第1話 とんとん。(優しく指先で、背中をつっつく音)
鬼の島たから
とんとん。(優しく指先で、背中をつっつく音)
大好きな人はいつもすぐ目の前にいました。
桃の木てんか
たからがずっと口を聞いてくれない。どうしよう。
むすーっと、おもちみたいにほほをふくらませた顔をして鬼の島たからはずっと(てんかのほうを見ないで)教室の窓の外を見ていた。
桃の木てんかは困ってしまった。
とんとん、とたからは机を指で叩いている。
たから。なにをさっきからずっと怒ってるの? って聞きたかったけど、そんなこと聞いたら、たからはもっと怒ってしまいそうだったから、それを聞くことはできなかった。
鬼の島たからは窓際にある自分の机の椅子に座って、むすーっとしている。
桃の木てんかはたからの一つ前の自分の机の椅子に座って、後ろを向いて、むすーっとしているたからを見ていた。
時間は放課後の時間で、みんなもう帰ってしまって、六年二組の教室には今、たからとてんかの二人しかいなかった。
窓は開けていたから、とっても気持ちのいい春のあったかい風が(いつもとは違って、とっても静かな)六年二組の教室の中には吹き込んでいた。
その春のあったかい風が窓の外をずっと見ているたからの綺麗な髪を校庭に咲いている満開の桜の花のように揺らしている。
そんなたからは、出会ったときからずっとだけど、今日もやっぱりとっても綺麗だった。
それからたからがようやくてんかのほうに顔を向けてくれた。
その顔はやっぱり、(うそだよ。もう怒ってないよと言って、にっこりと笑ってほしかったけど)とっても不満そうな(お留守番をしていて、日曜日なのに外に遊びに行けない女の子みたいな)顔をしていた。
たからはじっーとてんかのことを見た。
てんかもそんなたからの顔を見ている。
二人は見つめ合っている。
たからは猫っぽい顔をしていたから、なんだかてんかはそんなたからの怒っている顔を見ていて、自分の家で飼っている子猫のきなこ(黄色っぽい毛の猫だったから)が怒っているときのことを思い出していた。
たからはてんかの顔をじっと見ながら、……、私、いつからてんかのこと好きになったんだろう。
って、そんなことをずっとたからは思っていた。
「あのさ。てんか。わたし、すごく怒っているんだけど?」
たからが怒っている声で、とんとんと机を指で叩きながらてんかに言った。
なんだかてんかには『たからの頭の上に鬼のつの』があるように思えてきた。
なぜかというと、出会ったときから、たからが怒っているときには、てんかにはたからの頭の上に鬼のつのがあるように見えていたからだった。(本当に怖かった)




