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第一話 テティ・ドプシー

貴方は愛されたいですか?


僕は愛されたい。


僕は天使だった。


「ねえ、君の名前はなんて言うの?」

そう主様から尋ねられた日が数年経った今でも忘れられない。


僕は、僕たち天使は人間に恋をしてはいけない。


恋をしてはいけないのに、私情を挟んではいけないのに。どうしても抑えないといけない感情が渦巻く。


「テティ・ドプシーです。」

「いい名前だね。」


涙が頬を伝うその涙の温かさも、主様の暖かさも全てが辛くて、全てが大切だった。


主様はそれ以上何も言わず僕の手を引いて屋敷に連れ帰ってくれた。


見た事ないくらいの暗い森、狼の命の声。全て膝が震える原因になる。


(ガチャ)


「お帰りなさいませ。主様。」


屋敷には天使が沢山いた。僕の他にも。ぎゅっと心が締め付けられた。


この気持ちはもう覚えてないし。

幼い僕には難しすぎる感情だった。


先輩天使に屋敷の事、僕がやる掃除担当事、主様の事を教えてもらった。

僕はこのダダっ広い屋敷を一人で掃除しなければいけなかった。今思えば完全に虐められていた。


けれど主様はそんな僕を気にかけてくれた。

それだけで嬉しかった。もう少し生きようって思えた。

ただ先輩天使達はそれがと言うより、そんな僕が気に入らなかったらしい。


「新入りなんてすぐ飽きられる。時間の問題だ。」


その言葉がずっと頭に響く。

呼吸が浅くなり、涙が止まらなくなったことも。


そんな時でも主様は優しく、こんな僕に寄り添ってくれた。


この世界では天使は主様に恋をしてはいけない。

主様が天使に恋することしか許されない。


分かっている、分かっているのだけど。


主様は僕のこんな醜い気持ちに気付いているのだろうか_____


一週間程経った頃だろうか、僕は先輩天使に掃除用具部屋に呼び出された。


「なんで呼び出されたか分かるか?」


天使なんかじゃない、悪魔のようだった。

分かってしまう自分も嫌だった。でも嘘をついた。

自分を、 主様を守る為に。



「わかりません。」


「お前、主様に恋してるんだろう? それがこの世界でどれだけ罪か、天使なら知ってるだろうが。」


言い終わる前に先輩天使の拳が飛んでくる。


天使の輪が揺られて、逃げてしまいそうだった___




殴られて、蹴られて、

お母さんから貰った僕の唯一綺麗な白い翼をちぎられた。


「痛い」なんて聞き入れて貰えないし、こいつらに僕の気持ちなんて分からないんだろう。

僕の惨めな気持ちを経験したことがないから。

そもそも僕は分かってもらおうなんて思っていないけれど。



羽も顔も身体中血まみれになって、

「もう僕は天使なんかじゃない。」

痛さで視界が歪む。なんでこんなことをするんだ。


「分かればいいんだよ。お前は天使の皮を被った悪魔だ。」


その言葉がどれだけ刺さったか。あの時の僕の心に。


僕の母親は、僕のせいで死んだんだ。

悪魔との子供を身篭ったから。


そんなの天使をただ減らす口実に過ぎなかった。


でも僕は昔から悪魔だった。


人の気持ちが考えられない。だから友達もいない。


「ヒュッヒュッ」


呼吸が浅くなる。


優しい先輩天使の1人が主様を呼びに行ってくれたらしい。

あるいは惨めな僕の姿を見せたかったのか。


そんな訳ない。ただの優しさだ。

こういう所なんだ僕の悪魔と言われるところは。


そんな事をしたら逆らったと言って優しい先輩天使まで僕と同じ目にあってしまう。

惨めと無力感で泣いた。泣いていた、声を上げて。


「うぐっひぐっ。」


「主様! こっちです!」


嫌だ、来ないで___


こんな僕の姿なんて見ないで。


羽の無くなった背中から赤黒く刺々しい羽が生えてきた。


悪魔化だ。


自分が悪魔化している。止められない。

嫌だ、痛いやめてくれ。主様、こないで。殺してしまう。


「テティ!」


指の隙間から見えたテティの顔は悲痛に歪み、目は悪魔の目になっていた。


「離れなさい。天使は皆。」


ケッケッケと笑っている先輩天使を僕も主様も見逃さなかった。


静かに主様が近寄ってくる。僕は首を振って拒む。


「いやだ、だめ、こないで。」


主様は知っていただろう。悪魔化して暴走した天使は人を天使を殺してしまうことを。


「大丈夫、大丈夫だよ。私が居るから。」


主様の声は僕には届かなかった。


「ふーふー」


テティが悪魔化を抑えようとしている。

先輩天使は笑ってみている。分かっていたのだろう。


悪魔化は自分では止められないことを。


「嫌だっ、嫌だ。やめて。」


頭に爪を立てて唸っている。


「大丈夫。私はずっとここにいるから。落ち着いて。」


「天使は全員外に出なさい。」


冷たい主様の声が屋敷の一室に響く。


ニヤニヤした先輩天使が言った。


「ここは危険です。主様も出ましょう。」

主様の肩に手を置いた。


優しく先輩天使の手を掴み言った。


「だめ。私はこの子の主なの。責任を取らなければいけない。」


「けれど。」


「いいから早く屋敷から出なさい。時間が無いの。」


天使達はぞろぞろと出ていった。


「テティ。」


名前を呼び背中をさすった。主様は自分の危険も顧みず。


「にげ、逃げてください。僕はあなたを殺してしまう。」

「殺させない。貴方には誰も。」


天使の輪が揺らぐ。天使の証が消えかけている。


「君は天使。だから。人も殺させない。」


主様の暖かいおでこが僕の頭に触れる。

天使も人間も悪魔も愛されたいものです。

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