前島夕陽公園(後編)
前島までのフェリーは意外に短い。
生活の足だからってわけじゃないけど、すぐについた。
「僕は宿でチェックインするので」
「じゃあ私の荷物もよろしくね」
「お任せください」
僕は前島夕陽公園へ向かった。
神戸では山の上から見てたから、今度は丘の上からにしようと思ったんだ。
「カイさん、何やってんの?」
「農作業、手伝いしてる」
「あなたって面白い人ね」
「どうして……よそ者が来たんだから。
何かしてあげないと、おかしいだろ」
「じゃあ、私も手伝う」
僕とヒラノさんはゼーハー言いながら体を動かしていた。
おじいさんとおばあさんのフィジカルに、ついには勝てなかった。
「ヒラノさん、どこ行ってたんですか?」
「そこらへん歩いてたの、バイクないから」
「よくよく考えるとバイク、持ってきても良かったんじゃないですか?」
「そう言えばそうだね、私は基本ノープランだから」
そろそろ太陽が夕日になる頃だ。
それは熱せられたガラス玉になるにつれ、僕たちは静かになって行った。
少し察してくれたのかヒラノさんは少し離れてくれた。
格闘家ってもうちょっと違う印象だったのだけど、
言葉にはない配慮があった。
僕は、僕に背中を向けてくれたヒラノさんと話をしていた。
『ヒラノさん。どうして、ここまで来たんですか?』
『あなたこそ、どうして?』
『私は傷ついたから休みに来たの』
『僕も似たようなものです』
『まだやるの?
一度、あきらめると戻るの大変よ』
『ヒラノさんも、どうして引き止めるんですか?』
『無責任だから、ちゃんとあなたに言えるのよ』
* * * * * *
公園のベンチに腰を下ろして、日記を開いた。
ここの夕日のことが書かれてる場所は……っと。
僕は、あるだろうと思い探してみた。
『せとうち日記』にはこうあった。
せとうちの海に描かれた一筋は、継ぎ合わせた海のよう。
左にあなた、右には私。
同じ方を向いてるけれど、声を頼りに認めあう。
あと何度、見れるだろうか。
あなたと何度、来れるだろうか。
四つ足の上であなたは言うの、いつもいつでもいつまでも。
* * * * * *
「キャベツとカボチャぐらいなのよ」
宿に戻った僕はなぜかカレーを作っていた。
きっかけは前島の名産を企画したいだのなんだのだったかな。
「それなら前島カレーでいいんじゃないですか?」
僕はもう出来上がってたので適当にこたえたら、
ヒラノさんが無責任なこといいだして……
「カイさん、そんな無責任なこと言わないで『前島カレー』作りなさいよ!」
「なーんでみんな、せとうちに来ると語気が強くなるんだよ。
ヒラノさん、簡単じゃないですかキャベツとカボチャを入れるだけです」
「じゃーかーらー、それをどうすんだっつってんの?!
でしょ? 女将さん」
「いやいや、ですから。カレーだってばさー。
みんな作ったことあるっしょ」
「カイ、おめー口動かさずに、手、動かせぃ!」
『前島カレー』の特徴は産品のキャベツとカボチャだ。
みじん切りにしたキャベツとカボチャを圧力鍋で煮るだけ。
もちろん他の具材やカレールーも入れるよ。
水は気持ち少な目にすればいいだけ。
「はい出来上がったよ、食べてみなよ」
ヒラノさんと女将さんは一口、味見した。
「どろっとしてて、良い感じだね
でもなんか物足りないな」
「それなら魚介類を入れればいいんじゃない」
「ああ……なるほど」
「サワークリームかな……でも酸っぱすぎるよな。
ゴーダチーズをトッピングしたら?
女性ってなんでもチーズ入れるでしょ
チーズって少しだけ酸味があるじゃないですか
チーズで塩味を調節できるし」
「本当だ、良くなった。
お肉入れてないのに、食べ応えがある」
「風呂入ってきていいですか?」
「カイさんって料理、向いてるんじゃない?」
「みんなにそう言われます」




