第59話「銀の血」
帝都は、まだ煙の匂いが残っていた。
焼け跡の片付けが進む広場。
アレクシスは、簡素な外套をまとい、
再び民衆の前に立っていた。
「鎮圧は終わった」
「だが議論は終わらない」
その瞬間。
空気がわずかに歪む。
――ヒュッ。
細い音。
矢。
銀の羽根。
アレクシスの胸を狙う。
副官が叫ぶ。
「殿下!」
だが皇子は一歩遅い。
矢は肩を貫いた。
血が飛ぶ。
銀の髪に、赤が散る。
広場が凍る。
次の瞬間、兵が動く。
「狙撃だ!捕えろ!」
屋根の上で、白衣の影が跳ぶ。
白炎強硬派。
信仰の名の暗殺。
アレクシスは膝をつく。
だが倒れない。
肩を押さえながら、立つ。
「……止まるな」
かすれた声。
「撃つな」
兵が一瞬迷う。
ヴェルドが現れる。
無表情。
だが目は鋭い。
「鎮圧しろ。ただし過剰は避けろ」
命令は冷静。
だが帝都の空気は変わった。
皇子の血が流れた。
帝国は恐怖で支配してきた。
だが今。
帝国の象徴が、思想で撃たれた。
旗艦へ運ばれる皇子。
医師が矢を抜く。
血が溢れる。
「致命傷ではない」
副官が安堵する。
アレクシスは薄く笑う。
「血は、赤いな」
ヴェルドが静かに言う。
「殿下はご無事です」
「無事ではない」
皇子は息を整えながら答える。
「帝国は、もう戻れない」
沈黙。
その報は、会議場へも届く。
カイナが低く言う。
「世界は、本気だね」
セラフィナは蒼白になる。
「教団は命じていない……」
だが強硬派は動いた。
思想は制御できない。
レオンは静かに立つ。
「皇子は?」
「生存」
その一言で、会議場の空気が変わる。
もし死んでいれば。
戦争だった。
帝国は、容赦なく潰しただろう。
だが生きている。
だから選択が残る。
帝都。
夜。
ヴェルドが皇子の寝室を訪れる。
「恐怖で押さえますか」
静かな問い。
アレクシスは首を振る。
「それでは証明できない」
「何を」
「恐怖以外でも帝国は立てることを」
ヴェルドはしばらく沈黙する。
「殿下は、帝国を変えるおつもりか」
「帝国を壊さずに変える」
難題。
窓の外。
帝都は静まり返る。
だが水面下で何かが動いている。
皇子暗殺未遂。
それは単なる事件ではない。
帝国が“選択”を迫られた瞬間だった。
そして世界は知る。
恐怖の帝国も、血を流す。
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