第57話「皇子の一歩」
帝国旗艦の夜は静かだった。
だが甲板の空気は張り詰めている。
第二皇子アレクシスは、
一人で海を見ていた。
黒い艦隊。
揺れない帝国。
そのはずだった。
「報告です」
副官がひざまずく。
「帝都にて、白炎教団支持者が集会を開きました」
アレクシスの目がわずかに動く。
「利子禁止を求める声が拡大中」
帝国の中心で。
信仰が芽吹く。
恐怖で抑えられていたはずの炎。
「鎮圧命令は?」
「まだ出ておりません」
ヴェルドの判断だ。
揺れを観察している。
アレクシスは静かに言う。
「会議場へ行く」
副官が顔を上げる。
「殿下?」
翌朝。
世界基準会議。
四旗が並ぶ円卓。
そこへ――
帝国皇子が単身で入ってくる。
ざわめきが広がる。
カイロスが眉をひそめる。
ヴェルドは無表情。
レオンが立ち上がる。
「殿下」
アレクシスは静かに言う。
「発言を求める」
沈黙。
「帝国は恐怖で秩序を保つ」
正面から認めた。
円卓がわずかに揺れる。
「だが恐怖は、永遠ではない」
カイロスが低く言う。
「殿下」
「黙って聞け」
初めての強い口調。
アレクシスは続ける。
「信仰は、恐怖の隙間から生まれる」
「利子は罪だと叫ぶ声が、帝都で広がっている」
ヴェルドの目が細まる。
「皇子は何を望まれる」
「恐怖だけでは、帝国は持たぬ」
静かな宣言。
「世界基準会議に、帝国は正式参加する」
会場がざわめく。
カイナが笑う。
「おや、揺れたね」
セラフィナは皇子を見つめる。
「神を否定するのですか」
「否定しない」
「だが国家は神の代理ではない」
その言葉は爆弾だった。
帝国の神格化された秩序。
それを皇子が揺らした。
カイロスが立ち上がる。
「帝国の権威を損なう発言だ」
アレクシスは動じない。
「帝国の権威は、恐怖ではなく尊敬で築く」
レオンの目がわずかに開く。
ヴェルドは静かに観察する。
円卓の空気が変わる。
帝国が、割れた。
「利子再定義案」
アレクシスは言う。
「帝国は検討する」
会議場が静まり返る。
恐怖の象徴が、
“検討”を口にした。
それは歴史的な一歩。
だが。
同時に帝国内で、
火種が燃え上がる。
夜。
帝都。
白炎教団強硬派が叫ぶ。
「皇子は神を侮辱した!」
群衆が集まる。
帝国の中心が、揺れる。
旗艦。
ヴェルドは静かに言う。
「殿下は賭けに出ましたね」
アレクシスは答える。
「世界は変わる」
「変わらなければ、帝国が壊れる」
海の向こう。
四つの旗が風に揺れる。
恐怖。
信用。
流動。
信仰。
そして今。
帝国の中に、
“選択”が生まれた。
戦争はさらに深くなる。
思想は国家を揺らし始めた。
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