第57話 活動
その後、藤崎は「勉強しながらやるから時間をちょうだい」と言い、俺達はホームページを藤崎に任せることにした。そして田辺が原稿を書くと言い、残ったポスターをどうするか? と言うことになるんだが……。俺は絵なんか書いたことがない。いや、授業で書くことはある。だが、とても人に見せられたものではない……。さて……どうするか……。
「ポスター?」
「ああ、前に話した俺達の活動の一環で、学校に張り出すポスターを作らないといけないんだが……俺は絵が書けん」
俺は楓に相談していた。楓なら書けるかも……そう思っていた。
「絵はかけないよ?」
「書けないのか?」
「うん。書けない……って、その顔やめて」
「ああ、すまん……」
ダメか……。俺は頼みの綱を失った。
「でもさ……それって手書きの絵じゃなきゃダメなの?」
「……手書きの絵じゃないポスターってどんなだ?」
「うちの子の写真じゃ、ダメなのかな?」
「写真?」
「うん。うちの子の写真を沢山組み合わせてポスターにするんじゃダメなのかな?」
「あぁ、その手があったか……著作権とか肖像権とかはどうなるんだ?」
「うちの子だもん、いいよ」
「いいのか?」
「うん。私が許可すれば良いんでしょ?」
「まぁ、そうなるのか……」
犬や猫なら、飼い主の許可があれば大丈夫か……。
「あれ? 写真はスマホで撮るとして、その後はどうすれば良いんだ?」
「写真の編集ソフトを使って、並べたら良いんじゃない?」
「もしかして、そっちの方面は詳しいのか?」
「うん。散々小鉄の写真集の編集作業を見てきたからね」
「あ、そうか……だよな!」
楓と一緒に時々編集部に出向いていた。その際、実際の作業を行いながら、あーだこーだと打ち合わせをすることもあった。ある意味セミプロのようなものか……。
「じゃ、そう言うソフトも持っていたりするのか!?」
「ううん。持ってない」
「あらら……」
俺はずっこけた。
「うーん、確か一ヶ月単位で支払う形だったから……うん。一ヶ月二千円ちょっとで使えるね。あ、学生なら九百八十円だ……ほら」
楓は検索して、俺に見せた。
「あ、ホントだ。なぁ、これって使い方、分かるか?」
「うーん、多分」
「……信じて良いのか?」
「あ、信じない方向で……。でも、蒼汰がやるんなら、私も勉強して協力したいなぁ……。パソコンは持ってる?」
「いや、そんなものはない」
「じゃ、家でやる?」
「いいのか!?」
「うん、全然。お母さんも喜ぶしさ」
「じゃ、じゃぁ。お願いします」
俺は楓に頭を下げた。
「うん。任せなさい!」
その後、レンコントの犬や猫の写真を撮影して、楓に見せた。楓は逆光で光が入ったほうが良いとか、白い紙でレフを作ったほうが良いとか、とても詳しく説明してくれた。俺はずっと撮られる側だったから、写真自体に詳しいわけではなく、それを見ていた楓が自然と覚えていったのだ。
こうして写真素材が撮り終わると、親に連絡して、楓の家に一緒に帰り、作業を始めた。
美月が出迎えてくれ、喜んでくれた。
「ポスターって、大きさは?」
「うーん、正確にはわからん……」
「駅に張ってあるサイズ?」
「あれよりは小さいかな?」
「じゃ、A2かな……で、写真を読み込んで」
「おう」
俺はスマホからパソコンへ写真を読み込み、写真編集ソフトに貼り付けた。
「で、並べたいものを一通り貼って。何枚あるの?」
「使いたいものはたくさんあるんだが、その中から十八枚を選んだ」
「あ、3列6行?」
「そのつもりだ」
俺は写真を並べてみた。
「あ、良いね」
「良いな」
動物たちの写真を並べるだけで、何のポスターなのかがすぐに分かる。さらに動物がこちらを見ている写真が並んでいると言うだけで、目を引きそうだった。
「じゃ、まずは、キャッチコピー」
「キャッチコピーか……何だろ?」
「現状を知ろう?」
「ああ、アリだな。後は……今、救える命とか」
「おお、蒼汰、才能あるんじゃない? じゃぁさ……」
俺達はこんな感じで案を出し合い、その結果……。
『助けてほしい、今救える命』
に決まった。
「ちょっと切実すぎないか?」
「良いんだよ、切実なんだから」
「そっか?」
「うん。それで、リードは?」
「ああ、文章か? そっちは田辺が書いてる」
「じゃ、後はリード待ちだね。この状態で印刷して、持ってく?」
「ああ。いいか?」
「もちろん!」
──
次の日。
「おー、良いな!」
「うわぁぁ、良いね!」
俺はA4に印刷したポスター案を、二人に見せた。
「で、ここに田辺の飼いた文章を入れる。後はアニマルサポーターのマークとかロゴをどうするかだが……」
「バッジで良くないか?」
「ああ、良いな!」
「え、あれを使うの?」
「ダメか?」
「ダメじゃないけど……恥ずかしいよ」
「……鞄に付けてるのにか?」
元々話しかけてもらえるようにと、バッジを作ったはずだ。それならこれで統一した方がいい。
「だな。全部これで統一しないと、話しかけてもらうという意図から外れるもんな」
「ああ」
「いいの? これで」
「良いに決まってるだろ!」
「ああ。これにしようぜ」
「……うん」
──
「どうだった!?」
レンコントに入るなり、楓は俺をみつけると駆け寄ってきて聞いた。
「好評だったぞ」
「おー、やったー!」
「嬉しいのか?」
「そりゃそうだよ、蒼汰と初めてやった『共同作業』だもん」
「そっか」
「うん。ここのポスターにしたいくらい、気に入ってる」
「するか?」
「うーん……そうしたいのは山々なんだけど、学校で使うものがうちのと同じって知られたら、なんか問題になりそうじゃない?」
「あぁ……そうだな」
「だからやめとく……」
「そうか……わかった」
「でも、全力でやろう」
「おう」
その後、田辺の原稿が出来上がり、そこからポスターに使う文書を選び出し、俺のポスターが完成すると、先生と生徒会の許可を経て、学校の掲示板に張り出された。
掲示板に張り出されたポスターの写真を撮り、楓に送ると、楓は大喜びしていた。
そして校内新聞への依頼と記事の提供、放送委員への原稿の提供と依頼を済ませ、それらが公開、放送され始めると、アニマルサポーターは校内では一躍有名になっていた。
あれは何だ? 誰がやっているんだ? そんな噂が飛び始めると……。
「櫻井くん、あれって櫻井くんたちがやってるの?」
「おう。俺達がやってる」
「あれ、どうやったら救えるの?」
「じゃ、放課後時間あるか?」
「うん。話を聞きたい」
「聞くだけじゃない。見てほしい」
「見る?」
「ああ」
そんな生徒が集まり始め、あっという間に俺たちは「アニマルサポーター」として知られていった。それに伴い、俺が帰りがけ、通勤がてらに生徒を数人連れてレンコントへ向かう事が多くなった。
「いらっしゃーい。今日は三人?」
「ああ。よろしく頼む」
「はいはーい」
楓は毎日俺の出勤をサロンで待ち、そのまま一階の子たちを紹介して説明し、四階へ連れて行くという日々が続いた。
その中で実際に引き取ってくれる人は多くない。これは元々の譲渡会で分かっていたこと。来場者数の中で、引き取りたいと言ってくれるのは三割。その中から、実際に引き取ってくれるのは五割。その程度の引き取り率だ。ただ、それを憂いているわけではなく、それを繰り返すことでしかこの子達を救えないということは、最初から分かっていたこと。でもそれはそれ。
こうして人がやってきて、見て、実感してくれ「犬や猫を飼うなら不遇な子を引き取ろう」という考え方が浸透すること。それこそが、楓の、俺達の目的なのだから。




