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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第十九章 裏切者ーC #1

もう、残されていた時間は限られていたみたいだ。

目の前で倒れる彼女、引き金を引いた一人の男、そしてその様をただ呆然と眺めていた男がいた。引き金を引いた男、それは死んでいたはずの男だった。彼はタイムマシン強奪作戦、通称”ST作戦”において僕たちの目の前で死んだ。彼は迫りくるロボット兵の犠牲となって死んだ。僕は彼が死んだ様を見ていた。彼は上半身が蒸発していた。焼け焦げて煙が立ち昇り、立ったままの姿の死体、そして直立不動で残されていた彼の下半身。

どうして彼がここにいるの?どうして生きているの?その問いかけは意味をなさない。本当に彼は死んでいたのだろうか?もしかしたら、彼は上半身だけの体で逃げ延びていたのだろうか?そんな問いかけを思いついた僕は心の中でその考えを一蹴して笑い飛ばす。(だったら、どうして彼はここにいるというんだ?タイムマシンは三機とも空中分解してもう存在していないというのに...)

僕は考えることをやめることなんて出来ない。しかし、その思考は可能性によって散らばってしまって、まとまることができない。そして、そんな戸惑う僕を時間は置き去りにして惨劇は、進み続ける。

~~~

僕にとって記憶というものは、僕と時間との一番の接点であり、それでいて時間と最も対極にあるものだった。僕が何かを考えるとき、いつも僕は過去の経験をもとに考えていた。その経験は僕の頭にこびりついていた記憶だった。そう、僕の頭の中には普通の記憶なんてものはなかった。たいていの記憶は忘却してしまい、残された記憶は僕にとって良い記憶か、悪い記憶かを軸にして感情別に分けられていった。僕は記憶を思い返すたびにその記憶が纏っていたかつての今の残像の面影を僕は見ていた。だけど、その面影は今を生きているうえで明瞭になったり、不明瞭になったりを繰り返した。そしてその繰り返しの中で最終的に僕の記憶は二極化されてしまった。それは僕にとっての癒しとなるか、(トラウマ)となるか、だった。しかしその分けられた記憶は僕にとって、とてもおぞましい罠そのものだったんだ。

僕は癒しを追い求めて記憶を思い返し、かつての記憶にあって、今まで気づくことの無かった傷に触れてしまう。その傷をなぞって湧き上がるじっとりとした痛み、その痛みによって僕はその傷痕の存在を気づかされてしまった。その傷痕に気づいた瞬間、今まで癒し慰めてくれた記憶は、もう僕を癒してなんてくれなかった。その記憶はただ重苦しい罪の象徴になって僕を突き放してしまったんだ。突き放された僕の心に湧き上がる嫌な気持ち、それは取り返すことのできない後悔、その後悔に突き動かされた僕がその罪を自ら断罪しようと過去の自分の首に手を駆けてしまう。しかし、その行為に意味なんてない。

「どうしてお前が罰せることができると思っているんだ?」「だって、僕は過去の自分が憎くて、憎くてしょうがないんだッ!それに、僕の後悔は僕が一番よくわかっているはずだッ!そう、僕は納得したいだけなんだ。この罪を抱えたまま、こんな記憶を持ったまま生き続けるなんて、そのことに耐え続けることなんてもうできないんだよッ!そうだ、僕はこの罪を抱えた自分自身を一度殺してしまいたいんだ。そうすれば、僕は今を生き続けることができるだろうよッ!」「じゃあ、やってみせろよッ!」記憶の中で僕は今までの僕のイメージを重ね合わせてそのイメージを死へと誘う。そのイメージの首に手をかけて、そのイメージの首にナイフを突き立てて、そしてそのイメージをこの気持ちで拒絶してッ!

~~~

気づけば僕は地面に転がっていた。どうしてだろう?僕の口の中が焼けるように痛い。その痛烈な痛みにどこか酔ってしまった僕はその気持ちの悪い塩味をただぼんやりと味わっていた。そんな僕を見下した過去の自分が目の前に立っていた。どうして?お前は未来の僕だったはずだッ!「どうしてだって?フフフ。可笑しなことを言うね。これはあなたが決めたことだよ。港。あなたが自分自身を罰した瞬間、今までの記憶は、そこで積み重ねてきた罪は、そうお前自身はその一点に収束してしまったんだ。これはそこに姿を現した一つの真実だよ。そう、お前は死んだんだッ!その手で、その銃を口にくわえて、その引き金を引いてッ!見ろッ!あたりに散らばったお前の罪の垢趾()をッ!」

~~~

彼(時田)は彼女の目の前でその銃を構えた。しかし、その銃の引き金は引かれることはなかった。

バンッ!

周囲の静寂を唐突に切り裂いたナイフ、それは銃声だった。その銃声を聞いた彼女は振り返る。そこにいたのは宇津野だった。「ようやく決心したのか?臆病者?」宇津野は時田のその問いかけに頷いた。「ああ。ようやく俺は決めたよ。進むべき道を...どうやら、俺はかつて死んでいったあいつらのことを忘れることなんて出来ないみたいだ...」僕は何が起こっているのかわからなかった。「何を言っているんだ?」意味が分からない。進むべき道?かつて死んでいったあいつら?宇津野の言葉をわからないままで僕の中を考えだけが渦巻いていく、しかしその考えはまとまらないで焦りだけが募っていく。その焦りに突き動かされた僕は彼らの会話に割り込んだ。「宇津野?お前は何を言っているんだ?」宇津野は僕の方を見た。彼が僕を見る瞳は冷たかった。まるで、その瞳は僕たちの今までを否定するかのようだった。

「俺は気づいてしまったんだ。このままじゃいけないってことに、この希望と絶望にまみれたこの世界じゃ俺は幸せになれないことに...!俺は死んでようやくそのことに気づいたんだ。確かに俺は彼らの犠牲によって運命の鎖から解放されたのに、今度は盲目的不自由に閉じ込められてしまっているんだ。そう、その真実が貶めてしまったんだよ、かつての彼らの犠牲を、尊ぶべき犠牲をッ!だから、俺はこの世界を贄にしてすべてを一からやり直すッ!そう、これは救済なんだ。今から始まるのは原罪という生まれたことへの、理不尽な烙印へのその呪いへの幸せになれないという暗示への反逆だッ!そう、このままじゃ、この世界じゃ誰も納得して死ぬことなんて出来ないんだよッ!」わからない。「なに言ってんだよ...宇津野?お前が何言ってんのかわかんないよッ!」そう叫んでいた僕を宇津野は見下していた。僕は消えゆく意識の中で地面に横たわりながら、彼を見上げていた。そこには、彼の落ちくぼんだ瞳には深淵があった。その深淵を見て、もう彼は僕の知っている宇津野じゃないということに気づいてしまった、気づかされてしまったんだ...

時田「さあ、貶められたこの世界に救済を、そして取り戻そう俺たちの世界をッ!」時田はそう言って笑う。その笑みには安堵が滲んでいるように見えた。そう、時田は待っていた。この時を、彼の計画を実行に移すこの時を...

続く

読んでくださってありがとうございます。

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