第95話「狙われた基準」
「そこを壊す」
その言葉が、港に重く落ちた。
誰も動けない。
一瞬。
本当に一瞬だけ、時間が止まったように感じた。
そして――
「来るぞ!」
カイナの声がそれを破る。
全員が同時に動いた。
「優先航路の船を出せ!」
「護衛を増やせ!」
「港外へ展開!」
ガルドの怒号。
兵が走る。
船が動く。
エリスはその場に立ち尽くす。
(……間に合う?)
さっき決めたばかりの“中心”。
それが、もう狙われている。
「エリス」
レオンの声。
振り向く。
「優先航路を再確認」
「はい!」
反射的に答える。
頭を回す。
止まらない。
「第一航路、外洋接続」
「第二航路、帝国物資線」
「第三――」
言葉が止まる。
第三航路。
そこに、重要物資が集中している。
「……ここだ」
レオンも同時に言う。
「第三航路を守る」
決断は速い。
「全戦力、集中!」
ガルドが叫ぶ。
船が一斉に動く。
カイナが笑う。
「分かりやすいね」
レオンは言う。
「だからいい」
敵も分かる。
だがそれでも守る。
それが“中心”。
その頃。
海。
第三航路。
数隻の船団が進んでいる。
護衛が周囲を固める。
だが空気は重い。
「……来るぞ」
見張りが呟く。
水平線。
黒い影。
一つ。
二つ。
三つ。
「記録院じゃない……」
ガルドが低く言う。
「船団だ」
ただの情報じゃない。
実体。
「物理かよ……!」
だがそれが答え。
情報で揺らし。
最後は叩く。
シンプルで確実。
「迎撃準備!」
船が隊列を組む。
緊張が走る。
エリスは甲板でそれを見ている。
心臓が速い。
(……ここが)
崩れたら終わる。
その時。
「通信!」
伝令が叫ぶ。
「航路逸脱情報、拡散中!」
エリスの顔が強張る。
「……また」
敵は同時に来る。
情報と現実。
両方。
船員たちが揺れる。
「……危険だって!」
「本当なのか!?」
その瞬間。
隊列が乱れかける。
「崩れるぞ!」
ガルドが怒鳴る。
エリスが叫ぶ。
「聞かないで!」
だが届かない。
内側から揺れる。
(……ダメ)
また同じ。
その時。
レオンが前に出る。
そして。
何も言わない。
ただ。
旗を掲げる。
基準旗。
それだけ。
風に揺れる。
船員たちの視線が集まる。
「……あれ」
誰かが呟く。
「……いつものだ」
見慣れたもの。
変わらないもの。
「……戻れる」
小さな声。
その一言で。
揺れが止まる。
完全じゃない。
だが止まる。
エリスの目が見開かれる。
(……仕組み)
言葉じゃない。
象徴。
それもまた、基準。
「進め!」
ガルドが叫ぶ。
隊列が戻る。
その瞬間。
敵船が突っ込んでくる。
「来たぞ!」
衝突。
金属音。
火花。
戦闘が始まる。
だが今回は違う。
迷いがない。
「押し返せ!」
外洋船が側面を叩く。
分断。
集中。
一隻、撃破。
「まだ来る!」
二隻目。
だが勢いが違う。
基準側が押している。
「……行ける」
カイナが笑う。
レオンは静かに見る。
戦いは短い。
決着は速い。
敵船が離脱する。
完全勝利ではない。
だが。
「守った」
エリスが呟く。
第三航路。
崩れていない。
中心は。
まだ生きている。
その時。
遠くから声。
「来たぞ!」
振り向く。
さらに船が来る。
基準船。
続々と。
「……戻ってきてる」
エリスの目が震える。
流れが戻る。
中心に。
レオンが言う。
「これでいい」
一言。
だがその重み。
戦いは続く。
だが。
「崩れない」
それが証明された。
その時。
遠くの海。
霧の向こう。
あの男が見ている。
静かに。
「……なるほど」
小さく呟く。
「なら」
一歩、闇に溶ける。
「次は“内側”だ」
その言葉。
誰にも届かない。
だが。
確実に次は来る。
外ではなく。
中から。
崩すために。
「中心を守る戦い」が一つの山を越えました。
ですが敵はまだ余力を残しています。
そして次は――“内側”。
ここからさらに一段、厳しい局面に入ります。
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次話、内部崩壊の気配へ。




