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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第(3・10)章 Coward

彼女は海の浅瀬に倒れている俺に近づいてきていた。彼女から、懐かしい鼻歌が聞こえてきた。その曲は周囲のうねりに乗って俺の心に響かせた。そんなオレの心に湧き上がってきたのは空虚な寂しさだった。その声には何か致命的な何かが欠けている、そんな感覚を俺は抱いた。そして、仰向けに倒れている俺の眼前に広がる闇にその声は吸い込まれていった。

俺の視界の隅にその彼女の顔面が現れた。その表情からは彼女の心の何かしらを窺い知ることはできなかった。そう、彼女は無表情をその顔に浮かべていたんだ。彼女は祝詞を唱えていなかった、彼女は祝詞の代わりにその歌を口ずさんでいたようだった。

彼女は空にその左腕を掲げた。その瞬間、彼女の斜め上、俺から見て彼女の頭の背後にそれは顕現した。それはCD、本、箱詰め、・・・、ナイフ、そして...「やめろッ!」そんな俺の声は水の震えにかき消されて、彼女は片手にその自転車を携えた。そして彼女の左手にはいつの間にか心臓が握りしめられていた。彼女がその心臓を握りつぶし、周囲を垢黒く染め上げた。その瞬間、自転車が白銀の光に包まれた。

~~~

彼は私にその銃を構えた。その姿を見てすべてを理解せざるを得ない私。「あなたは、最初からこの未来を見ていたの?あなたはそもそも私たちの同胞ですらなかったの?どうして、そんな簡単に私たちを切り捨てることができるの?どうしてッ!私はあなたが裏切るなんて思ってもみなかったのに。本当に仲間だって同胞だって思っていたのに...」

彼女のぐちゃぐちゃな面を見て目の前の男は悪趣味な笑みを見せた。そう、まるで彼女の神経を逆なでるように。

「そうさッ!夜見!俺は同胞なんかじゃない。そう、オレは言ってしまえばあれだな。」彼は頭上を指さした。そこには大きな黄金を反射した影があった。そう、それは月だった。「俺は死人さ。お前たちが今を生き、光を自ら放つ太陽とするなら、オレはその光を奪う卑怯者だよ。フフフ。おかしいと思わなかったのかい?どうして、お前たちのトランス能力には一人一人名前がついているのか。お前たちはその能力を前にしたとき、心に自然とその名が湧き上がってきたんじゃないかい。なぁ。夜見、占い好きのお前なら知っているだろう、名前を付けることには大いなる意味があるということにッ!」

*名前、それは生きているということ、そして死ぬということの存在証明。名前があることで初めて事象が対象へと変わり、概念の定義がなされる。そしてその定義が適用されることによって私たちは存在するだけでそこには何かしらの意味が生まれる。そして、名前があれば死そのものはメタファーになり、記憶が生を肯定する。

そして命名には、何人たりとも侵すことのできない新生への歓喜と鮮烈な産声の対比が滲み込められていた。そう、それはまるで神秘と畏怖だった。その超然的な感覚が名前に祈りとして込められる。そう、それはまるで暗示だった。それは祈りとなるか呪いとなるか。それを知るものはもういない...*

「そう、お前たちは今という名のチェックメイトに陥ったんだよ。俺がその名前を付けたのだからな。だが、その名前に込められているのは意味じゃない、罪という名の烙印、まさに呪いだ。そう、これは罰さ。お前たちが自由という名の甘美な罪を選択したことへの罰。そう、これは一度今を捨てたお前たちへと贈る自業自得のギフトなんだよッ!お前たちが求めていたもの、その過程、そしてこの末路。そう、すべてはこの時のために仕組まれた運命だったんだからなッ!」この言葉は私にとって答え合わせのようだった。そう、これは私たちがずっと逃げ続けていた真実を彼の裏切りという最も最悪な形で、私の、いや私たちの前で突き付けられているんだ。だけど、私はあまりにも今から逃げすぎてしまったみたいだ。この真実を前にしても私はこの現実を呑み込むことができない。「ねえ。本気なの?本当に...撃つの?」バンッ!

目の前で彼女が仰向けに倒れる。彼女の額には大きな風穴が開いてそこから流れ出た艶やかな血が周囲を染めていった。

私は薄れゆく意識の中ですべてを憎んでいた。この残酷な世界を、思い通りにいかない現実を、分かり合えない他人を、続かないコミュニケーションで愛想笑いを浮かべているこの私を、現実から逃避してしまったこの私を、この世界に生まれてしまったこの私を、今までのこの私を、私の記憶の中で幸せそうに笑っているこの私をッ!私の感じていた幸せが、この生の末路がこんな絶望なら、あの時、あの場所で死んでしまえばよかったんだッ!あの時が幸せの絶頂だったなんて、そんなこと知りたくなんてなかったんだッ!

~~~

あなたは私を殺して、そして今度こそあなたは自由を掴み取るのよ。「私は唐突なその言葉に何もできず立ち尽くしていた。」あなたには力がある、運命に抗うことのできる力が。「そんなことを言われてもわからないよ。私は悪態をついた。」そう、今はわからなくていい。そして、わからないままでいてよ。そうすればここは、この世界はあなたにとっての天国のままなのよ。あなたは私の代わりに夢を追って幸せに生きて見せてよ。そのために私はあなたに名前を与えたのだから。「その瞬間、あたりに光が満ちていった。その光は白銀の光、その光は私の左耳にかけていたアミュレットから出ているかのようだった。」

続く

読んでくださってありがとうございます。

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