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第三話 感覚

新しい人は、昔の人を超えていく。なぜなら今を一緒に入れるから。

主様が消えた。


「うぐあっ、あるじさまっ。」

涙なんて生ぬるいものじゃない。そんなものが流れる。


涙を拭おうと右腕を動かそうとする。


動かない。悪魔化した主様に噛み付かれたからだ。


確かに居たんだ、そこに主様が。


喪失感で、自分を傷付け助けた天使の輪を割ろうとした。


神父に止められた。

こいつはいつまでも邪魔をする。


天使の力の前では神父は弱い。でも主様が言ったことを思い出した。


「誰も殺させない__」


その言葉が僕を思い留まらせた。


声を上げて泣いた。声を殺して泣いた日もあっただろう。



しばらく僕は主殺しの天使として生きた。


当たり前の事だと思った。

主様はこれよりもっと辛い思いをしたんだから。


天使の輪で首が締まる。締められている。


何回も何回もこの輪を割ろうと思った。

けれど記憶の中の主様が止めた。何度も。


先輩天使にちぎられた羽も綺麗に戻った。


それすらも嫌だった。昔は大好きだった母から貰った羽。今は嫌いだ。


何回も羽を抜いた。痛かった。


天使は、呪いだった。ずっと死ねない、消えない呪い。


主様に噛み付かれた右腕は今も動かない。ずっとぶらんとしている。


それだけがただ嬉しくて。また涙を流した。


僕と主様を陥れた天使共は幸せに他の主の元へ行った。僕だけだずっと前に進めていないのは。


否、僕はそれが普通だと思う。


なんでそんなにパカパカ主を変えれるのかその神経が僕には分からない。一生分かりたくもない。



孤独を抱えて。何年生きただろうか、あるいは何百年。


一度も主様を忘れたことはない。


忘れられるわけが無い、命の恩人を。


何回思ったことか、僕が死ねばよかったんだって。


主様には寿命があったのに。僕が奪ってしまったんだ。


孤独に狼が吠える暗い森を歩く。


「ぐすっ。」


「ねえ、貴方どうしたの?」


声を掛けられたらしい。人間だった。顔を一目見た時、それ以上見れなくなった。


主様に似ていた。顔ではない、声も違う。でも優しい雰囲気が。


「主様?」


「え?気が早いよ。」


クスッと笑った。その顔もどこか面影があって。

主様と重なって。辛かった、けどその分期待をした。


主様が帰ってきてくれたのではないかと。


そんなわけないのに___


「なんでここにいるの?」


主様とは違う、この方は多くを聞く。


「少し、フラフラしていて。」


「そっか、その腕どうしたの?」


ぎくりとして咄嗟に隠した。


「どうもしてないです。」


「嘘だ。」


暖かな体温で右腕に触れられたと思う。感覚なんて無いから分からないけれど。


「このキズ、悪魔?」


鋭かった。何も答えられない。


「うちにおいでよ。」


静かに手を引いてくれた。


昔の主様と重なる。重ねてはいけないと分かっていたのに。


この方はアイラと言うらしい。


「ねえ、貴方の名前は?」


あぁ、何回も重なってしまう。ダメだとわかっていても。


涙はもう出ない。ここ数百年で枯れてしまった。


「テティ・ドプシーです。」


「そっか、いい名前。」

ご閲覧ありがとうございます。


新しい人では埋められない穴もあるものです。

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