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前島夕陽公園(前編)

「カイ、お前どこまでいきょうるんなら」


広島もそうだけど標準語に慣れてしまうと、

ケンカ売られてるんじゃないかと思うぐらいの勢いがあるんだよね。

これ、せとうちでは普通です。


「今決めたのは前島経由で小豆島です」


「ほうか、ちょっと待っとけ」


叔父さんはバッグに入れてくれた着替えやタオルなどなどを僕に渡し、

誰かに電話をかけてくれた。


「親戚の子が来よってな、アートスポットから土庄でおろしてくれんか?

 おお……ありがと」


長船駅から叔父さんの車で県道39号を走ってもらって牛窓へ。


「叔父さん、ありがとう」


少し、祖父に似て来たけれど、それを言うと機嫌が悪くなるので言わなかった。

僕が身近な人に貯金をとられてしまった時も、何も言わずに車を運転してくれた。

その時に言われたことは普通の人からしてみればクレイジーだった。


『カイ、お前どうしたい』

『もう、お終いです。どうしていいか分からないです』

『ほうか、なら何も言うなよ、誰に何を言われても何も言うな』


何も言うな、その言葉は取られたお金のことは忘れろという話だ。

僕の親や親戚は弁護士を雇うようにアドバイスしてくれた。

多分、勝てたと思うし合理的に考えてそうすべきだった。


どうしてか僕は叔父さんのことを信じた。

お金はとても大事だ、それは本能のレベルで皆が分かる。

でも叔父さんはクレイジーな人だったから違うんだ。

ここも祖父譲りの性格なんだけどね。


あれは夏の暑い日で田んぼの畦焼きを手伝ってる時に、祖父から言われたことだ。

ニヤッと笑いながら。


「カイ、人と同じことしてたらつまらんぞ」


その時は人と同じことっていう意味が分からなかった。

結果、僕は作家っぽいことをして……そして諦めた。

でもどうだろう、この根拠のない自信はどこから来るのだろう。

僕は誰かに守られてて、結局何とかなるってこの年になっても思うのはなぜだろう?


これは、せとうちの凪に近い。

僕みたいなちっぽけな人間がせとうちの海にいだかれた時、その存在はとても小さい。

どんなに辛い気持ちを小さい僕が抱えていても、せとうちの凪は変わることはない。

大きく波打つことがあっても、それは僕みたいなちっぽけな人間が立てられた波じゃない。

せとうちに比べたら僕の悩みなんかは、悩みの内に入らないのだろう。


別にせとうちじゃなくてもいいと思うんだ。

江の島の裏の船着き場から登っていった岩場からでも

丘の上からでも構わない、海を眺めれば大抵のことは凪いで行く。


そうか……根拠のない自信はここから来るのか。

ふと気づいたら叔父さんが話しかけて来た。


「おい、今回はどうしたんなら?」


「連載が打ち切りになって無職になりました。

 九州の実家に帰ってないので東京のアパートを引き払って」


「ちがうわ、お前が四国にいきたいいうんは初めてじゃけんのう」


「日記を受け取って、四国のことが書かれていたから行ってみようかなって

 瀬戸大橋が出来ても結構な値段するじゃないですか行くだけで」


「まあ、気ぃつけいや」


今は知らないけれど瀬戸大橋が出来た頃、その橋を渡るのはお金持ちという

よくわからないイメージを僕は子供の頃持っていた。

急ぐ旅でもないから淡路島や小豆島経由で四国入りしようと思ったんだよね。

今回、叔父さんからのお気持ち表明はなかった。

つまり叔父さんにとっては取るに足らないイベントってことだ。


僕は牛窓で前島行きのフェリーを待つことにした。




*  *   *    *   *  *




ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。


遠くの方からバイクが近づいて来た。

うるさいんだから、もうちょっとマフラーに金かけろ。


そう思いながら……どーして、僕の目の前に止めるの?


知ってるぞ、そのバイクの維持費は二桁越えるだろ!

いるんだよなーお金と時間、持て余している人。



「よっこいしょ」



えー、何でこの広くもないけど狭くもない牛窓で

あえて僕の隣に陣取るんだろう、他人のふりだな……他人だけど。


「ふふん、あなた一人でしょ?」


「いいえ、連れがもうすぐ来るんで」


「私も一人、前島の宿って二人からじゃないと倍払うじゃん

 前島にいる時はこいつに乗せたげるからどう?

 もちろんお互いクリアな関係維持でお願いね。

 男性に本気だされると私手加減できないから」


「ええっと」


「旅は道づれ、相乗り上等!」


「もう好きにしてください」


「宿って予約してるの?」


「はい、夕日を見るので時刻表の関係でここに一泊して

 叔父さんの知り合いの漁船に乗せてもらって小豆島入りしようと思ってるんです」


「地元の人? ならここにバイクおいて一旦さぁ、

 私は牛窓から小豆島行くじゃん」


「はい……」


「んでもって、小豆島で落ちあえたら乗せたげるよ。

 その代わり宿代おごって!もともと二人分払っちゃったんでしょ?」


「まあ、そうですけど」


「よし!それで決まりだね」


「あの、握手苦手なんですみません

 そして僕おしゃべり苦手なんで気にしないでください」


「構わないわよ、私はヒラノ」


「カイです」




*  *   *    *   *  *




その人はスポーツ選手で人を殴ったり蹴ったりして、

勝負を決める種目で頑張っていた人らしい。

理由はわからないけど今は一人旅をしているって言ってた。


「と言うわけなんです、叔父さん。

 はい、そうなんです大型バイクを盗まれないようにしたいんですけど。

 牛窓のフェリー乗り場の納屋はだめですか?

 後で、その方の連絡先をお願いします」


「どうだった?」


「スマホって便利だね。

 いつもこんな感じで旅してるの?」


「いつも、こんな感じで生きてるの」


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