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第一話 鬼の猛女隊長

「貴様ァ! そのクソみたいな羽飾りは何だ!!!」


「サー! 母が出征祝いに付けてくれたものであります、サー!!」


「そうか! 貴様の母親は貴様に死んでほしいのか!!!」


「サー! 違います、サー!!」


「貴様は戦場で見世物にでもなるつもりか!!!」


「サー! 違います、サー!!」


「だったら今すぐそのクソ羽根を外せ!!!」


「サー! イエス、サー!!」


 新兵が慌てて兜から羽飾りを引き抜いた。


「貴様らに必要なのは、立派に見える装備ではない! 生き残るための装備だ! わかったか!!!」


「「「サー! イエス、サー!!!」」」


「声が小さい!!! 貴様らのクソみたいな返事は、この訓練場の外まで聞こえんのか!!!」


「「「サー! イエス、サー!!!!!」」」


「わかったらさっさと構えろ!!! 盾を上げろ! 剣を抜け! 前進訓練だ!!! 貴様らのそのクソ鈍い足を、戦場で使えるようにしてやる!!!」


「「「サー! イエス、サー!!!」」」


 怒声が訓練場に響き渡った。


 隊列を組んで前進する新兵たちの脇を、一人の大柄な女が歩いている。身長は六尺に迫り、分厚い首に広い肩、丸太のような腕を持つ。全身は長年の鍛錬によって筋骨隆々に鍛え上げられ、顔には幾度もの戦場で刻まれた古傷が走っていた。


 王国軍第一重装騎士隊長、レオノーラ・フォン・ヴァルツハイム。三十九歳。


 王国最精鋭の重装騎士隊を率い、自ら巨大な大剣を振るって魔王軍の先陣を粉砕する、歴戦の女傑である。


 その戦歴は華々しい。幾多の会戦において最前線に立ち、数え切れぬほどの魔族を討ち取り、彼女が指揮した戦闘は一度として敗北に終わったことがない。しかし、そんな彼女の勇名以上に兵士たちの間で知られているのが、その苛烈な新兵指導であった。


「そこのクソ案山子!!! 貴様の足は地面に生えているのか!!!」


「サー! 違います、サー!!」


「だったら動かせ!!! 敵が貴様の都合に合わせて待ってくれると思うな!!!」


「サー! イエス、サー!!」


「貴様ァ! その剣の握り方は何だ!!! 貴様の手首は敵に献上するために付いているのか!!!」


「サー! 違います、サー!!」


「ならば握り直せ!!!」


「サー! イエス、サー!!」


 容赦のない罵倒が続く。もっとも、その指摘はどれも的確だった。


 重装騎士は、分厚い鎧によって身を守る兵種である。しかし、その重量ゆえに、姿勢や足運びのわずかな誤りが致命的な隙となる。レオノーラは、そうした隙を一つとして見逃さなかった。


 新兵の中には、あまりの罵倒に半泣きになる者もいた。だが、彼女の指導を受けて生き残った古参兵たちは知っている。戦場で泣きながら死ぬより、訓練場で泣きながら怒鳴られるほうが、はるかにましなのだ。


 その苛烈さから、兵士たちは彼女をこう呼んでいた。


 ――鬼の猛女隊長。


 もちろん、本人の前でその通称を口にする者はいない。


 レオノーラ自身もまた、軍人としての規律を徹底していた。無意味な装飾を嫌い、虚飾を嫌い、見栄によって実用性を損なう行為を何より嫌った。


 彼女の身につける黒鉄の重甲冑も、実戦での使用を最優先に改良を重ねてきたものである。飾り気のない、無骨な鎧。それこそが、彼女の誇りであった。


 部下たちは、そんな隊長を心底恐れ、同時に深く信頼していた。


 しかし。


 そんな鬼の猛女隊長レオノーラ・フォン・ヴァルツハイムには、誰にも知られてはならない秘密があった。

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