにも、さっさと門番を排除して、危ないものは国で管理した方が良さそうな案件だった。




 ◇◇◇




 私は先にエントリーしていたパーティと、旧オルガノヴェイン王城付近の森で合流した。


「初めまして、"氷花の魔女"殿。俺はリーダーで剣士のオーウェン。こっちは槍使いのユリスと、神官のカナンだ」

「ローゼンヴェルデ・クロイラインです。よろしくお願いします!」


 私は笑顔でオーウェンさんと挨拶を交わした。陽気な笑顔がムードメーカーっぽい。

 ガタイのいいユリスさんは寡黙で渋く、神官のカナンさんは眼鏡をかけた穏やかな男性だった。いずれもイケメン揃いである。


 しかし彼らは既婚者、もしくは婚約者有り、という話なので、絶対に手を出してはならない。私は略奪愛には否定的だ。

 というか、何ならノロケが聞きたい。

 愛する女性について語る男性もまた、イケメンを大量放出していると思う。


 王城跡に向かうまでの間、少し打ち解けてきたオーウェンさんが最初に奥様について口火を切った。


「……あーあ、早く帰って嫁の料理が食いたいなぁ」

「なるほど、オーウェンさんの奥様は料理がお上手なんですね!」

「いや、どっちかっていうと下手。でもあいつの料理は俺にとって世界一」


 来たぁーーーーー来ましたよ!!!

 私は今、大量のイケメンを浴びてます……!

 ほんわかしていると、神官のカナンさんが話に加わってきて、「うちの奥様もかわいいんですよ」と嫁自慢をしだした。

 ユリスさんは無口だからか、聞き役に徹している。平和な世界だ。




 そうこうしている間に、旧王城跡についた。

 それまでの和やかな空気が一変し、三人の表情が引き締まる。私もいつでも魔法を発動できるように身構えた。


「…………いくぞ」


 オーウェンさんの一言に私達は頷いて、地下へと続く通路に足を踏み入れた。


 そして────

 双頭竜は思ったよりあっさり片付いてしまった。


「なんか拍子抜けするくらい簡単だったな……」


 首をぶった斬られた竜の巨体が、毒々しい紫の煙になって消えていく。それを眺めていたオーウェンさんが納得のいかない顔で呟く。


 今回の作戦は、タンク役のユリスさんが竜の注意を引いてる間に、私が二つの頭をカッチコチに凍らせて、オーウェンさんが長い首をスパッと切り落とす、という比較的単純なものだった。


 この連携が功を奏し、私達は双頭竜に一度もブレスを吐かせる事なく討伐終了した。こういう強敵もチームでかかれば楽勝である。


「はは、おかげで僕の出番はまったくありませんでしたね」


 カナンさんが苦笑する。

 彼は、凍傷になりかけたユリスさんの手に治癒をかけている。竜の頭を凍らせた時、私の氷魔法に巻き込んでしまったのだ。

 痛々しいユリスさんの手を見て、私は肩を落とした。


「竜は魔法耐性が高いので、つい全力出しちゃいました。すみません、ユリスさん」

「いや、これくらいはどうってことない。カナンの神術で治る」


 謝罪すると、ユリスさんは渋い声で「気にするな」と言ってくれた。外見だけでなくハートもイケメンですね……!

 彼に婚約者がいなかったら、早々に私の標的になって色々揉めたに違いない。

 ユリスさんに婚約者がいて良かった……!


 下らないことを考えていると、部屋のあちこちを確認していたオーウェンさんがこちらに戻ってきた。


「そういえば、"氷花の魔女"殿って今はどのパーティにも入ってないんだよな。良かったら俺達と組まないか?」


 オーウェンさんが言うには、ずっと一緒にやってきた魔法師が最近お年を理由にリタイアし、代わりに入ってくれる魔法師を探していたのだそうだ。

 確かに、私の能力と他のメンバーとのバランスはかなり良い方だ。双頭竜のような高ランクの魔獣をあっさり討伐した事からもそれは明らかで……パーティに誘われるかもしれないな、とは思っていた。


 だけど……


「とてもありがたいお誘いですが、固定パーティには入らない事にしてるんです。本当に申し訳ありません」


 ぶっちゃけこれは私の問題だ。

 今までパーティに入って、人間関係をぶち壊した事は数知れず。パーティクラッシャーの異名を取る私は、いくら彼らが既婚者や婚約者持ちであっても、確実に迷惑をかけるだろう。

 それに、男ばかりのパーティはアルが絶対にいい顔をしない。


「……やっぱりあの噂は本当なのか?男に目がなくて人間関係を破壊するとか、それで固定のパーティーに入らないとか……」

「まあ、そんな感じですね。既婚者や恋人のいる方にまで手を出したりはしませんが……」


 歯切れ悪く聞いてきたオーウェンさんに、笑顔で返して心で泣いた。

 こっちまで噂が出回ってるとか恥ずかしすぎる……!




 若干気まずい空気を漂わせながら、私達は地下を出た。改めて、私は地下入口に向き直った。


「盗賊や獣が入らないよう、入口は結界で塞いでおきましょうか」

「そうだな、そうしてくれ」


 オーウェンさんの同意を得て、結界を張っておく。


「では街に帰りましょう!」


 三人にニッコリ笑って、詠唱を始める。

 そして魔法が発動する直前、私は入口にさりげなく視線を向けた。


 ────後でもう一度戻ってこなければ。


 地下に降りた時から、何となく嫌な感じがあった。今はそれが確信に変わりつつある。

 私は占いもやる手前、この手の勘を外した事がない。


 ここには、双頭竜よりずっとマズいものがある。


 それを確かめなければ。

 何食わぬ顔の下で、私は後で必ず来ようと心に決めた。




 ◇◇◇




 依頼達成の手続きを済ませた後、オーウェンさん達と別れた私は、すぐさま地下施設に舞い戻った。

 入口の結界は私自身で施したものだ。弾かれる事もなく、スタスタと中に入っていく。


 ここの地下はあちこちに魔法の光が灯っているので、光魔法を使わなくとも明るい。

 階段を降りていくと、ちょっとした広間のような場所に出た。双頭竜がいたのはここだ。

 そこを通り過ぎて、さらに奥に向かう。


 突き当たりのざらりとした壁の窪みに触れると──予想通り、そこには隠し扉があった。音もなく開いた扉から小部屋に入る。


 そこは研究室のような場所だった。壁際にずらりと並んだ本棚。そこに魔法書や何かの記録がぎっしり詰まっている。

 背表紙を確認して、私はため息をついた。


 ──思った通りだ。ここは禁術の研究施設。それも、人の魂に干渉し、支配する魔法の類いが中心のようだ。


 オルガノヴェインが強国であったのは、ある魔女を支配し、戦場に駆り出したからだ。そして、その傲慢ゆえに報いを受け、滅び去った。

 ここに並んでいるのは、十中八九、隷属魔法の研究成果だと思われた。これらを使えば、魔法耐性のある私のような魔女ですら、支配可能となるだろう。


 人を操る魔法は、そのような多くの悲劇をもたらした。そのため今では禁術扱いとなっている。

 だが悲劇の記憶は薄れ、近頃は禁術を悪用した事件があとを絶たない。




 これらが正しく死蔵されるならいい。

 しかしひとたび世に出たら、私も他人事では済まない。オルガノヴェインを例に出すまでもなく。


「……やっぱり、まずいのは焼却しておきましょう」


 本音をいうと建物ごとぶっ壊して誰も入れなくしたい。でもホントにやっちゃうと、間違いなく指名手配になっちゃいますからね……

 弟子のいる身ではさすがに無理だ。


「これとこれと……んー、生け贄を捧げて死者を甦らせる魔法……これもダメですね。

 えーとこっちは……魔獣の大群を呼び寄せる魔法?うわぁ最悪。焼却決定!」


 私は部屋を入念に確認し、本当にまずいと思われる魔法書を何冊か持ち去った。

 そして王都跡から離れた森に移動し、炎魔法で完全に焼却してから、何食わぬ顔で弟子の待つ家に戻ったのだった。



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