エンカウント
破邪覇道は自称Aランクパーティーである。
大陸の中央、文化の中心、五候国に追い付くため、新興国のアムル公国先代公主『ウルトリィ公』が行った施策の申し子とも言える。
魔獣、魔物が跋扈し、魔境、魔窟の点在する大陸において、文明社会の維持のため冒険者の存在が不可欠である。
小国の場合は、軍がその任を負うことがあるが、国土が大きくなり、魔境に接する面積が多くなるほどに、軍では対応が後手に回り、危険地域に兵士を貼り付ける負担は加速度的に増す。
モンスターハンターとして、未だ新たに領内のあちこちで発見されるダンジョンから噴出し、人里を荒らす魔物を駆除する冒険者と、彼らを支援するギルドの存在は、国の治安維持に効果があり、ギルド規模はそのまま国力を表すとまで言われていた。
ギルドは冒険者の格付けを行い、彼らのランクに見合った仕事を斡旋することによって、自国領土から効率よく魔物の脅威を退け、クエストの格付けは無謀な挑戦で命を落としがちな冒険者を守っていた。
五候国の冒険者ギルドであるならば、冒険者格付けに際し、クエストの成功数や成功率、各所属ギルド長の推薦、パーティー模擬戦や各武術大会の成績など、多角的に審査が行われ、高位ランクになれば『長老連』と呼ばれる各国各町のギルドマスターのさらに上に君臨する、噂によれば候主達ですら頭の上がらない数人の伝説的冒険者の審査を受けなくてはならない。
ところが質はともかく数と位を揃えたいアムル公国は、ウルトリィ公のお墨付きで、各ギルドマスターがフィーリングでライセンスを乱発し、結果、発足即日Aランクなど、とんでもないパーティーが大量発生した。
周辺部族の征伐が一段落し、大規模な兵員削減に迫られての苦肉の策とも噂されたが、アムル公国はこの施策によって、人員数だけを見ると、五候国全ての冒険者ギルド登録者を合わせたのと同規模の冒険者を擁するに至った。
その大量生産された実力の怪しい冒険者パーティーは、アムル国内の狩り場を席巻し、ブエナ山などは、魔物が絶滅する事態となった。
『質だの格だのは圧倒的量の前では意味を持たない』
ウルトリィ公が引退し、息子のヴェステハン公へと代替わりした後も、アムル公国のイケイケ思想は変わらず、あぶれ気味になった多数の冒険者は外貨獲得のために五候国へ『輸出』された。
彼らは、ウルトリィ公濫造世代、略して『U-トリィ世代』と呼ばれた。
圧倒的多数が石ころである玉石混淆の彼らを輸入した五候国冒険者ギルドは、少なからず混乱をした。
特に被害が顕著だったのは要人や商隊の護衛任務である。
格付けを信用し、豪商などがカネに飽かせて雇った高ランク冒険者が、立て続けに護衛に失敗するばかりか、任務中に自らが襲撃する側に変わり、荷物を奪われブチキレた依頼主が冒険者ギルド相手に訴訟を起こす事件が頻発したのだ。
任務にあたった冒険者パーティーを調べると、それは決まってアムル国産U-トリィ世代なのである。
クエスト成功率の低下を重く見た各ギルドマスターは、長老連に指示を仰ぎ、長老連は調査を開始した。
「……で、長老連はアムル公国と国境を接しU-トリィ世代が多数流入している、ここ、イスカンダリアへ来たと」
イスカンダリア公国首府リンドンの城で開かれている朝議は、議長であるイスカンダリア侯フレデインが早々に退出したため、やや弛緩した空気が醸成されていた。
「この記録によれば、当初は、ここリンドンまで足を運ぶ予定だったようですが、途中で魔王近習の生き残りの噂を耳にし、ガウシェン郊外で冒険者の査定をしながら調査をしていたようですな……。この辺りシグマイネン卿の耳には入っておりませんでしたか?」
隣国から出張してきたフダラク冒険者ギルド神官長ハインツは、イスカンダリア侯国冒険者ギルド長、シグマイネンへ視線を向けた。
「……それが、」
「ああ、従者兼馭者を代理に立てて、師匠達はギルドへ顔を出していない。と、報告にありましたからな」
──そこまで判っているなら話を振るんじゃねぇ。
普段温厚なシグマイネンのこめかみに青筋がたつ。
「しかし、『黒きエルダール』? 魔王残党などと。アトミクラの大門は四つとも閉ざされているのに……。そうでありますな、ユーフェン殿。少なくともフダラク、ベルガナッハ、リーングルーベから五候国議会に寄せられる、年一回の報告には、そうありましたが。……そういえばイスカンダリアからの報告はまだのようですな」
戦僧ハインツは居並ぶ出席者の一人、イスカンダリア候国軍司令官、魔法騎士ユーフェンを見据えた。
「確認のため騎士団を派遣したのはつい八日前です。我が国の、正確には旧デール候国が受け持つ南の大門の確認には、あと半月ほどかかりましょう」
こちらもやや不機嫌に、返事が返ってきた。
「その騎士団は件の峠道を通ったのでは?」
「……、そうなりましょうな」
「…………」
ユーフェンの答えにハインツはため息をつく。
──もし、師匠の報告が正しいものだとしたら、その騎士団は帰らないだろうな。
「南の大門。もしかしたら破られているかもしれませんな……」
ハインツの不吉な予言に、会議の出席者は顔を見合わせた。
※※※※※※※※
芳しくない噂の絶えないU-トリィ世代の、自称Aランク冒険者パーティー『破邪覇道』は、峠道で発見したゴブリンのねぐらを探索し、奥に続く迷宮に足を踏み入れていた。
破邪覇道は三人パーティーである。
前衛はキンキラ剣士ことアヴァン・ガルド。
中衛に黒っ娘魔法使いソシエール。
ソシエールのさらに後ろに、暗黒神父パストールが続く。
厳密に云えば、U-トリィ世代冒険者はアヴァンとソシエールの二人で、パストールは二人がイスカンダリア候国のガウシェンに来てから加入している。
彼らもU-トリィ世代のご多分にもれず、実績がほとんど無かった。
ダンジョンでの探索も経験がなく、後衛のパストールが指図をしないと、右往左往するばかりであった。
自然の洞窟は、進むうちに少しずつ人の手で掘られた回廊に変化をはじめ、最終的には几帳面に真っ直ぐ穿たれた坑道になった。
はじめの洞窟部分はオオコウモリの巣だったのであろう。
床は糞や汚れたゴミ、骨片などで足の踏み場もなかった。
悪態をつきながらごみ溜めのなかをしばらく進むと、坑道を遮るように頑丈な鉄格子のフェンスがあり、フェンス中央にはカンヌキの外れた扉がこちら側に開いていた。
「カンヌキはこちら側。奥からの侵入者を防いでいたのか……」
フェンスの扉をくぐり進んだ先の坑道側には、何らかの自浄手段があるのか、さほど汚れてはいなかった。
『「ゴミ喰らい」が巡回しているようじゃ。つまりはこの領域から先は迷宮として機能している。迷宮の主は健在ということになるのう』
「シッ! この先の横道から集団が近付いています」
ソシエールが掲げる杖の先についたオブジェ、精霊人形のミーちゃんが警告を発する。
同時にミーちゃんが、掲げている杖の先で輝く光明魔法を抑えたので、冒険者の周囲は途端に暗くなった。
『ダンジョンパトローラーか? そうだとしたら、そやつらの質でこの迷宮のランクもあらかた知れよう。ここは一つエンカウントと洒落込むべし』
『迂闊だなクープ。警報系の斥候だったら何とする?! 母様の走査によればこの迷宮、かなり大きいぞ。ダンジョンのモンスターが残らず押し寄せてくるやもしれん。昨日の戦闘の生き残りという可能性もある』
『どちらにしたところで手間が省けてよいではないか?』
『兄従僕、兄弟子。どうでしょう。アーゾック戦の時のようにサイレントをかけて突撃と云うのは?』
『『それな!』』
急に暗くなったので狼狽え声を上げそうになるアヴァンとソシエールの口を塞いで黙らせながら、パストールは念話でクープ、デルモンドと方針を協議する。
吸血鬼化した彼の目は、明かりが消えても見えている。
そうでなくても、注意深い者ならば発見できただろう。
残念ながらアヴァンとソシエールは見逃しているが。
坑道の奥、横道から鬼火のような微かな光が揺らめきながら本道側に接近し、本道の壁の一部を照らしている。
カンテラでも掲げているのか、カチャリ、カチャリと、金属の擦れ当たる音もする。
「相手は五体。まだこちらに気付いていないわ。可能性は低いけど、敵ではない可能性もあります。攻撃は相手を見定めてからにしてね」
小声でミーちゃんが告げる。
「仲間を呼ばれると厄介です。私が沈黙呪文を掛けますので、その後に私が『殺っておしまいなさい!!』と言ったら突撃してください」
「…………」
パストールは首から下げていたヒゲのおじさん、多分アムル聖教における聖人か何からしい『聖・ゲロンディクス』の護符を握りしめた。




