第79話「選択の海」
グランデル会議室。
空気は張り詰めていた。
均衡。
それが今の状態だ。
勝っていない。
負けてもいない。
だが――続けば負ける。
エリスが報告する。
「基準航路利用率、微増」
「黒海航路、微減」
ガルドが言う。
「じわじわだな」
カイナが首を振る。
「足りない」
沈黙。
ラグナーは退かない。
黒海も沈まない。
ならどうするか。
レオンは静かに言う。
「決める」
全員が彼を見る。
「何を?」
レオンは答える。
「選ばせる」
エリスが息を呑む。
「またですか」
「今度は違う」
レオンは地図を指す。
黒海航路と基準航路。
その間。
「ここに“交差点”を作る」
ガルドが眉をひそめる。
「危険だぞ」
「だから意味がある」
カイナがニヤリと笑う。
「真正面か」
レオンは頷く。
「どちらを選ぶか」
「その場で決めさせる」
数日後。
海上。
巨大な船団が現れる。
協議会。
帝国。
外洋連盟。
混成船団。
そして――
公開航路。
あえて隠さない。
誰でも見える。
「……来るね」
カイナが呟く。
遠くに黒い帆。
ラグナーも動いている。
黒海艦隊。
同じ海域へ。
両者が向かう先。
交差点。
その海域にはすでに商船が集まっている。
様子見。
どちらへ行くか。
誰も決めていない。
レオンの声が通信で流れる。
「本船団は基準航路を通過する」
短い宣言。
その意味は大きい。
商人たちは迷う。
黒海へ行けば早い。
だが危険。
基準航路は安全。
だが回り道。
その時。
ラグナーの船が現れる。
堂々と。
隠れない。
そして叫ぶ。
「こっちに来い!」
声が海に響く。
「速く、安く、確実に儲かる!」
対するレオン。
通信が流れる。
「安全と再生を保証する」
二つの声。
二つの秩序。
海の上で、ぶつかる。
商船たちは動けない。
選べない。
だが選ばなければならない。
沈黙。
その中で。
一隻が動く。
小さな商船。
震えながらも舵を切る。
向かった先は――
基準航路。
ざわめき。
続いてもう一隻。
そして三隻。
流れが生まれる。
ラグナーはそれを見ている。
静かに。
そして笑う。
「いい」
低い声。
「これで分かる」
目が鋭くなる。
「誰を潰せばいいか」
その瞬間。
黒海艦隊が動く。
基準航路へ向かった船だけを狙う。
選んだ者を撃つ。
恐怖で選択を歪める。
カイナが叫ぶ。
「来るよ!」
護衛船が動く。
海が荒れる。
選択の代償が、目の前で示される。
レオンは海を見ている。
静かに。
「ここだ」
呟く。
「本当の勝負は」
選ばれる秩序か。
縛られる秩序か。
世界は今、
その答えを決めようとしている。
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