新しい能力で伝説級のモンスターに圧勝する
ゴブリンキングが屈んで横なぎに鉈を振るう。
回避するためには、モミジは上に跳ぶしかない。だが、そうすれば空中で身動きが取れなくなり、次の攻撃をかわせない。
鉈がモミジに迫る。
「モミジ殿、危ない!」
鉈がモミジに当たるまであと数十センチ、というところで、モミジが”消えた”。
そして、轟音が響く。
モミジが、いつの間にかゴブリンキングの足元に潜り込んで超音速の突きを撃ち込んでいた。
“グルオオオオォ!?”
防御できずまともに喰らったゴブリンキングが悲鳴をあげて膝をつく。
「まだまだぁ!」
もう一度モミジが拳を構えて、突きの体勢に入る。ゴブリンキングが盾がわりのゴブリンを召喚して、防御しようとする。
だが、次の瞬間再び紅葉の姿がかき消える。
「とりゃあー!」
モミジは、ゴブリンキングの背後に移動していた。音速を超える拳が今度はゴブリンキングの腰に着弾する。
「モミジ殿、今のは一体……!?」
シャウラが驚きに目を見開いていた。
身体能力が高い獣人族の中でも、特に強力な銀狼の獣人であるシャウラの動体視力は人間とは比べものにならないほど高い。ハエの羽ばたきさえもくっきりと見ることができるほどだ。
しかし、そのシャウラでもモミジがいつゴブリンキングの後ろに回り込んだのか、全くわからなかった。
「まさか、モミジ殿の新しい能力とは……!」
「そう、そのまさか。瞬間移動だよ」
そう言ってモミジがまた消える。そしてゴブリンキングの真横に現れ、回し蹴りを放つ。
膝をついていたゴブリンキングの腹を、モミジの蹴りがえぐる。防御どころか、殴られる覚悟をする隙さえ与えない超高速攻撃。
ゴブリンキングが仰向けに倒れていく。ゴブリンキングの巨大な頭が地面に触れる、その寸前。瞬間移動で回り込んだモミジがその頭を蹴り上げる。
跳ね上がる頭に、反対に回りこんで踵落としを叩き込む。
倒れることさえ許さない連撃。一撃が大砲以上の破壊力を持つモミジの攻撃が、当たる直前までどこに来るかわからない。これほど恐ろしい事実はない。
人間でもモンスターでも、攻撃を喰らう時には必ず攻撃を喰らう部位に力を入れて、ダメージを抑えている。
しかし、瞬間移動から繰り出されるモミジの攻撃はどこに当たるかわからないため、体が柔らかいまま食らうことになる。
結果、ただでさえ恐ろしい破壊力を持つモミジの攻撃を、何倍もの威力で喰らうことになる。
ゴブリンキングは、新しいモミジの力の前になす術もなく倒れた。
王を失ったゴブリンたちは混乱する。
「ヘイ雑魚モンスターども、まだやる気はある?」
モミジとシャウラが近くにいたゴブリンたちを蹴り、斬り伏せていく。
パニックになったゴブリンたちが我先にと逃げ出していく。
こうして、モミジ達を乗せた隊商はピンチを乗り切ったのだった。
「ありがとうございます、これで我々は路頭にに迷わずに済みます・・・! なんとお礼を申していいか。勿論今回の旅費は結構です」
隊商のリーダーが涙を流しながら何度もモミジに頭を下げる。
こうして、モミジたちは無事にトパーズ王国の首都まで辿り着くことができた。
――――
「ギルド長、2つ報告があります!」
首都にある、トパーズ王国冒険者ギルド本部。夜遅いというのに、ギルド長の部屋に若い職員が飛び込んできた。
「こんな夜中に一体何なんだ」
筋骨隆々の中年のギルド長が部屋の奥から現れる。国で数人しかいない現役プラチナ級で、強力なモンスターが現れたときには自身も前線に出る。日々の激務の合間に鍛錬を欠かさず、年を感じさせない肌のハリがある。
「まず1つ目の報告です、街の外れの荒野に、ゴブリンキングが出現しました!」
「なんだと!?」
ギルド長の目つきが鋭くなる。
「それも、体高さ4メートルを超える個体です!」
「4メートル、だと……!?」
ギルド長の顔が真っ青になる。
「3年前にゴブリンの軍勢を率いて街を襲撃した個体が2メートル半。あの事件では冒険者と市民を合わせて千人を超える死者が出たが、それを優に超えるのか……!」
ゴブリンキングは、巨大化するほどにパワー・知性・そして配下を統率する力が増す。
「4メートルを超えるとなれば、荒野全土のゴブリンを支配下に置くほどの個体だろう。そんなゴブリンキングがゴブリンを率いて襲撃してくれば、未曾有の大災害になる! この街の壊滅、どころか国家を脅かす危機になるぞ……!」
ギルド長が部屋の壁に飾られていた大剣を手にする。
「今すぐ防衛体制を整えるぞ! 冒険者ギルドだけではない、街の全ての商業ギルドにも情報を回せ! ありったけの食料と武器を用意してゴブリンを迎え撃つぞ! 前線には俺も出る!」
ギルド長が剣を掲げて雄叫びを上げる。
「ギルド長、それが……」
若い所行員が申し訳なさそうな声を出す。
「2つ目の報告なのですが、そのゴブリンキング、もう倒されました……」
「なんだと!?????」
ギルド長の驚きの声が街に響く。
若い職員が、抱えていた包みを解く。中から、ゴブリンキングの首が出てきた。
「え、倒された……? え? なんで? どういう事? ていうか誰が倒したの?」
「倒した方もお連れしています。どうぞ、お入りください」
「はいどうも、こんばんはー」
軽い足取りでモミジが部屋に入ってきた。
「こ、こんばんは。え、この普通の村娘みたいな女の子が倒したの? ゴブリンキングを? 本気で言ってる??」
百戦錬磨のギルド長が困惑している。
その時モミジは
(そうだ、私が異世界人ってバレたら面倒なことになるんだった。適当に誤魔化さないと)
と気づく。
「いやー、たまたま散歩してたら死にかけのゴブリンキングを見つけて。蹴っ飛ばしたら死んじゃった」
「そうだったのですか……健常なゴブリンキングを倒したとなれば賞金が出るのですが……」
「あ、私が倒しました! 元気モリモリのゴブリンキングを、私がぶっ倒しました! 私が!」
歴史に残るゴブリンキングを、たった一人の少女が討ち取ったといううわさは国中に広まるのだった。
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