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砂糖と雑巾  作者: お空
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甘いケーキのお礼


私は、誰も居ない公園で泣き止んだ。

何の思い出もない公園にいると、落ち着いてきた。


隼人は何故嘘をつくのだろう。

やはり、関係を保つために?

考えたくなかった。

体だけを隼人に捧ぐなんてとてもじゃないけど私は我慢できない。 隼人の心は親友の陽子だけを見ているのだ。

きっと私と結合しても、頭の中では陽子に置き換えているに違いない。


陽子とは随分距離をとっている気がする。あのレズな夢からだと思う。


このままではいけない。

“もう嘘をつかなくていいよ”

私はそう隼人に言ったのだ。全てを知っている発言で、もう戻れないのだ。




私は、それからスーパーに向かった。



翌日、眠たい体を無理矢理起こしてキッチンへ向かった。

お母さんはパートで、弟は彼女の元で、今はキッチンを占領できる。


昨日、スーパーで買った物はケーキの材料だ。今の時代は便利なもので、105円でお菓子作りの器具が買えたりする。


本屋で、“はじめてのケーキ作り”を購入した。お菓子作りの器具とは対照的に1000円と、お高い出費となった。


さっそく、本や材料を広げて、エプロンを着用した。

そして、いつしか隼人に貰ったハートのネックレスを首に下げた。

私は本と闘いながら、ケーキ作りをした。


大嫌いな甘いものを、自分の手から生み出すなんて思いもしなかった。

甘いものが好きな隼人に、ケーキを渡して、さよならをしようと昨日の公園で心に決めた。

もう引きずらないように、ケーキを渡して今までの愛を伝えるつもりだった。

大嫌いなケーキを渡せば、私の愛は伝わると確信した。

 それだけ、“私は”本気だったよって──。


ケーキ作りは難しいと感じた。

不味いので見たくもなかった物を、書いてある通りに書くということは安易ではなかった。


完成して、ラッピングまで終わったのは開始から4時間後だった。ハートのネックレスも、付けるのは今日限らだ。

私は、変わる。就職もしようと思った。


ボールを洗おうとしたら、手元にあった砂糖入っているの瓶が手に当たって倒れた。

床に白い粉が降りかかった。

まるで雪みたいだなと心の中で微笑したが、すぐに面倒だなと思った。

濡れた布で床を拭いた。



雑巾が、砂糖に染み込んだ。



それは私の今までのように思えた。こぼした砂糖を片付け終えて、私はラッピングする際、余ったスポンジを口に運んでみた。

 隼人へのお別れのケーキはどんな味なのだろう──。


甘かった。

いつかに食べた、お母さんのホットケーキが甘くないように思える。


その瞬間、ひどい苦しみが襲ってきた。

走馬灯のように、何かが流れる。

隼人と付き合った時のこと。

守と心配しあった時のこと。

陽子と菜々子の写真が隼人の家にあったこと。

胸が苦しいくらいに隼人を愛したこと。

遊園地で見てしまった陽子と隼人のやり取り、菜々子と誠司くんのキス。

──あれは、事故だったのかな…菜々子が誘ったのかな──。

初めて、隼人が浮気をしていると知った時のこと。

ドア越しに、必死で盗み聞きしたこと。

誠司くんの告白。

そして、隼人の嘘──


色々なことがあった人生悪くなかったと思う。


隼人に出会えたから

もう一度、最期に会いたかったけど、どうか良い子を守ってあげて…


今すぐメールにして送りたかったが、体が動かない。


あぁ、本当にサヨナラのケーキになっちゃったな──そんなことを思えるのも一瞬だった。


──隼人ありがとう


すぐに、苦しみが消えた。

そして全てが終わった。



「…カンナ?」

隼人は、昨夜の事について謝ろうと思い、カンナの家を訪れた。電話が繋がらないからだ。

ドアを回すと、鍵が開いていた。インターホンを押しても反応がない。焦る気持ちを抑え、部屋に入った。

 カンナの家に入るのは数ヶ月ぶりだった。そう──、陽子に惚れる前に──。

 彼は、カンナに別れを告げにくるつもりだった。昨夜のケンカ未遂で決意した。

前、カンナとケンカした時、隼人は陽子に相談したときに、大人な陽子に一発で惚れた。

 でも別れ話をすると、カンナは自殺をしかねないと隼人は思った。この女は誰よりも自分を愛していると分かっていたからだ。

菜々子の件は謝るが、陽子は譲れない。今までカンナを傷つけると、カンナを愛すフリをしていたがもう彼女は気づいているのだ。大丈夫だろう。

 カンナは可愛かった。ちょっと、素敵だった──。



そんなカンナが、キッチンで倒れているではないか。



色んな感情が脳内を流れる。

とりあえずカンナに近寄って、手を触れてみた。デートの時と繋ぐ手とは比べものにならないくらい、冷たかった。


「…カン…ナ…」

隼人は絶望に満ちた。

俺のせいかも知れない──

いや、ほぼ俺が原因だ、そう考えた。


ふと、台の上にある、可愛くラッピングされているケーキが目についた。


ショートケーキだった。

何やら、メモが添えられている。

“今までありがとう さようなら”

カンナ、と記されていた。

隼人はカンナの上に覆い被さった。自分があげたハートのネックレスをつけていたカンナの顔は安らかだった。


「…ゴメンな…」


《カンナは就職が出来なかった。心臓病を患っていたからだ。

そのため、甘い物は控えるように医者から言われていた。心臓に負担がかかるからである。死因は心臓発作──》





誰かの、涙が頬に零れている。

ねぇ、陽子──


甘いのも、良いかもね





END


クリック有り難う御座いました。

皆様のおかげで、この「砂糖と雑巾」をとても楽しく打つことができました。

まだまだ未熟ですが、これからも頑張っていきたいです!


どんな短い感想でも大歓迎です^^

是非お願いします^^

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